MIDI2.0に対応したポリ・アフタータッチ・コントローラー/キーボード、KORG Keystage。MIDI2.0のプロパティ・エクスチェンジを世界で初めて搭載し、アプリケーションやハードウェアと相互通信することで、本体の有機ELディスプレイでパラメーター名と値が確認でき、8つのノブと連携して制作やパフォーマンスの集中を高めてくれる。Ableton LiveやKORG Gadgetとも強固な連携が可能ということで、今回はLiveユーザーのサウンドプロデューサー/シンガーで、Diosではキーボードを担当するササノマリイに、Keystageの使用感を確かめてもらった。
DAW画面を見なくても操作ができる快適性
「まずこの部屋に入ってきた瞬間に、Keystageのサイドがウッドだ!と思って。全体的なその表面の質感も、高級感がありますね。サイドウッドがあると、昔のアナログシンセのオマージュのようでもあるんですが、でも全体としてはモダンにすごく見える」
そう言いながら、Keystageの前に座り、しばらくキーボードの感触を確かめるササノ。説明書も見ないまま、Settingに入り、ベロシティカーブを調整する。「鍵盤のばらつきが少なくて、弱い音の表現も安定してできますね」としばらく演奏を続けた。
「僕がこれまで触れてきたKORGのMIDIキーボードの中で、一番弾き心地が気持ちいいですね。KORGの鍵盤は、どんなフレーズを弾こうとしたときにも重くないて、軽いタッチで弾けると感じていました。Keystageは、さらにベロシティがすごく安定していて、思い通りのニュアンスで弾けるのがうれしいです」
ノブに対応する有機ELディスプレイにパラメーター名と値が表示できる点がKeystageの特徴だ。
「デバイスのパラメーターとかがノブと連携して表示されるし、トランスポートも連動するのがありがたいですね。トランスポートのボタンもシンプルに一列にまとまってて、このまとまり方がLiveに近い。どうやったらKeystageでLiveを操作できるんだろう?と疑問に持つことがないんです。僕はAbleton Push 3を使っていますが、KeystageはPush 3のようにパソコンの画面を見なくてもコントロールできる感覚がある鍵盤だと思います。ソフトウェアとハードウェアが一致してきたというか、KeystageがLiveとの組み合わせが最適だということなら、KeystageとPush 3の組み合わせも相性がいいと思います」
Keystageにはさまざまなソフトウェアが付属しているが、そのうちの一つ、KORG wavestate native LEは、MIDI 2.0のプロパティ・エクスチェンジに対応する。
「wavestate native LEを起動したら、Keystageも即その表示になってくれる。今までのコントローラーだと、設定をそのソフト用に切り替えて……というステップが必要でした。それでノブの付いたMIDIキーボードを買っても、結局そのノブは使わなくなってしまう。そこがストレスなくできるようになったのは大きいですね」
指が1本増えたような感覚を覚えるアルペジエーターとコード・モード
Keystageにはパワフルなアルペジエーターも搭載。豊富なパターンが用意されている上、アフタータッチやモジュレーション・ホイールなどがトリガーとなるラチェット機能も用意されている。
「アフタータッチで押し込むとパターンが細かくなるようにすれば、トラップのハイハットもすぐ打ち込めそうです」と実際に試してみるササノ。
1つの鍵盤でコードを演奏するコード・モードも用意。12個の鍵盤にそれぞれコードを割り振ることができ、1キーで最大8音を同時に鳴らすことが可能だ。
「アルペジオの設定もコードのエディットも、SHIFTと同時押しでエディットに入れるというのがすごくシンプルで分かりやすい。全部のキーボードでこうしてほしいくらいです。すぐに自分の手足になってくれるのは、制作ですごく大事なところ。今までいろいろな機能を持ったMIDIキーボードはありましたが、やっぱりパソコンで操作した方が早いとなりがちでした。Keystageが、パソコンと自分をつなぐものとして、より有機的になってくれるように思います」
コード・モードには、ギターのようにタイミングをずらして演奏する「ストラミング」機能も用意されている。
「ちょうどAbleton Live 12で、MIDI変形ツールを使ってコードをストラミングのように編集できるようになりますが、“演奏したMIDIデータがストラミングした状態で記録される”のがポイントですね。アルペジオもコードも、DAW側にその機能があっても、Keystageでは自分が演奏しているアルペジオやコードがそのままデータ化されるので、僕のように演奏してMIDIを記録していくタイプのクリエイターには、それを元にエディットしていけるのは大きいです」
ところで、ササノのように鍵盤を演奏できるクリエイターにとって、アルペジエイターやコード・モードはどのように見えるのか?
