アデル『30』、アミーネ『TWOPOINTFIVE』 〜D.O.I.'s ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、アデル『30』、アミーネ『TWOPOINTFIVE』です。

ラウドネス規制後の理にかなった聴こえ方

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アデル『30』(ソニー)

 ラウドネス規制に伴う自動音量調整への意識が高まって久しいですが、その対策が音楽制作の現場で迅速かつさまざまな形で試行錯誤されているように思います。ラウドネス規制で一気に無力化された“マキシマイズでひたすらつぶしまくる”といった手法は昨今ではかなり無くなった印象。代わりに、高域をかなり上げる、音数を極度に減らす、ちょっと聴きづらい感じはギリギリありますが中低域をひずませて情報量を盛る、などの手法が試されていると思います。アデル『30』収録のM②「イージー・オン・ミー」は、かなり高域を派手に仕上げているのと音数が極度に少ないという特徴で、それらがラウドネス規制後の聴こえ方において非常に理にかなっており、ほかの曲と比べ存在感が一際目立っています。この特徴的な高域は好き嫌いうんぬんよりとにかく新しい何かという印象で、とても面白い研究対象でした。

自動音量調整への最適解

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アミーネ『TWOPOINTFIVE』

 アミーネ『TWOPOINTFIVE』収録のM④「OKWME」は、音のすき間を埋める持続音が無く、すべてパーカッシブな音構成かつ音数が極度に少ないという意味で自動音量調整への最適解となっています。一見ローファイ・ヒップホップ系と思いきや、ロックのテイストも十分感じさせる曲調が絶妙で素晴らしかったですし、オールドスクール的なドラム・パターンも好印象でした。高域の別次元の明るさや音数の少なさは、今後ミキシングにおけるEQやコンプ、ノイズ対策などにおいて非常に高い精度が求められているように思います。

 

D.O.I.

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【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している