山下達郎が1976~82年に在籍していたレーベル=RCA/AIR。当時のアルバム8枚が、今年5月から毎月、アナログ盤/カセットでリイシューされています。その中から1曲を選び、印象的なコード進行を解説するのが本連載。講師は、山下達郎に多大な影響を受けたというKASHIFです。“達郎節”とも言える、あの独特の響きの仕組みとは? 今回は8月2日に再発された『SPACY』から「LOVE SPACE」を取り上げます。
今月の1曲:「LOVE SPACE」
『SPACY』(「LOVE SPACE」収録)
山下達郎
ソニー アナログ盤:BVJL-94|カセット:BVTL-6
滞空時間の長い9thサウンドの魅力
今回取り上げる楽曲は、達郎さんのソロ初期のサウンド・イメージを決定づけたと言っても過言ではない名曲「LOVE SPACE」。初めて聴いた際、アルバム・タイトルやアートワークまでもが、この曲の音へと結実していくような感動が押し寄せたのを覚えています。神々しいまでの演奏や録音も相まって、どこまでも高まっていく多幸感に引き込まれます。リリースされているライブ音源では、テンポを上げてよりテンション高く演奏されているのも、同曲の魅力がそう導いているかのようで印象的です。
さて、今回はAメロからBメロへの流れを中心に見ていきたいと思います。まずAメロは、D♭のダイアトニック構造の中でE♭m add9→D♭△add9→Fm7(onB♭)→B♭m7と進行します。一見して癖なく下っていくだけの進行に見えますが、個人的にはここに潜在的な特徴を感じています。
一般的な循環進行の感覚だと、E♭m add9の後にG♭△add9(onA♭)へ行きたくなりがちです。ただそうはせず、さらに同曲内の間奏を除いて唯一、2小節間で同じコード進行をキープしています。E♭m add9の滞空時間の長さは、まさに“SPACE”というキーワードと結びつくような冒頭の浮遊感/空間感的な魅力へ強く引き込む力を持っています。対照的にBメロでは、E♭m add9の後に前述したG♭△add9(onA♭)が登場しますが、こちらは解決に向けた道順の支えとして非常に効果的に機能していると言えます。
そのBメロについて。「Paper Doll」や「Windy Lady」などでも見られますが、印象的な展開部でⅣ△7が登場しています。憂いのあるGm7(♭5)を挟み、次に出てくるD♭(onA♭)がドミナント・モーションへ向かう直前の、とても繊細なグラデーションを担っています。このオン・コードの構造は、「Sparkle」Bメロの折り返し部分でも出てきましたが、非常に重要かつ達郎さんらしさを感じるコード使いの一つです。
「LOVE SPACE」はワンコーラス16小節で、そこまで短くはない尺の楽曲でありながらループ性が印象に残ると思っていました。そういった趣向が意図して作られたものであったのだと、今回分析してみて合点がいった次第です。
KASHIF
【Profile】横浜PanPacificPlaya所属。ゼロ年代以降インディーズにおける重要アーティストを中心にギタリストとして好サポートしつつ、サウンド・プロデュースなども行う。2017年にソロ・アルバム『BlueSongs』発売。9/6にリリースされたTOWA TEIのアルバム『TOUCH』ヘギターで参加。