Jonathan’s Mastering BootCamp 〜Rock oN Monthly Recommend vol.65

Jonathan’s Mastering BootCamp 〜Rock oN Monthly Recommend vol.65

 注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップスタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。今回は期間限定の配信映像コンテンツ、Jonathan’s Mastering BootCampを紹介する。当イベントは、去る2023年11月19日にキング関口台スタジオのコントロールルームにて、世界的マスタリングエンジニアのジョナサン・ワイナー氏を迎えて開催されたセミナーで、そのアーカイブ映像が現在配信にて販売中だ。映像の見どころについて、メディアインテグレーションの竹本裕司氏と、Rock oNの天野玲央氏に詳しく話を聞いていこう。

Jonathan’s Mastering BootCamp

Jonathan’s Mastering BootCamp

価格:9,800円(期間限定配信:日本語字幕付きで、12月28日頃にURLを配布し、約1〜2週間限定の配信を予定)

 2023年11月18日に、キング関口台スタジオにて実施されたJonathan’s Mastering BootCamp。マスタリングにおける基本的な心構えと目指すべき方向性、さらに現代のマスタリングを取り巻く環境について、数多くのヒット作を手掛けてきた世界的なマスタリングエンジニアのジョナサン・ワイナー氏が見解を語っている。15名限定の有観客にて開催された当日のセミナーは、小休止を挟みながら約5時間に及んだ。発売されているアーカイブ配信は、日本語字幕を付け、通訳などをカットして約2時間半に編集している。配信期間は12月28日頃から約1〜2週間ほどを予定(販売は2024年1月4日23:59まで)。貴重な機会を逃すことのないよう、ぜひご覧いただきたい。

◎セミナーの概要、配信の購入はコチラから


●はじめに、ワイナー氏を招いてセミナーを開催したきっかけを伺えますか?

竹本 Inter BEE 2023(11月15〜17日)の開催時期に合わせてジョナサンを日本にお招きして、Inter BEEに来ていただくだけでなく、その週の日曜日にキング関口台スタジオでマスタリングについてのセミナーを実施しました。ちょっとした休憩を挟みながら、全体で5時間に及びましたね。

 

●5時間とは、かなりボリューミーですね!

竹本 ジョナサンは今年の3月にも弊社が招待していて、有償のイベントを開催しました。ただ2時間を予定していたのですが、通訳を挟むと実質1時間強しかボリュームがなくなってしまって。その際にジョナサンからも“十分な時間を取って、伝えたいことを伝えきれるようにしたい”と言われていて、それを実現したのが今回のセミナーです。

 

●ワイナー氏についても教えていただけますか?

竹本 エアロスミスやシカゴ、デヴィッド・ボウイ、ピンク・フロイド、ニルヴァーナといった、伝説的なアーティスト作品のマスタリングを手掛けたエンジニアです。バークリー音楽大学レコーディング科の教授も務めていて、エンジニアリングの技術はもちろん、人に教えることにも長けている。ジョナサンは理論的に、理路整然と分かりやすく説明してくれます。何より彼が、言葉の壁のある日本でもすごく情熱を持って講義を行ってくれる。それが1年に2度お招きしたことにもつながっています。

 

●ワイナー氏は、マスタリングプラグインのiZotope Ozoneの開発にも関わっているのですよね?

竹本 そうですね、Ozoneの開発にも関わっています。どういうツールが必要か、何を視覚化するか、エンジニアのワークフロー的にどうなのかなど、土台となる部分の開発から関わっていたそうです。今回のセミナーでもOzone 11を主なツールとして使用しています。

 

●昨今は自身で制作の完結まで行えるようになり、マスタリングへの関心も高まっているように思います。ユーザーの間ではどのようなツールがよく選ばれていますか?

天野 ソフトウェアだと、OzoneをはじめとするAI的なアプローチや、NectarのフォローEQのように処理ポイントが自動追従するような、従来のツールと耳だけでは到達できないような特殊な処理をしているプラグインがトレンドですね。特に今回のセミナーでツールとして用いたOzoneは、バージョン11になってサウンドが明らかに向上していて評価が高いです。またハードウェアも、2〜3年前からマスタリング用のアウトボードの種類が増えていて、購入される方も多いです。個人でも到達できるクオリティは、ここ数年で確実に上がっていますね。

 

●ツールの進化、種類の増加も大きいと。

天野 OzoneにAI機能が搭載されはじめた数年前までは、ミックスを終えた後はマスタリングエンジニアに依頼するか、どうやったらいいか分からないままとりあえずリミッターで持ち上げるくらいの選択肢しかないという方も少なくなかった印象です。転じて最近では、ミックスからの流れでそのまま作業できるので、こだわってみようという方も増えていると思います。

 

●選択肢が増えることで、その分悩みを抱えているユーザーの方も増えているような気がします。

天野 そうですね。そういった点が、今回のセミナーを受講しようというモチベーションにもつながっているのかなと。

竹本 悩みというよりは、皆さん個性を求めているようにも思います。

 

●それではセミナーの中身についても伺います。開催するにあたって、何かテーマはあったのでしょうか?

竹本 マスタリングの始点から終点までのすべてを見せるというのがテーマでした。彼が今、現役で行っているワークフローを伝えるというもので、事務的な細かいことからクリエイティブな作業の部分まで、トータルパッケージしています。あとは受講者の質問に答えることで学んでいくというのも一つのテーマでした。

 

●始点から終点までと言うと?

