注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップスタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。今回は、2023年12月にSolid State Logic(以下SSL)から発売された2Uラックサイズの4chプリアンプ、PURE DRIVE QUADを取り上げる。SSL伝統のSuperAnalogueプリアンプに、倍音を付加するDRIVEモードを搭載。USBオーディオインターフェースとしての機能も有する。また、ほぼ同様の機能を持つ8chプリアンプPURE DRIVE OCTOも同時発売されている。その魅力について、ソリッド・ステート・ロジック・ジャパンの松井憲佑氏と、Rock oNの福山智宏氏の言葉から解き明かしていこう。
Photo:Takashi Yashima(※製品パネル全景を除く)
PURE DRIVE QUAD
PURE DRIVE QUADは2Uサイズで、Solid State LogicのコンソールORIGINに採用するSuperAnalogueプリアンプを4系統搭載。フロントパネルには各チャンネルのコントロールが備わっている。それぞれにGAIN、TRIM、ハイパスフィルター(HPF)の3つのツマミと、下段に48Vファンタム電源(+48V)、ライン入力への切り替え(LINE)、インピーダンス切り替え(ZΩ)、プリアンプモードの切り替え(DRIVE)の4つのスイッチを装備。パネルの左には、4ch分のHi-Z/DI入力(フォーン)を装備。右には、スタンバイ、ADコンバーターのサンプリングレート切り替え(RATE)、クロックソースの切り替え(CLK)の各種スイッチ、各チャンネルのレベルメーター(14セグメント)とサンプリングレートとクロックソースのステータス表示を備える。また、最高32ビット/192kHz対応USBオーディオインターフェース機能も搭載している(USBからのアナログ出力は非対応)。
PURE DRIVE OCTO
PURE DRIVE OCTOは、QUADと同じ2Uサイズで8chのプリアンプを搭載(Hi-Z/DI入力はQUADと同様に4ch)。入出力数のほか、ハイパスフィルターが75Hz(−18dB/oct)で固定という点がQUADと異なっている。
●SSLがラックタイプのプリアンプをリリースするのはかなり久々だそうですね。
松井 約15年前に発売した4chプリアンプAlpha VHD Pre以来なので、久しぶりの新作です。SuperAnalogueプリアンプを搭載する単体のハードウェアとしては、そのさらに前に4chプリアンプXLogic SuperAnalogue MIC AMPという、当時のSSLコンソールXL 9000Kシリーズのプリアンプをラッキングしたもなどを発売していました。この度発売したPURE DRIVE QUADの一番のポイントとなるのは、現行のSSLコンソールORIGINのSuperAnalogueプリアンプを搭載し、倍音を付加できる2種類のDRIVEモードを合わせた3種類からプリアンプのキャラクターを選択できる点ですね。
●最新のSSLのモデルが反映されていると。
松井 あと、最高32ビット/192kHz対応のUSBオーディオインターフェース機能が付いている点も大きいです。QUADは4ch、OCTOは8chの入力と、AES/EBUやADATなどのデジタル出力が可能です。ただUSBからのアナログ出力はなく、一般的なオーディオインターフェースのように入力からモニターまで完結するものではないため、シンプルに現在の環境に入力数をプラスする意味合いの方が強い。コンセプトはあくまでもプリアンプなんです。DAWにピュアな信号を取り込むためにUSBが付いているという感じです。
●近年SSLからは、同じく2UサイズのFusion、THE BUS+が登場しました。そういった流れも反映されているのでしょうか?
松井 それもありますね。カラーなどのデザインも統一されています。プリアンプが欲しいというご要望も多かったです。
●実際に店頭でユーザーからそういった声はありましたか?
福山 そうですね。あとは、多チャンネルのプリアンプが選択肢としてそれほど多くないという現状もあります。SSLの製品は信頼感も大きく熱望されていたところもあったので、満を持しての登場だと思います。
●多チャンネルのプリアンプとなると、どのような用途が想定されますか?
福山 ドラムやバンドレコーディングのほか、DAW環境でアウトボードなどを多用される方が入出力を拡張するというケースもあって、その点で4chや8chのプリアンプのニーズは高いです。
松井 キャラクターの異なるプリアンプで録音するために、現状の環境にプラスするというのもあるかなと。QUADはまさにそういったDAWの制作環境向きだと思います。8chのOCTOはレコーディングのほか、ライブでデジタルコンソールとつなげて増設するという使い方もできるので、用途に合わせて選んでいただきたいです。
●では具体的な機能についてお聞きします。SSL伝統というSuperAnalogueプリアンプの特徴をあらためて伺えますか?
