Kenta Dedachi『Kenta Dedachi Acoustic Live"Cozy notes"』〜今月の360 Reality Audio【Vol.15】

Kenta Dedachi『Kenta Dedachi Acoustic Live"Cozy notes"』〜今月の360 Reality Audio【Vol.15】

360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)は、ソニーの360立体音響技術を使用し、全方位から音に包み込まれるようなリスニング体験をもたらす。今回は、シンガー・ソングライターKenta Dedachiの360 Reality Audio作品をピックアップ。360 Reality Audio Liveアプリで配信中の『Kenta Dedachi Acoustic Live"Cozy notes"』の話を中心に、Kenta DedachiとプロデューサーのKOSEN、エンジニア古賀健一氏に、チームで行う360 Reality Audio制作についてXylomania Studioで聞く。

Photo:山川哲矢(ライブステージ)、八島崇 取材協力:ソニー

今月の360 Reality Audio:Kenta Dedachi『Kenta Dedachi Acoustic Live"Cozy notes"』

Kenta Dedachi『Kenta Dedachi Acoustic Live"Cozy notes"』

360 Reality Audio Liveアプリ(無料)での配信楽曲:
「Jasmine」
「Life Line」

 配信リンク 
360 Reality Audio Live

Musician & Producer|Kenta Dedachi/KOSEN

Musician & Producer|Kenta Dedachi/KOSEN

【左:Kenta Dedachi】シンガー・ソングライター。2018年に渡米留学し、インディーズ・デビュー。2022年7月にメジャー1st アルバム 『Midnight Sun』をリリース。大学卒業後、LAで録音した作品を携えて2023年2月に帰国。9月より初の全国ツアーがスタート。Ryu Matsuyamaとのコラボも話題に

【右:KOSEN】作曲家/サウンド・プロデューサー。海外でのレコーディングを経験、グローバルな視点でのサウンド・プロデュースを行う。電子音楽ソロ・ユニットColorful ManningsやRIP SLYME ILMARIとのバンドThe Beatmossから映画、TVドラマ、TVアニメの劇伴制作まで、活動は多岐にわたる

【360 Reality Audio配信中】

Kenta Dedachi『Midnight Sun』(EPIC Records Japan)

『Midnight Sun』
Kenta Dedachi
(EPIC Records Japan)

 配信サービス 
Amazon Music Unlimited
※360 Reality Audio版はスマートフォンで試聴可能です

Engineer|古賀健一

Engineer|古賀健一

【古賀健一】レコーディング・エンジニア。青葉台スタジオに入社後、フリーランスとして独立。2014年Xylomania Studioを設立。これまでにチャットモンチー、ASIAN KUNG-FU GENERATION、Official髭男dism、ichikoro、D.W.ニコルズなどの作品に携わり、商業スタジオやミュージシャンのプライベート・スタジオの音響アドバイスも手掛ける

360 Reality Audioの球体の中に立方体を入れる

 Kenta Dedachiの360 Reality Audio制作をライブ録音から支えるエンジニアの古賀健一氏。ライブ『Cozy Notes』の収録はどのように行われたのだろうか?

 「これまで360 Reality Audio前提で録ったことはなかったんです。会場のSHIBUYA PLEASURE PLEASUREはオーディエンス・マイクを立てる場所がないので、Kenta君を囲むようにマイクを立てて、聴く人が客席ではなく音の中心にいるような音像を狙いました。360 Reality Audioの特徴であるボトム・スピーカーで鳴らすために、Kenta君の周りをバウンダリー・マイク4本で囲んだんです。2階席から1階席に向けてつるしたAmbisonicsマイクでは、オーディエンスの上と下の情報も録っています」

 360 Reality Audio制作は古賀氏が拠点とするXylomania Studioで敢行。その手法について「以前サンレコ(2022年4月号)で紹介した手法のパワーアップ版」と話す。

 「360 Reality Audioの球体の中にNOVONOTES 3DXで作った立方体の8chキューブを入れ込み、2つの音像を組み合わせるイメージです。1トラックにまとめた音を16個のオブジェクトに振り分け、耳の高さに7個、上に4個、下に4個の階層を作っていて、遅延補正も問題なくできます。残り1chは重心を下げるために球体の一番下に置き、低音の声や楽器、バウンダリー・マイクの音もエフェクト的に送りました」

『Kenta Dedachi Acoustic Live"Cozy notes"』の360 WalkMix Creator画面

『Kenta Dedachi Acoustic Live"Cozy notes"』の360 WalkMix Creator™画面。古賀氏は360 Reality Audioの球体の中に、立方体の8chキューブを入れ込むイメージで16個の固定オブジェクトを配置。16個のオブジェクトでは、チャンネル・ベースの概念とのハイブリッドな捉え方で上方に4chの階層、耳の高さに7chの階層、下方に4chの階層を作り上げた。チャンネル・ベースの場合にサブウーファーへ送るチャンネルは最南端のオブジェクトに送るよう設定している。

 空間を作る上ではPAチームとも“コラボ”を行う古賀氏。

 「自分で用意したリバーブも使いますが、FOHとのコラボと考えて、ライブのときにPAで使われるリバーブやディレイも録って使いました。そうすると空間の響きが一致するんです。でもこれはKenta君の歌がうまいからできることですね」

 古賀氏はさらにDedachiの声質を高く評価。

 「Kenta君の声はライブ・ハウスでもスタジオでも、空間の響きを味方に付けるのがうまいから録りやすいんです。空間を包むような声質で、声を重ねるのもうまいし、Kenta君のルーツになっているゴスペルの影響もあるのかなと」

