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フィルムスコアリングに適したDigital Performerの機能を紹介!|解説:小林洋平

フィルムスコアリングに適した数々の機能を紹介!|解説:小林洋平

 皆さん、こんにちは。作編曲家でサックス奏者の小林洋平と申します。普段は映画をはじめ、TVドラマやニュース番組のテーマ曲など主に映像関係の作曲を中心に、ゲーム音楽のオーケストレーションなど、アレンジャーとしても仕事をしています。これから4回にわたり、映像に対しての音楽制作の中でどのようにMOTU Digital Performer(以下DP)を活用しているか、その一端をお話していければと思います。最後までお付き合いいただければ幸いです。

一度の操作で別々のタイムスタンプに曲を並べられる“チャンク”

 魅力的で機能もそれぞれ大変に充実したDAWが多数ある中、DPは自分にとって何がメリットかと考えたとき、迷わず“映像に合わせて作曲をする(フィルムスコアリングと呼びます)際に、非常に優れた機能を数多く有している”と言い切ることができます。初回は、どのような機能があるのか、その大まかな全体像から見ていきましょう。

 映画やドラマなどのいわゆる劇伴を制作する際、作品にもよりますが、多くの場合において非常にたくさんの曲数が必要となってきます。映画や単発ドラマの場合は映像の編集が完了してから、スポッティングセッションという“どこからどこまで、どのような音楽を当てるのか”という細かな打ち合わせをして作曲作業に入ります。その中でDPが大きなアドバンテージとなってくれるのが、これまでにも多くの方々が連載で言及してきたであろう“チャンク”の存在です。

チャンクウインドウ。例えば一つの映像作品で使用する楽曲のプロジェクトを、チャンクとしてまとめて管理することができる。画面では“M1”〜“M19”の各曲やそのバージョン違いがチャンクとしてまとまっている

チャンクウインドウ。例えば一つの映像作品で使用する楽曲のプロジェクトを、チャンクとしてまとめて管理することができる。画面では“M1”〜“M19”の各曲やそのバージョン違いがチャンクとしてまとまっている

 総尺で1本化されたもの……例えば2時間の映像作品として、そのファイルをDPに一度取り込みさえすれば、曲ごとにプロジェクトを変えずとも、まとめて数十曲を管理することができます。ワークフロー全体を考えると、効率的にも感覚的にも、とても創作しやすい状況を与えてくれます。

 またデモ段階でのチェックの際、曲ごとに切り離したデモではなく、本編通しでの全体デモを監督やプロデューサーに展開する際にもチャンク機能は便利です。曲ごとのチャンクとは別に、通しで1本化したシーケンスを作り、並べたいすべてのデモをオーディオトラックに放り込み、全体に“オリジナルタイムスタンプへ移動”というコマンドを使えば、一度の操作で全曲が正確な位置に並びます。あとは簡単にバランスをとってセリフと一緒にQTファイルを書き出せば、手軽に全体デモを作成することが可能です。

赤枠が“オリジナルタイムスタンプへ移動”コマンドを実行するトラックで、黄枠は完成形のトラック。上段ではオーディオがバラバラに配置されている赤枠のトラックが、コマンドを実行すると、下段のようにそれぞれのタイムスタンプの位置にオーディオが配置される。アクセス方法は、オーディオメニュー→タイムスタンプ→オリジナルタイムスタンプへ移動、となっている

赤枠が“オリジナルタイムスタンプへ移動”コマンドを実行するトラックで、黄枠は完成形のトラック。上段ではオーディオがバラバラに配置されている赤枠のトラックが、コマンドを実行すると、下段のようにそれぞれのタイムスタンプの位置にオーディオが配置される。アクセス方法は、オーディオメニュー→タイムスタンプ→オリジナルタイムスタンプへ移動、となっている

 連続ドラマのように、いわゆる作曲/選曲型の案件と違って、フィルムスコアリングの場合は曲ごとでシーンに合わせてテンポや展開を構築していくわけですが、重要な要素の一つに“シンクポイント”というものがあります。これはタイムコード上で映像と音楽のタイミングを合わせなければならないポイントのことで、DPでは重要なマーカーに合わせたファインドテンポ機能をはじめ、テンポの割り出し機能や演算が非常に優秀です。これまでに数多くのフィルムスコアを書いてきましたが、中にはシーンの展開が相当複雑なものも多々あり、音楽を映像に合わせていくのが困難に思えるような曲もありました。しかし、タイミングやテンポの割り出しでストレスを感じたことは、正直に申し上げてただの一度もありません。これは驚くべきことで、次回、その有用性の一端を垣間見ていけたらと考えています。

マーカーウインドウのファインドテンポ機能。マーカーを選択し、画面の156〜164BPMなどのように検出したいテンポ範囲(赤枠)などを選択すれば、テンポの候補を複数提案してくれる。筆者がとても有用に感じている機能で、詳しくは次回触れる予定

マーカーウインドウのファインドテンポ機能。マーカーを選択し、画面の156〜164BPMなどのように検出したいテンポ範囲(赤枠)などを選択すれば、テンポの候補を複数提案してくれる。筆者がとても有用に感じている機能で、詳しくは次回触れる予定