松井 音質を一言で表すと、“原音忠実”です。9000Jシリーズ以降のSSLコンソールが持つ、クリーンで透明感があり、低域のスピード感が速いというのが最大の特徴です。
福山 音色が変化しないので、万能的で使いやすいという印象です。その上で、PURE DRIVEシリーズにはDRIVEモードを備えているのがいい。プリアンプのひずみでキャラクターを変化させるのは、近年のトレンドですからね。
●DRIVEモードで選択できるClassic DriveとAsymmetric Driveは、それぞれどのような特性なのでしょうか?
松井 Classic Driveは奇数倍音を、Asymmetric Driveは偶数倍音を主に付加します。ひずませる面もありつつ、ハーモニクスを足すエンハンサー的なものにも発想としては近いです。けれどもあまり難しく考えず、コンパクトエフェクターのように好みの音を作ってもらうのがすごく楽しいと思います。GAINとTRIM、2つのツマミがあるのもそういう点を加味していて、GAINでどれくらいひずませるかを調整した上で、TRIMで音量を上下できるようになっています。
●ツマミとしては、HPF(ハイパスフィルター)もあります。
松井 QUADは300Hzまで連続可変、OCTOは75Hzで固定です。QUADとOCTOの違いは、入出力数以外だとHPFが連続可変か固定かくらいで、できることとしては同じです。また、これら3つのツマミはステップ式になっていて、その点もご要望として多くいただきます。リコールのしやすさなどにおいて、安心感を持っていただけると思います。
福山 L/Rで2ch使って、ステレオで入力するときにも安心です。同じ位置に合わせたつもりでも1〜2dBずれているなんてことはよくありますからね。
●そのほか、各種スイッチはどのような機能ですか?
松井 48Vファンタム電源や位相反転など、一般的なプリアンプに付いている機能は一通り備わっています。あとはSSLの製品にしては珍しく、インピーダンス切り替え機能が付いています(ZΩスイッチ)。12kΩ、1.2kΩ、600Ω、400Ωの4種類が選択できるようになっていて、ダイナミック、コンデンサー、リボンなどのマイクの種類ごとにインピーダンスをマッチングさせるというのが基本的な使い方です。同じ入力ソースでも、切り替えてみるとかなり音が変化します。
●実際にインピーダンスを切り替えたサウンドを聴いてみたところ、パッと聴きでも分かるくらい変わる印象です。
松井 エフェクト的な用途になっていて、その変化も楽しんでいただける大きなポイントになっているかなと。DRIVEの隣にスイッチがあることからも、あえて狙って開発しているんだと思います。
●フロントパネルの左側には、Hi-Z/DI入力(フォーン)が4系統装備されています。
松井 マイクだけでなく、シンセやギターなどの楽器も含めていろいろな楽器に対応している製品であるということの現れです。Hi-Z/DI入力にケーブルを挿すと自動で入力が切り替わるので、リアをすべて結線してラッキングした状態でも、フロントで接続すれば使える仕様になっています。フロントの右側には、レベルメーターやADコンバーターのサンプリングレートを変更するスイッチなどがあります。
●どのようなユーザーにお薦めですか?
福山 本当に幅広い方に向いているかなと。ギタリストの方だと、4chそれぞれに異なるエフェクターをつなげるというぜいたくな使い方もできそうです。実はDI入力が前面に備わっているプリアンプというのも、それほど多くないんです。ギターに限らずさまざまな楽器にも使えそうですし、ライブ用としてもいいでしょうね。価格帯的にもかなりお得です。多チャンネル入力でこれだけのクオリティがあるものだと倍近い価格であってもおかしくない印象なので、コストパフォーマンスも非常に優れていると思います。
松井 プリアンプって本当に用途が多いので、どういう方にというのがなかなか絞れないんですが、PURE DRIVEシリーズについては既存のシステムに追加するというのが念頭にあります。宅録、スタジオ、ライブでも、あれこれと考えることなく拡張できるような設計になっているので、他社製品との組み合わせもスムーズに行えると思いますよ。もともとSSLはコンソールブランドなので、エフェクターやテープのメーカーとのつながりというのをすごく意識して製品を開発してきたところもあって、今回のPURE DRIVEシリーズは特に共存を目指しているところがあります。
●共存もですが、SSLの近年のラインナップを見ると、SSL製品でデスクトップをそろえることもできそうです。
松井 そこもやはり目指しているところになるのかなと。その意味で、今回プリアンプをリリースしたことで最後のピースがはまったと感じています。近年発売しているものも、発売時期に関係なく、“これが必要だから”と選ばれているところもあって、PURE DRIVEシリーズもエバーグリーンに使っていただける製品になっていると思います。
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