竹本 仕事の依頼を受けたときに最初にやることやミックスエンジニアとの関係性、ファイルの形式、最終的なデータのやり取りといった内容ですね。ファイル名の付け方や曲間など、直接音に関係している以外の部分まで内容に含まれています。

 

●そういった点は、なかなか自分で調べても分からなかったり、気づくことができない部分のように思います。

竹本 ジョナサンが冒頭に言っていたのは、ご自身の経験を伝えたいということです。そう思ったきっかけとしては、昨今マスタリングを行う人が増えたことも関係しています。この世界に新しく参入した人たちと同じ目線に立って、彼らが持つ音楽への情熱を引き出すために彼はバークリーでも教べんを執っています。このセミナーはプロだけでなく、何のためにマスタリングをするのか、何を作りたいのか迷いを感じている人にとっても、基準を得られる貴重な機会となっています。

 

●実際に音を扱うマスタリング工程については、どのような講義が行われたのでしょうか?

竹本 彼が手掛けたプロジェクトを題材に、マスタリング工程を振り返りながら実践していきました。最初はグラミー賞にノミネートされたアフロジャズ作品から、3曲をピックアップして進めています。3曲とも同じエンジニア、それもかなり経験豊富な方が録音、ミックスを行っていて、極めて質の高いプロジェクトをどのようにしてさらに輝かせていくのかがテーマでしたね。次に扱ったのが3曲入りEPのロック作品で、録音、ミックスのエンジニアが全員異なり、音量や音質もバラバラです。最初のプロジェクトと違い、マスタリングでより多くの工程が必要な例として紹介しています。レベルをそろえるところから、Ozone 11のEQやマキシマイザーなどのエフェクトを使いながら段階的に解説しています。

会場にはモニタースピーカーとして、当セミナーのために欧米で高い人気を誇るFocal ST TRIO 6 Studioを用意。マスタリングを行うツールには、主にiZotope Ozone 11が用いられた。アーカイブ配信では、ワイナー氏の解説とともに、氏がリアルタイムでパラメーター調整を行う画面も見ることができる

会場にはモニタースピーカーとして、当セミナーのために欧米で高い人気を誇るFocal ST TRIO 6 Studioを用意。マスタリングを行うツールには、主にiZotope Ozone 11が用いられた。アーカイブ配信では、ワイナー氏の解説とともに、氏がリアルタイムでパラメーター調整を行う画面も見ることができる

 

●リリース作品からケースによる違いを例示してくれるというのはすごく豪華ですね。

竹本 その中でも適宜質問に答えながら進めていましたね。あとは、受講者の方が提供したフィルムスコアと三味線を用いたメタル系の曲を題材に、その場でマスタリングの実践も行っています。

 

●受講者からはどのような質問があったのですか?

竹本 マスタリングをどこまでで終えたらいいのかという判断基準や、1曲だけをマスタリングする際はどうするか、日本の業務環境についてなどさまざまですね。先ほども言いましたが、ミックスにもし課題があるとマスタリングエンジニアが感じたときにどうするかという、ミックスエンジニアとの関係性についても触れています。また興味深かったのはエイリアスノイズについてで、多くのプラグインを挿すことでどれだけエイリアスノイズを増やしているかという話もありました。

天野 よくセミナーで質問を募っても誰も手を挙げないという場面を目にしますが、皆さん高い熱量を持って受講されていたので全くそんなことはなかったですね。

竹本 5時間もやっていると、疲れると思うじゃないですか。でも皆さんが長い休憩は必要ない、止めなくていいと。ジョナサンも“みんながいいならやろう”と応えてくれて、最後まで密度の高いセミナーになりました。

受講者に向かって話をするワイナー氏。受講者との距離が近く、質問にも積極的に回答していた。終始穏やかに語りかけるような口調ながら、非常に熱のこもった内容のセミナーとなった

受講者に向かって話をするワイナー氏。受講者との距離が近く、質問にも積極的に回答していた。終始穏やかに語りかけるような口調ながら、非常に熱のこもった内容のセミナーとなった

 

●“特にここを見てほしい”と思う見どころはありますか?

竹本 彼が伝説的なマスタリングエンジニアたるノウハウの部分……EQ処理のポイント設定や判断がとても素早いです。特に後半で、提供いただいた楽曲に対する彼の処理はミックスに介入が必要なマスタリングにおけるケーススタディとなっています。

天野 ジョナサンと同じ画面を見ながら、同じ音を聴きながら作業を体験できるところです。映像を見ながら、同じ素材を用意することはできなくても、似ている曲で処理方法をまねしてみるのも面白いでしょうね。

竹本 ジャンルの振り幅が広いですからね。まねするだけでも十分に価値があります。

 

●今後セミナーが開催される可能性もあるのでしょうか?

竹本 可能性は0ではないですが、同じことをやっても仕方がないなと。ただ海外からゲストの方を招いて定期的にこういった機会を設けるというのは続けていきたいです。

 

●今回のアーカイブ公開は、本当に貴重な機会なのですね。

天野 マスタリングという分野は、役に立つTipsでも、情報源が曖昧だと身に付かなかったり、1回試しても時間がたつと忘れてしまうことも多いかなと。そういう意味では、これほど安心感を持って、自分のものにしていいと思えるセミナーはなかなかないと感じています。

竹本 ジョナサンはリミッターの登場により、音楽の美学やレコードの音は変わったと言っていました。そういった技術の変化は今後も引き続き起きるもので、固定概念に縛られて若い世代をジャッジしてしまうようなアプローチをしてはいけないと彼は考えていました。彼ほど実績のあるエンジニアが、そのような意識でセミナーに取り組んでいることからも本セミナーの魅力や価値を感じてもらえると思います。

 

メディアインテグレーションの竹本裕司氏
Rock oNの天野玲央氏
メディアインテグレーションの竹本裕司氏(写真左)、Rock oNの天野玲央氏(同右)

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