第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、ブルーノ・マーズ、アンダーソン・パーク&シルク・ソニック『リーヴ・ザ・ドア・オープン(ライブ)』、ドレイク『Scary Hours 2』です。
モータウン・オマージュのアレンジ&ミックスだが
周波数のレンジ感が現代的になっているのがミソ
今月は“待望の”リリースが同日にありました。1曲目はブルーノ・マーズ、アンダーソン・パーク&シルク・ソニックの「リーヴ・ザ・ドア・オープン(ライブ)」。こちらは大方の予想を良い意味で裏切り、1960年代モータウン・サウンド的レトロ・ポップス。トラップがアメリカのメインストリームになって以降、ラップのように起伏が少ないメロディのポップスが増えた印象がありますが、ザ・ウィークエンドの『ブラインディング・ライツ』のロング・ヒットの影響もあり、昔のポップスのような分かりやすいメロディが新鮮に聴こえます。
アレンジもミックスも完全にモータウン・オマージュですが、周波数のレンジ感が現代的になっているのがミソ。この方向性で数年前に話題になったリオン・ブリッジズは本当に当時の曲のような質感でした。それと同じぐらいディテールを追い込んでいるにもかかわらず、現代的なレンジ感のおかげでプレイリストで流し聴きしていても、ほかの曲と音像の違和感が無い点が見事だと思います。ボーカルのパフォーマンスもとてつもないので、そこだけでも感動できます。
中毒性があるほぼ展開の無い不穏なシンセのシーケンス
音圧がかなり低い点も今後の基準になりそう
もう1曲はゲストこそ多いものの、久々に本人名義でリリースされたドレイクのEP。こちらも“さすが!”といった印象。M①「What’s Next」が秀逸で、ほぼ展開の無い不穏なシンセのシーケンスのみの楽曲ですが、かなり中毒性があります。ドレイクの倍音ビリビリ声はやはり強烈。音圧がかなり低い点も、今後の基準になりそうで注目でした。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している