「基本的に僕はリアルタイム演奏で全部打ち込む形ですが、単純に一つのキーを押すとコードが鳴るって楽しい。実は、昔KORG TRITON taktileにあったコード・モードでそういうアイディアの得方をしていて、それを再現するためにLiveのデバイスでKeystageのコード・モードのようなことを組んだこともありました。ただ、画面上でコードの構成音を設定するのが大変でした。Keystageは設定が簡単だし、その演奏をそのままDAWに記録できるのは便利です」
さらにこう続ける。
「今、ほとんどのDAWでMIDIのさかのぼりレコーディング(編注:録音状態ではなくても、演奏した内容を後からMIDIデータとして画面に反映する機能)ができるようになっています。だから、Keystageとソフト音源で遊んでいて、楽しいと思ったらそのデータをDAWの画面に反映できるわけです。これを使うと、ものすごくカジュアルにコードのメモを取ったりとかもできるし、自分の演奏のライブラリーが増える感じがしますね。今や“スマホが人間の外部記憶になった”という言い方をしますけど、Keystageは指がまるで1本増えるかのような表現の幅を拡張してくれる。だから、これでなにか新しいものを作ってみたいという気持ちになります」
音源はなくても楽器として向き合える
今回、Keystageを目の前に、何の説明もないままにいきなり使いこなしていったササノ。実はそんなに機材の扱いは得意ではないという。
「僕が頭で考えずに使える楽器は、実はものすごく少ないんですね。その一つがAbleton Push 3なんですが、Push 3と同じようにKeystageをスルッと使えたのが、自分でも驚きでした。いつも使い方を覚えなきゃと思うんですが、全く前知識をあえて入れないで、Keystageに向かってみたんです。それでもパッと使いこなせるし、それ以上にこのKeystageは楽しいし、所有欲を満たせるし、何より弾きやすい。僕は買います」
ササノにとってKeystageは、音源こそ搭載していないものの、「楽器」としてその眼に写るという。
「これまでのMIDIキーボードは、個人的には「DAWに入力する装置」という意識でした。鍵盤はついているけれど、入力したデータをDAW側で整えることを前提としたもの、という意味です。一方、Keystageは、音源はないですが、楽器として向き合えるように思えます。鍵盤のタッチもいいし、ノブと有機ELの表示、ボタンの配列、すべてがパッと理解できる。DTMデスクにこだわりたいタイプの人には、絶対マッチすると思います。もちろん名前に"stage"とあるように、ステージ用にもいい。これまで、ステージでソフトシンセを鳴らすのにDTM用のMIDIキーボードを使うことに抵抗があったんです。だから、ステージにフラッグシップのワークステーションを置いても、そこからは音が出ていなくて、単なるコントローラーとして使ったことがありました。でも、Keystageは、本当に今年、僕のステージに置かれることになると思います」
【取材後記】ササノは実際に取材後Keystage-49を購入した。
ちなみに一目惚れしてしまったので既に買いました 49鍵はすでにおうちでメイン鍵盤になってます pic.twitter.com/1soI1wYnob
— Sasanomaly/ササノマリイ@LMS (@nekobolo) January 31, 2024
ササノマリイ
【Profile】耳に残るメロディラインと融合された深度のあるサウンドデザインが特徴的なサウンドプロデューサー/シンガー。人気ゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』への楽曲提供や、さまざまなアーティストへの楽曲提供/サウンドプロデュースを行うほか、3人組の音楽ユニットDiosのキーボーディストとしても活動し、話題を集める。
【Recent work】
『トコシエスタ』
ササノマリイ
(ソニー)
KORG Keystage
サポートされるDAW
- Ableton Live (公式推奨)
- Korg Gadget (公式推奨)
- Logic (*)
- FL Studio
- Cubase (*)
- Studio One (*)
- Digital Performer
- Pro Tools
- Cakewalk
- GarageBand (*)
(*) スクリプトの追加が必要
KORG Keystage製品情報
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