WARM AUDIO〜独自のカスタム・トランスを搭載するマイクプリを徹底テスト

WARM AUDIO × tonun&エンジニア佐藤慎太郎〜独自のカスタム・トランスを搭載するマイクプリ

2011年、テキサスを拠点に誕生したWARM AUDIO。ユーザーが入手しやすい価格設定でありながら、高いクオリティを有する機材を発表している音響機器ブランドだ。先月まで2回にわたりコンデンサー・マイクを取り上げた当コーナー。今月からはアウトボードをピックアップし、Vol.3ではマイクプリにスポットを当てて紹介する。テストしてもらったのは、若い世代を中心に支持を集めているシンガー・ソングライターのtonunとフリーランスのエンジニア、佐藤慎太郎氏。実際に使用する中で、二人はその性能をどのように感じたのだろうか。

Photo:Takashi Yashima

WARM AUDIO Mic Preamp Line Up

 WARM AUDIOのマイクプリは豊富なラインナップが用意されており、73シリーズはCARNHILL製のカスタム・トランスが搭載されたモデル。1UサイズのWA73は、マイクプリ機能に特化した1系統の入出力を備える。WA273は2ch仕様で、2UサイズとなったWA273-EQは、2系統の入力にそれぞれ3バンドのEQを実装。ユーザーの求める用途によって選択可能となっている。

WA73|オープン・プライス(市場予想価格:85,800円)

WA73|オープン・プライス(市場予想価格:85,800円)

WA273|オープン・プライス(市場予想価格:148,000円)

WA273|オープン・プライス(市場予想価格:148,000円)

WA273-EQ|オープン・プライス(市場予想価格:198,000円)

WA273-EQ|オープン・プライス(市場予想価格:198,000円)

 WA12 MKII Blackは1系統の入出力で、CINEMAG製トランスを採用。1Uハーフ・ラック・サイズでデスクトップや持ち運びなど場所を問わずに活躍するモデルとなっている。  

WA12 MKII Black|オープン・プライス(市場予想価格:65,800円)

WA12 MKII Black|オープン・プライス(市場予想価格:65,800円)

 次項では、WA73にEQが追加されたWA73-EQと、WA12 MKII Blackの機能拡張モデルとも言える1UサイズのTB12について、レポートをお届けしよう。

耳に痛くない高域のWA73-EQ

WA73-EQ|オープン・プライス(市場予想価格:108,000円前後)

WA73-EQ|オープン・プライス(市場予想価格:108,000円前後)

 今回のマイクプリ・テストでは、オケとしてtonunのバラード楽曲「あなたの季節が」を使って、ボーカルをレコーディングした。佐藤氏はWARM AUDIOをこれまで使ったことがなく、tonunはデモ作りとしてDAWを活用しているが宅録環境にはアウトボードを用いていないとのこと。二人共にWARM AUDIO製品を使用したことはなかったそうだ。

テストの際のtonunのボーカル・マイクには、WARM AUDIOのコンデンサー・マイク、WA-14を使用した

テストの際のtonunのボーカル・マイクには、WARM AUDIOのコンデンサー・マイク、WA-14を使用した

 初めにWA73-EQから。3バンドEQが搭載されているモデルだが、まずはEQをオフにした状態で歌録りを行った。歌い終えた直後にtonunが「うまく言葉じゃ表せないのですが、すごく“かっこいい音”がします」と言うと、佐藤氏が「ひずみのおかげでそう聴こえるんだと思います」と続ける。

 「すごく音楽的な倍音が出ています。ビンテージだと低域が前に出るようなイメージもありますが、それよりも上の帯域にピントが合っている。tonun君のようなハスキーさがある声の場合、低域が出過ぎるとぼやけてしまうので、その点で相性が良いのかなと。ボーカル以外にアコースティック・ギターやクリーンなエレキギターなどでも効果的でしょうね」

 tonunも「芯があるというか、音がぎゅっと詰まっているような印象です。モニターから聴こえてくる自分の声がかっこいいからテンションが上がって、歌っていて自然と気持ちを乗せてくれましたね」と、好感触を得ていた。

 次にEQをオンにして、佐藤氏が普段のボーカル・レコーディングする際と同様に設定して録音。「皆さんにもぜひこういう音で録ってほしいです」と、そのサウンドを称賛する。