 続けてDedachiが「毎週教会で歌っていたので、響くところで歌うのが好きなんです」と自身のルーツを教えてくれた。

ライブ・ハウスが自分のところに来てくれる感じ

 ライブ版「Jasmine」は、Dedachiが自ら声を重ねて作ったシーケンスと生歌でアカペラ風に披露された。「重ねた声を自分で左右にパンニングなどしたのですが、それを古賀さんが前後左右へ立体的に広げてくれました」と話すDedachi。

 続けて古賀氏がその音作りについて教えてくれた。

 「Kenta君が声だけで作った24trくらいのシーケンスの全パラデータをKOSENさんからもらって配置しました。ライブではアナログのリズム・マシンでシーケンスを再生していたので、もらったパラデータとライブで流した音の空間が合うように揺れを再現したのですが、Kenta君もオケも空間も揺れるので、全部合わせるのはすごく時間がかかりました」

 プロデューサーのKOSENは、「今回のライブは、Kenta君と一緒に曲作りをしたロサンゼルス郊外の部屋の雰囲気で、シーケンスをあえてリズムの揺れるアナログのリズム・マシンで出したんです」と話す。続けて、「古賀さんが作ったのはライブでも聴けない、360 Reality Audio Liveのアプリだけの新バージョンでした」と作品への感動を口にした。

 Dedachiの360 Reality Audio作品を多く手掛ける古賀氏。Dedachiのアメリカ留学中に制作された360 Reality Audio版『Midnight Sun』は、個々の環境で確認を行ったと話す。

 「KOSENさんの部屋には立体音響の再生環境があって、360 WalkMix Creator™も持っているので、データを渡してリターンをもらえるのは安心感がありました。ずっとスピーカーで聴いていると気持ち良くなってバイアスがかかってしまうので、Kenta君にはイヤホンで確認してもらいました」

 『Cozy Notes』の制作や確認作業ではソニーのヘッドホンMDR-MV1も活用。Dedachiは使用した感想をこう話す。

 「軽くて装着感が良いですし、背面開放型なので自分がいる場所の音も少し聴こえつつ、古賀さんが作った音もちゃんと聴こえるので、本当にその世界の中に入っているような“リアリティ・オーディオ感”がありました。密閉型だと自分がライブ・ハウスに入っていく感じですけど、MDR-MV1では、ライブ・ハウスが自分のところに来てくれる感じがします」

ライブ映像を制作する人との相乗効果が楽しみ

 360 Reality Audio Liveでの映像+360 Reality Audioによる配信について、古賀氏は映像班にも期待を寄せる。

 「音にこういう表現方法があることを映像制作する人にもっと知ってほしくて。こんなことができるならこういう映像を撮りたい、こういう映像編集をしたいってなると思うんです。今回は僕にとって最初のKenta君の映像作品なので、これを聴いた映像監督とディスカッションできたらカメラ・アングルも変わると思いますし、その映像に引っ張られて僕らもまた音を作るので、今後はその相乗効果が楽しみですね」

 KOSENはこのチームでの今後の制作にも意欲を見せる。

 「360 Reality Audioを初めて試聴したときも、Kenta君とのプリプロでも“これはもう立体音響に向けた曲を作るしかない”と話すくらいこのチームは積極的で、これまで360 Reality Audioでシングルやアルバム、映画『20歳のソウル』のサントラも作ってきました。Kenta君はパフォーマンスが素晴らしいので、ライブ用の360 Reality Audio作品を作って、その上でKenta君が歌うようなライブをやってみたいです」

 古賀氏もライブに向けた構想を練っているという。

 「360 Reality Audioの『Cozy Notes』は、会場に来られなかった人にももちろん楽しんでほしいですが、ライブに来て感動した人が音源を聴いてまたライブに行きたいと思えたら本望です。今後はライブも含めた“体験”をする場を増やしたいですね。富山のリハスタにイマーシブ環境を構築したんです。今後360 Reality Audio対応のAVアンプも入れて、さまざまなフォーマットが手軽に聴けるようにしたいですね」

 最後にDedachiに、360 Reality Audioの魅力を尋ねた。

 「360 Reality Audioは聴くと新たな体験ができます。今までにない音が作れるし、自分の理想に近いとも言えるリアルな音の感覚は、もっと多くの人に知ってもらいたいです」

Studio|Xylomania Studio

古賀氏が拠点とするXylomania Studio

古賀氏が拠点とするXylomania Studio。モニター・スピーカーはすべてPMC製を採用。耳の高さに9ch、ハイト×4ch、ボトム×5chで構成している

L/C/RはPMC Twotwo.8で、センターはツィーターが中央にある特注仕様。ボトムはtwotwo.6、ハイトはtwotwo.5を採用している

L/C/RはPMC Twotwo.8で、センターはツィーターが中央にある特注仕様。ボトムはtwotwo.6、ハイトはtwotwo.5を採用している

Xylomania Studioでは、計5台のボトム・スピーカーを配置。正面3台のほか、左右にもそれぞれ置かれている

Xylomania Studioでは、計5台のボトム・スピーカーを配置。正面3台のほか、左右にもそれぞれ置かれている

もう1部屋のスタジオは現在改装中。360 Reality Audioも対応予定で、スピーカー台の準備が進んでいる

もう1部屋のスタジオは現在改装中。360 Reality Audioも対応予定で、スピーカー台の準備が進んでいる

360 Reality Audio 公式Webサイト

ソニー製品情報

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