プラグイン・エフェクトのシーンにおいて質量ともに大きな存在感を放つブランドWAVESが、AIサーチ機能搭載のミックス・アシスト・システム/オンライン・プラットフォーム、WAVES StudioVerseをリリース。ここでは、ボカロPのMitchie MにStudioVerse/StudioRackをテストしてもらい、使用したチェインを分析/レビューしていただきました。また、今回特別にオリジナル・チェインをStudioVerseにアップしてもらったので、ぜひお使いください!
クオリティの高いサウンドをすぐに作ることができました
今回使ってみたチェイン:Female Lead Vocal
“かゆいところに手が届く!女性リード・ボーカル向けプラグイン・チェイン”
StudioVerse画面
StudioRack画面
上の画面がFemale Lead VocalをロードしたWAVES StudioRack。RACKセクションには、上からEQのWAVES Renaissance Equalizer、マルチバンド・コンプのWAVES C4 Multiband Compressor、コンプのWAVES Renaissance Compressor、ディエッサーのWAVES DeEsser×2、ボーカル・プロセッサーのWAVES Greg Wells VoiceCentric、EQのWAVES V-EQ4、そしてリバーブやディレイ、ダブラーなどを格納したParallel Splitを備えている。
ワンクリックでロードして聴き比べできる
今回は、普段使用している歌声合成ソフトにStudioVerse内の人間用ボーカル・チェインを使ってみます。Scan機能を試すと、女性ボーカル用のプラグイン・チェインFemale Vocal Chainがトップに上がってきました。StudioVerse上では、各チェインをワンクリックでロードして聴き比べできるので便利。Female Vocal Chainを選んだ理由は、いきなりクオリティの高いボーカルを作れたからです。具体的には芯のある太い声になり、つや感も出て、オケ中でも聴きやすいサウンドになりました。
このチェインを細かく見てみると、一番上の段にはEQのWAVES Renaissance Equalizerが使われています❶。125Hzでローカットを入れつつ、400Hz付近でカット、8kHz付近にブーストが入っています。つまりボーカルにとって余計な帯域をカットし、聴き取りやすい帯域をブーストすることで音抜けを狙っているのでしょう。
2段目にはマルチバンド・コンプのWAVES C4 Multiband Compressorをインサート❷。ここでは耳に付きやすい帯域の2kHz付近を抑えるように設定してあります。洋楽の女性ボーカリストは日本人と比べて重心が低く、落ち着いた力強い声が多いので2kHz付近になっているのでしょう。
後段には、WAVES Renaissance Compressor❸。これは純粋にコンプとして挿さっているだけです。スレッショルドがデフォルトでは0.0dBになっているので“ユーザーの好みでリダクション量を決めてね”ということだと思います。
そして4段目と5段目には、ディエッサーのWAVES DeEsserが連続して入っています❹。両者が異なる点は、Frequencyのパラメーターです。片方が7,000Hzで、もう片方が10,000Hzとなっていますね。これは自分の見解ですが、英語のボーカルは歯擦音がかなり多いので、それで2段掛けして細かくディエッシングしているのでしょう。
マクロに複数のパラメーターをアサイン可能
6段目は、ボーカル・プロセッサーのWAVES Greg Wells VoiceCentric❺。画面中央にあるINTENSITYノブを回すと、倍音を強調して力強い声にする効果が得られます。デフォルトでは6割くらいかけられていますね。
RACKセクションの7段目にインサートされているのは、EQのWAVES V-EQ4❻。100Hzに設定されたLFゲイン・ノブがMACROセクションのBASSノブに、6.5kHzに設定されたHFゲイン・ノブがTREBLEノブにアサインされています。V-EQ4はビンテージEQのモデリング・プラグインなので、全体的に太い音になる傾向があるでしょう。
V-EQ4では、自分が使用する歌声合成ソフトの声に合わせていろいろとカスタムしました。3.9kHzを4dBブーストすることでアニメっぽい声の成分を強調し、第一倍音となる390Hzも2dBブーストしています。ただし、この390Hzを上げすぎると声の抜けが悪くなるので、ほどほどにするのがポイントです。シェルビングEQで6.8kHz以上を2dBブーストしていて、これは声の空気感を少しだけ強調するためです。
最後の段には、並列処理を可能にするParallel Split❼。スロット1は空で、スロット2にリミッターのWAVES L1 Limiter、スロット3にコンプのWAVES Renaissance Axxがあります。これら2つにおけるスロットのセンド・レベル・ノブはMACROセクションのENERGYノブにアサインされているため、ここでボーカルの押し出し感を得られるのでしょう。
続くスロット4にはリバーブのWAVES TrueVerb、スロット5にはディレイのWAVES H-Delay、スロット6にはダブラーのWAVES Doublerと空間系エフェクトが並びます。スロット4にはTrueVerbの後段にRenaissance Axxが入っているので、リバーブをより強調することができます❽。
最後のスロット7にはマルチバンド処理を可能にするMultiband Splitがあり、400Hz〜4,000HzにWAVES GTR3付属のひずみ系プラグイン、OverDriveが入っています❾。スロット7のリターン・レベル・フェーダーがMACROセクションのCRUNCHノブにアサインされているので、ここでサチュレーション的な効果を演出することが可能です。
このチェインを使うコツは、EQポイントだと思います。デフォルトでは海外の女性ボーカル向けに設定されているので、ここを調整するとより良い効果を発揮できるでしょう。
自分が気に入ったのはマクロ・ノブです。複数のパラメーターをアサインできるため、マルチエフェクト設定が簡単に行えます。あと、StudioVerseで有名なエンジニアのオリジナル・チェインが使えるのはすごくありがたいです。憧れる海外アーティストの曲を手掛けたエンジニアさんの名前を調べ、StudioVerseで検索してその方のチェインを試してみるという使い方を、皆さんもやってみてほしいですね。ビギナーからプロまで、幅広く活用できるシステムだと思います。
使ってみよう! Mitchie Mのオリジナル・チェイン
歌声合成ソフト向けに作成したチェインです。特別なことをやっているわけではないのですが、自分がこれまで培ってきたボーカル処理の経験をここに詰め込んでいます。例えばマクロのEQ Hi Gainノブには、2/4/8kHzという3つのEQポイントをアサインしているので、ノブ一つ回すだけで抜けの良い声にすることが可能です。もちろん、ご自身が使用するボイス・ライブラリーによって微調整することを忘れずに。隠し味は、リバーブにエキサイターをかけているところです!
Mitchie M
【Profile】2011年にリリースした『FREELY TOMORROW』が、VOCALOIDを使った楽曲としては当時最速の100万回再生を達成。また安室奈美恵『B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU』で作詞と調声を手掛けるなど、調声技術に定評がある。
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