“アジャストビート”を使ってフリータイミングでの演奏の譜割を正確に

 ほかにもDPには便利な機能がたくさんあります。例えば、役者さんの絶妙で繊細なリズムを持ったお芝居に対して、その感情の変化に合わせるように音楽を付ける場合、一定のテンポで管理されたバーレイアウト(拍子や小節線の全体構造)ではうまくいかないことも多いです。そこでDPの画期的で素晴らしい機能の一つである“アジャストビート”を使えば、フリータイミングでスコアリングしたデータのコンダクタートラックを、演奏の持つ本来の譜割やテンポに合わせてエディットして、小節線を実際の演奏にピッタリとそろえていくことが可能になります。

上段はフリータイミングで打ち込みを行った状態で、下段は“アジャストビート”を適用後の画面。小節線(グリッド)がMIDIに追従して移動している

上段はフリータイミングで打ち込みを行った状態で、下段は“アジャストビート”を適用後の画面。小節線(グリッド)がMIDIに追従して移動している

 これは実際にフリータイミングで作曲したものを、レコーディング用に譜面を準備する過程でも大変な力になってくれる機能です。

前の画像の作業をクイックスクライブエディターで譜面化したもの。上段からアジャストビートを適用した下段になり、整った譜面になっているのが見て取れる

前の画像の作業をクイックスクライブエディターで譜面化したもの。上段からアジャストビートを適用した下段になり、整った譜面になっているのが見て取れる

 当初からDPの“クイックスクライブ”機能、特にノンクオンタイズ状態での譜面の再現性に関しては評価が高かったと思います。現在はMusicXMLファイルにも対応しており、フリータイミングでのフィルムスコアをアジャストビートし、それをMusicXMLファイルで書き出せば、譜面制作でもかなりの効率化を図ることができます。

DPではさまざまな譜面作成ソフトに対応するフォーマット、MusicXMLファイルを作成可能。ファイルメニューから、出力(画面上は英語表記のExport。以下括弧内同じ)→選択したトラックをMusicXMLで出力...(Score As MusicXML...)を選択すればOKだ

DPではさまざまな譜面作成ソフトに対応するフォーマット、MusicXMLファイルを作成可能。ファイルメニューから、出力(画面上は英語表記のExport。以下括弧内同じ)→選択したトラックをMusicXMLで出力...(Score As MusicXML...)を選択すればOKだ

 実際にレコーディングを行う際、テンポに多少の増減はあるもののほとんど一定だという場合には、クリックに合わせて行えば問題ないかとは思います。ですが、もっと音楽的な揺れが必要なもの……ゆったりとしたロマンティックで美しい曲であったり、リタルダンドやフェルマータなどが多数出てくるような曲でクリックを使用すると、ニュアンスが窮屈になってしまったり、リタルダンドのタイミングが取りづらいといった弊害が出てくることもあります。そんなときに助けになってくれるのが、Punch & Streamer(パンチ・アンド・ストリーマー)という、劇伴などのレコーディングの際に用いられている手法です。

 どういうものか簡潔にお伝えすると、テンポのリファレンスのために画面に開けられた穴(=Punch。テンポがゆっくりだともっと縛りが緩やかなFlutterというのもあります)と、曲の入りや終わりどころ、また合わせるべき重要なシンクポイントに対して、そのタイミングを正確に認識するため画面の左から右に流れるライン(Streamer)のことです。

Punch & Streamerを設定したムービー画面。場面の切り替わりなどのシンクポイントに設定したマーカーに対して、左から右へ流れるラインを表示してカウントダウンするStreamerや、そのマーカー位置で大きな円を表示するPunchを、DPに取り込んだムービーに表示可能。画面ではStreamerは緑色だが、その色の種類も選択することができる

Punch & Streamerを設定したムービー画面。場面の切り替わりなどのシンクポイントに設定したマーカーに対して、左から右へ流れるラインを表示してカウントダウンするStreamerや、そのマーカー位置で大きな円を表示するPunchを、DPに取り込んだムービーに表示可能。画面ではStreamerは緑色だが、その色の種類も選択することができる

 Streamerは、入口が緑で出口が赤など役割ごとにいろんな色を駆使します。これらを総じてPunch & Streamerと呼びます。

 こちらも詳しくは後の回に譲りますが、DPはほぼワンステップでインポートした映像にこれらをオーバーラップさせることができ、さらにはオリジナルのQTファイルに焼き込んだものをエクスポートすることも可能です。映画の録音などでは、ほぼ必須のデバイスとして毎回活用しています。

 このように、ざっと振り返るだけでもDPがいかにフィルムスコアリングに特化したDAWであるかを感じ取っていただけるかと思います。次回以降は各トピックにフォーカスして、みなさんとシェアしていきたいと思います。ぜひ楽しみにしていてください。では今回はこの辺りで。

 

小林洋平

【Profile】東京理科大学で宇宙物理学を学んだ後、奨学金を得てバークリー音楽大学映画音楽科へ留学し首席で卒業。映画やドラマ、報道番組など数多くの作品を手掛ける。主な作品として、映画『52ヘルツのクジラたち』(成島出監督)、『マッチング』『異動辞令は音楽隊!』(内田英治監督)、『繕い裁つ人』(三島有紀子監督)、連続ドラマ W『落日』、NHKドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』、NHK『国際報道』、NHKスペシャル『世界遺産 富士山』などがある。

【Recent work】

『52ヘルツのクジラたち オリジナルサウンドトラック』
小林洋平
(Rambling RECORDS)
RBCP-3527

 

 

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):79,200円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:Intel Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

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