トリッピー・レッド『Trip At Knight』、Wet『Letter Blue』 〜D.O.I.'s ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、トリッピー・レッド『Trip At Knight』、Wet『Letter Blue』です。

新感覚のビート"Rage Beats"満載のアルバム

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トリッピー・レッド『Trip At Knight』(Virgin)

 ヒップホップ界隈で数カ月ほど前からよく見かける“Rage Beats”という言葉があります。ビートの種類のことで、ドラムやベースはトラップ的であるものの、上モノがシンセ主体でEDM的。8ビット系のニュアンスも多分にあり、少しフューチャー・ベース的な手法も入っています。こう言葉で説明するとあまり新しさは感じないのですが、実際聴いてみるととても新鮮な感覚のビートです。トリッピー・レッドの本作がそのRage Beats感満載で非常に面白いアルバムでした。故XXXテンタシオンがフィーチャリングされた曲もあるのですが、彼の曲にフィーチャリングされていたMatt OXの新曲もRage Beatsだったり、一度気にすると結構新譜の中でも数が多い印象です。良い意味でちょっとチープ、オタク感があって肩肘張らないちょうど良いセンスだと思いました。日本でもPETZの「Endless Rage」がいち早くこのビートを取り入れていて格好良かったです。

コラージュ的配置による先鋭的なミックス

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Wet『Letter Blue』

 ウェットの10月リリース予定のアルバム『Letter Blue』からの先行シングル「Larabar」が素晴らしかったです! ボーカルも楽器もすべてがコラージュ的な配置をされていて、音場的に非常に違和感のあるマニアックで先鋭的なミックスになっています。タイム・ストレッチされ過ぎた感のある処理だったり、カットアップされて分断されたフレーズなどがなぜか切なさのような演出に聴こえて、何とも言えない退廃的で未来的な魅力にあふれた作品になっていました。

 

D.O.I.

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【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している