第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、ミーゴス『Culture Ⅲ』、ロード『ソーラー・パワー』です。
ミックス・エンジニアの圧倒的な技術力を感じる
吸い込まれるようなサウンド
“このミックスはクオリティがとてつもないなぁ”と思って確認するとマニー・マロクィンさんのミックス……。正直“またか”という感じで、このくだりをここ20年くらい何度となく繰り返している感じです。もはや彼はリビング・レジェンドのミックス・エンジニアですが、今回はミーゴス『Culture III』で進化し続ける圧倒的な技術力を感じました。EQの丁寧さ、トランジェントの管理、ダイナミクスのコントロールなど“これぞプロの仕事”で大音量でも耳に痛くなく、かと言って音量を小さくしても地味さはありません。ほどよくギミック的な要素も盛り込んでいて、“変に名人芸的で面白みがない”という感じも全く無いです。スタジオで、解像度の高いスピーカーのATC SCM25A Proを使って音楽を聴くと、変にハイ上がりになっていてうるさいものや、音の量感が無いペラペラなものなど出来の悪いサウンドはとにかくいろいろ気になります。ですが、本作はそういった気になる要素が全くといっていいほど無く、吸い込まれるようなサウンドでした。
一般的な処理とは逆の要素を集めることで
音響に斬新さを感じる楽曲
4年ぶりの新曲となったロードの「ソーラー・パワー」が非常に音響的に面白いです。度を越したアコギの低音感、ドライ過ぎるリード・ボーカル、キーボードの遠さ、良い意味でチープなドラムの質感など、ある意味一般的な処理とは逆の要素を集めることで、新しいバランスになっているのを感じました。アレンジが昔の王道Jポップ的ですらありますが、音響で斬新さを感じる楽曲に仕上がっていると思います。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している