MelodyneでオーディオをMIDI化し、Pro EQ3はほぼ全トラックで活用|解説:Sam is Ohm

MelodyneでオーディオをMIDI化し、Pro EQ3はほぼ全トラックで活用|解説:Sam is Ohm

 皆さん、はじめまして。プロデューサー/DJ/トラック・メイカーのSam in Ohmです。PRESONUS Studio One(以下、S1)は、Ver.2から10年ほど使い続けている愛用DAW。これから4カ月にわたって、S1の好きなところや楽曲制作で役立つ機能などを取り上げていきたいと思います。今回は5月にリリースした初のソロ・プロジェクト楽曲「Hearth (feat. Sagiri Sól & YonYon)」の画面を使いながら、よく使う機能やプラグインなどを紹介していきましょう。

使い続ける理由は操作性の良さとMelodyne

 S1を使いはじめたきっかけは、“音が良い”と評判だったから。当時、別のDAWを使っていたのですが、その音に満足していなかったんです。また、友人がS1を使っているのを見たときに操作が簡単そうだったのも選んだ理由の一つ。デモ版を試してみたら実際に操作しやすかったので、すぐにProfessional版を購入しました。

 それからずっと使い続けていますが、いまだに“操作系が分かりやすい”というところが大きな魅力だと感じています。特にシングル・ウィンドウである点が良いですね。1つの画面ですべてを把握できてしまいます。以前はデュアル・ディスプレイを使っていたのですが、S1ではその必要がないので、今は1つだけです。

 それと、ピッチ補正ソフトのCELEMONY Melodyneとの親和性が高い点も使い続けている大きな理由となっています。ProfessionalにはMelodyne Essential、Studio One Artistにはその体験版が付属しているのですが、ショートカット一発で呼び出せて、すぐにエディット作業に入れます。ショートカットは、Ctrl(Win)/command(Mac)+Mを押すだけ。なお、僕の場合はMelodyne Studioへアップグレードしています。

S1 Professionalにはピッチ補正ソフトのCELEMONY Melodyne Essentialが付属しており、S1上で使用できる。筆者はマルチトラック対応の最上位版、Melodyne Studioへアップグレード済み

S1 Professionalにはピッチ補正ソフトのCELEMONY Melodyne Essentialが付属しており、S1上で使用できる。筆者はマルチトラック対応の最上位版、Melodyne Studioへアップグレード済み

 Melodyneでは、ボーカル・エディットはもちろんのこと、オーディオのフレーズをMIDIデータへ変換する際にも活用しています。例えば、Spliceなどで入手したリード系フレーズをS1のオーディオトラックへ貼り付け、前述のショートカットでMelodyneへ読み込みます。そして、Melodyneのアルゴリズム・メニューで“ポリフォニックサステイン”を選ぶと分析が行われます。最後はオーディオトラックからインストゥルメントトラックへオーディオ・データをドラッグ&ドロップするだけ。これでMIDIノートに変換されるので、インストゥルメントトラックへ好きなシンセなどを読み込んで鳴らせるようになります。

上段のトラックはMelodyneに読み込んだオーディオ・フレーズをMelodyneのアルゴリズム“ポリフォニックサステイン”で分析したトラック。下段のトラックはそれをドラッグしてMIDIデータ化したインストゥルメントトラック

上段のトラックはMelodyneに読み込んだオーディオ・フレーズをMelodyneのアルゴリズム“ポリフォニックサステイン”で分析したトラック。下段のトラックはそれをドラッグしてMIDIデータ化したインストゥルメントトラック

 しかも、実はこの方法なら単音しか扱えないMelodyne Essentialでも、コードをMIDI化できてしまいます。市販のオーディオ・データで使われているコードの構成音を調べたいときにも便利です。

 Melodyneのほかによく使う機能としては、付属のEQプラグイン、Pro EQ3があります。これはほぼどのトラックにもインサートしていて、コンソールで言えばチャンネルEQ並みに多用しています。音に癖がなくて極めてクリーンなので、ピークを削るといった気になる周波数を補正するときに使うのが基本です。動作が軽くて安定していますし、画面の下部に鍵盤の絵と周波数の値が併記されているところも地味に助かるユーザー・インターフェースで気に入っています。

 また、Pro EQ3を複数チャンネルで使うようになったのは、比較しやすい見た目だからです。例えば、似たような帯域で鳴っている2つの楽器のPro EQ3画面をそれぞれ開いて、見比べながら調整していけば、両者の周波数帯域をすみ分けることができます。