 「高域がとりわけ良いですね。高域のEQにとって“耳に痛くない”は最大の賛辞だと考えていて、まさにそれを体現しています。今回使用したWA-14のようなフラットな音像のマイクだと、聴感上ではどこか暗さを感じる部分もあるのですが、見事に補ってくれました。サチュレーション具合との親和性も高いので、現状の録り音に物足りなさを感じている方にぜひ一度試してもらいたいです」

 この話を聞いてtonunは、「自宅でデモを録ってみても、いつも歌がこもってしまうんですよ」と自身の経験を重ねる。

 「後でEQ処理しても音が薄くなる一方で。けれども、WA73-EQでEQを設定して歌ってみたら、抜けも良くて既にミックスした後の歌声のようでした。良い意味のざらつきもあって、一台でこれだけの音が作れるというのは驚きです」

SPECIFICATIONS
●入出力チャンネル数:1 ●マイク入力インピーダンス:300/1200Ω(TONEスイッチで切り替え) ●最大入力レベル:+26dBu ●ハイパス・フィルター:50/80/160/300Hz ●ローバンドEQ:35/60/110/220Hz ●ミッドバンドEQ:360/700/1600/3200/4800/7200Hz ●ハイバンドEQ:10/12/16kHz ●外形寸法:482(W)×45(H)×270(D)mm(突起部を含む) ●重量:4.46kg

TB12は音量を上げてもオケなじみが良い

TB12|オープン・プライス(市場予想価格:87,800円前後)

TB12|オープン・プライス(市場予想価格:87,800円前後)

 続いてTB12をテスト。OPアンプを2基搭載しており、それぞれVINTAGE/CLEANと名付けられた2種類の音色から選択可能だ。最初にCLEANをチョイスして歌録りを行うと、tonunは「声に輪郭が出ますね。割とマイクに近づいて歌っても近接効果が目立たない印象です」と語る。佐藤氏は、「S/Nの優秀さを感じました」と特徴を挙げた。

 「ゲインを50dB近くまで上げてみても、ノイズが気にならなかったです。ウィスパー系のボーカリストでも、問題無く奇麗に録音できるのではないでしょうか。サウンド的には1kHz以下の中域の辺りが前に出て、存在感もありますよ」

 それからVINTAGEに切り替えて録音したところ、「個人的なファースト・チョイスはこちらです」と佐藤氏は言う。

 「やはり中域に特徴があるのですが、VINTAGEの方がサラッとしているというか……より程よい倍音が付加される印象で、ボーカルの音量を上げても悪目立ちせず、オケになじんでくれます。だからこそ一人で歌い上げるような、ボーカルが主役の曲にこそ合いそうだなと。ただポイントは、やはり2つの音色を切り替えられるところですね。後から大きく加工したいならCLEANで、どのパートにもそのまま満遍なく合いそうなのはVINTAGEの方だと思います」

 VINTAGEの音を「優しいですね。自分の声が聴こえすぎるような濃いキャラクターだと歌いにくさもあるのですが、そういうふうには感じませんでした」と評するtonun。両機のテストを行う中で「面白い」と彼が何度も口にしていたのは、WARM AUDIOのマイクプリが、それぞれに固有の特徴をしっかりと有しているからこそであろう。次回はEQやコンプなど、さらなるアウトボードの性能に迫っていく。

SPECIFICATIONS
●入出力チャンネル数:1 ●最大ゲイン:71dB ●入力インピーダンス:150/600Ω(TONEボタンで切り替え)、2MΩ(Hi-Z) ●ハイパス・フィルター:80Hz ●PAD:−20dB ●外形寸法:482(W)×44(H)×152(D)mm(コントロール・ノブを含まず) ●重量:2.95kg

 

シンガー・ソングライターのtonun(写真左)とフリーランスのエンジニア、佐藤慎太郎氏(写真右)

tonun(写真左)
【Profile】甘くスモーキーな歌声を持つシンガー・ソングライター。2020年10月、「最後の恋のmagic」を発表し活動を開始。11月から始まったワンマン・ライブ・ツアーの最終公演を、恵比寿リキッドルームで1月13日に開催(公演延期)

佐藤慎太郎(写真右)
【Profile】レコーディング、ミックス、マスタリングまで手掛けるフリーランス・エンジニア。これまでにSANABAGUN.、Ryohu、TENDREといったアーティストだけでなく、劇伴やCM音楽など幅広い作品に携わっている

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