こんにちは。作曲家の高木洋です。連載3回目も、引き続きDigital Performer(以下DP)のさまざまなMIDI編集機能についてご紹介します。今回は、主にステップレコードとコピー&ペーストなどのMIDI機能について解説していきます。
テンキーを使ってステップレコードをサクサク操作
DPでMIDIの打ち込みをする際、MIDIキーボードでのリアルタイム録音と、任意の長さに設定したノートを鍵盤で一つずつ打ち込んでいくステップレコードの両方を適材適所で使うことで、効率よくアレンジを進めることができます。それぞれの得意分野はどんなところでしょうか。
まずリアルタイム録音が得意なのは、何と言ってもピアノやオルガンなどの鍵盤系楽器。そのほかシンセメロやストリングスなどの単音系フレーズ、ブラスなどの片手で弾けるコード系フレーズも弾いてしまった方が速いでしょう。逆にステップレコードが得意なものは、それ以外の人間では演奏しづらいフレーズです。機械的なシーケンスフレーズや、ゴーストノートが入るような手数の多いドラム、リズムマシンのスネアやハイハットのロールなども、ステップレコードを活用すれば少ない労力で打ち込むことができます。
DPでステップレコードをするには、スタジオメニュー>ステップレコードを選択します。僕はカスタムショートカットで数字キーの8に割り当てています。
まずはステップレコードウインドウに表示されている9マスのブロックから、4分音符や8分音符などの基準の音符を選びましょう。これらはマウスクリックで選択することもできるのですが、ぜひパソコンのキーボードのテンキーを使ってみてください。この9マスのブロックがそのままテンキーの1〜9に対応しています。
さらにテンキーで選択した場合、複数の音符を同時に選択することができます。つまり基準を付点4分音符にしたい場合は4分音符と8分音符を、複付点2分音符にしたければ2分音符と4分音符と8分音符を同時に選択すればいいわけです。ステップレコードウインドウには付点ボタンも用意されていますが、テンキーを同時押しする方が効率的です。基準の音符が決まったらバシバシ鍵盤で入力しましょう。
また、ステップレコードする音符から、さらに長さを細かく指定したいときは、左側にあるデュレーションの項目を設定しましょう。例えば弦のかけ上がりであれば100%のままでいいですが、8ビートの同音連打するベースなどは80%くらいがいいかもしれません。
ウインドウの右にあるバックステップ、ステップ、ビート、メジャーはそれぞれ入力ポイントを動かしたいときに使います。これらのボタンもテンキーの0、enter、+、−キーにそれぞれ対応しています。つまり、テンキーを最大限に活用できるようになるとステップレコードでの入力が超高速になるのです。ノートパソコンでDPを使用している人も、このために外付けのテンキーを用意する価値がありますよ。
複数種類のペースト方法
ショートカットキーのcommand(WindowsではCtrl、以下同じ)+C、command+Vの“コピー&ペースト”はおなじみの機能だと思いますが、DPではそれ以外にもさまざまなコピー&ペーストがあります。使い分けられるようになりましょう。まずは“マージ”コマンド(command+M)。これはコピー先にMIDIデータがあった場合、それを消さずに重ねてコピーする機能です。例えば一つのトラックにキックとスネアだけのデータがあって、後からそのトラックにハイハットのデータをコピーするときなどに使えます。“ペースト”ではコピー先にあったMIDIデータは消えてしまいます。
次に“スプライス”コマンドです(command+K)。これはコピー先にあるデータをコピー後にずらしてくれるコマンドです。
8小節のピアノフレーズに8小節新たなフレーズをスプライスすると、元にあったフレーズが8小節後ろにずれて、合計16小節のフレーズになります。これと逆の動きをするのが“スニップ”コマンド(command+J)。曲のどこかで8小節をスニップすると、その8小節は削除され、その後ろの部分がすべて8小節分前に移動します。単純にデータを消す“イレース”コマンド(delete)と使い分けましょう。
これら以外に特によく使う機能として“リピート”コマンドがあります。エディットメニューからリピートを選択もしくはcommand+Rを押すとリピートウインドウが表示され、ボックスに入力された数字の回数分ペーストを繰り返すことができます。
例えば2小節パターンのドラムを入力した後、とりあえず曲の最後までコピペしておきたいときなどに使えますね。便利なのは、このときの振る舞いを、先に紹介したペースト、マージ、スプライスの中から選べるということです。
DPではほかのDAWで一般的な“リージョン”(箱ですね)という概念を、必ずしも必要とはしていません。最近のバージョンでは“クリップ”という機能を使ってリージョンを重視する使い方もできるようですが、僕自身はリージョンを用いないDPがとても好きです。MIDIデータは、ただそこのポイントに、その長さであるだけなのです。DPではMIDIノートを直接選択するか、小節、または拍を選択するかで大きな違いがあります。この“ふるまいの違い”を理解することが、DPをうまく使えるかどうかの最大の鍵かもしれません。
今回紹介した数々のコピー&ペースト機能を使う際は、基本的に小節単位、または拍単位でMIDIを選択して使いましょう。MIDIノートを直接選択してしまうとスプライスやスニップ、リピートなどでデータがずれる原因になります。
では今回も、最後にDP上で完成したアレンジをレコーディングスタジオに持ち込む際に用意しなければならないものを紹介します。今回は“クリックトラック”です。いわゆるメトロノームですが、僕は歌でも劇伴でも、自分でクリックトラックを作成してスタジオに持ち込んでいます。作り方は、あらかじめ適当なカウベルの音色をドライな状態で録音しておき、1拍のみを切り分けたオーディオデータとして書き出しておくだけ。クリックには精度が求められるので、トラックを拡大してずれのないデータを作成しておきましょう。あとは曲ができた際にクリックトラックに貼り付け、リピートコマンドで曲の最後までコピーし、頭からマージすれば完成です。
次回は、映画などの映像に合わせた楽曲制作の方法についてご紹介したいと思います。お楽しみに。
高木洋
【Profile】作曲家。アニメ、特撮、ドラマ、映画などの劇伴、ポピュラーソングの作編曲やコンサートでのオーケストラアレンジなど、さまざまな分野で活躍。劇伴では現在放送中の『仮面ライダーガッチャード』をはじめ、『魔法つかいプリキュア!』などのプリキュアシリーズ、『おしりたんてい』『地縛少年花子くん』『千銃士』など数々の作品を手がけている。またアニメの主題歌、エンディングテーマ、キャラクターソングに加え、アーティスト、声優のシングル曲、オリジナルアルバムへの楽曲提供など、歌作品の分野でも活躍中。
【Recent work】
『仮面ライダーガッチャード オリジナルサウンドトラック vol.1』
高木洋
(avex trax)
MOTU Digital Performer
オープン・プライス
LINE UP
Digital Performer 11(通常版):79,200円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:Intel Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)