「Hearth」で使われている2種類のプラック系シンセを、それぞれにインサートしたPro Q3でイコライジングしてすみ分けを行っている様子

「Hearth」で使われている2種類のプラック系シンセを、それぞれにインサートしたPro Q3でイコライジングしてすみ分けを行っている様子

 続けてよく使うプラグインを紹介しましょう。付属ではありませんが、Professional版の無償アドオンとして用意されているサチュレーターSOFTUBE Saturation Knobも愛用しています。「Hearth」ではサイン波的な音色のコードに使っていますが、曲によっては歌に挿すこともあります。“SATULATION TYPE”で“KEEP LOW”を選ぶと、低域だけひずまないようにできるのが便利。

「Hearth」のサイン波系音色のコードで使用したSOFTUBE Saturation Knob。下のスイッチの一番下が“KEEP LOW”

「Hearth」のサイン波系音色のコードで使用したSOFTUBE Saturation Knob。下のスイッチの一番下が“KEEP LOW”

 僕はベースもひずませるので、ほかのパートの低域もひずませるとすみ分けが難しくなってしまいます。でも、“KEEP LOW”を選んでおけば、高域のチリチリ感だけを得られるのです。この設定で、ひずんでいるのかどうか分からないくらいのひずみ量にするのが肝。ほんの少しだけ音に存在感を持たせたいというときに適します。

 ちなみに、僕はほとんどのパートを少しずつひずませています。そのほうが音が大きく聴こえるので。自分の中ではそういう音が“ハイファイなサウンド”という認識です。現代的な音圧とダイナミクスを兼ね備えたバランスでひずませたいときはプラグインが適していると考えています。

音量のオートメーションはMixtoolのGainつまみで

 再び付属プラグインに戻るとMixtoolもよく使います。位相反転やDCオフセットなどのユーティリティ的なエフェクトですが、Gainつまみがあって、これをフェーダーの代わりにオートメーションしています。フェーダーにオートメーションを書いてしまうと、後から全体の音量を変更したいときに、オートメーション全体を選択して上下する必要があります。これは少し手間なので、起伏を付けるのはGainつまみのオートメーション、全体の音量はフェーダーと役割を分担させると、各チャンネルの音量調整をしやすくなります。

ユーティリティ系プラグイン、Mixtool。音量変化を付けたいときは、このプラグインのGainでオートメーションを下記、フェーダーはトラック全体の音量を設定するのに使用する

ユーティリティ系プラグイン、Mixtool。音量変化を付けたいときは、このプラグインのGainでオートメーションを下記、フェーダーはトラック全体の音量を設定するのに使用する

 最後にもう一つよく使う機能を。それは“トラックを複製(完全)”です。右クリック(Mac:control+クリック)で開くメニューにあるのですが、例えば、これをインストゥルメントトラックで使うと、音源、MIDIイベント、インサート・エフェクト、センドなどを簡単に複製できて、あっという間にレイヤー用のトラックを用意できます。「Hearth」ではサブベースを作った後に、人間味のようなものを加えたいと思い、そのトラックを複製して、音源をピッキング系のベースに入れ替えました。さらに、複製してスラップの音源を使用したトラックもレイヤーしています。MIDIイベントは3トラックとも同じですが、不要なノートは削除して3種類のベース音色が出入りするフレーズを作っています。基本はサブベースですが、一部はスラップになっていたりするわけです。

「Hearth」で使用した3種類のベース・トラック。一番上がサブベース、2番目がピッキング系、3番目がスラップ系。これらは最初にサブベースを作ってから、赤枠の“トラックを複製(完全)”して音源を差し替えた

「Hearth」で使用した3種類のベース・トラック。一番上がサブベース、2番目がピッキング系、3番目がスラップ系。これらは最初にサブベースを作ってから、赤枠の“トラックを複製(完全)”して音源を差し替えた

 今回はよく使うエフェクトや機能を中心に紹介しましたが、次回からは曲作りのTipsをメインに紹介していきたいと思います。それではまた来月。

 

Sam is Ohm

【Profile】独自のヒップホップで知られるプロデューサー/DJ/トラック・メイカー。ZEN-LA-ROCKのバックDJとして、TV番組『フリースタイルダンジョン』に出演。現在は人気シンガーKick a Show、シンガー・ソングライターMALIYAなどのプロデュースを務めるほか、倖田來未やKEN THE 390らのリミキサーとしても知られる。

【Recent work】

『Hearth (feat. Sagiri Sól & YonYon)』
Sam is Ohm

 

PRESONUS Studio One

Studio One 6

LINE UP
Studio One 6 Professional日本語版:52,800円前後|Studio One 6 Professionalクロスグレード日本語版:39,600円前後|Studio One 6 Artist日本語版:13,200円前後
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーもしくはAPPLE Silicon(M1/M2チップ)
▪Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーもしくはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBのハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPIを推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要

製品情報

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