Hybrid Engineを徹底解説! その魅力を生かすPro Toolsシステム構築例

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スタジオ標準であり、音楽家にとって一番身近なDAWであるAVID Pro Tools。以前よりPro Tools|HDXとして、HDX DSPを使ったシステムがプロ・エンジニアを中心に使われてきていたが、今年になりそのシステムに大きな変革が訪れた。HDX DSP搭載オーディオI/OのPro Tools|Carbonで採用されていたHybrid Engineが、Pro Tools|HDXシステムにも導入されたのだ。HDX DSPとコンピューターのCPUを組み合わせ、これまでに無いほどのPro Toolsのパワーを引き出すことに成功している。ここではHybrid Engineについて詳しく解説するとともに、その魅力を生かすAVIDシステム・セットアップを紹介しよう。

Photo:Takashi Yashima

Pro Tools バージョン2021.6 でアップデートされた機能群を紹介

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Point 1:M1 Mac/Big Sur(macOS 11.5)に対応

 Pro Tools | First/Pro Tools/Pro Tools | Ultimateが、APPLE M1プロセッサー搭載Macで動作することが可能に。Rosettaを介することで、AVIDプラグインやAVIDコントロール・サーフェスはBig Sur(macOS 11.5)に対応している。

Point 2:ダーク/クラシック・テーマのカスタマイズが可能

 ユーザー・インターフェースの色や明度を自由に変更できるようになった。設定をプリセットとして保存しておき、後から呼び出すことも可能だ。また、Pro Toolsを再起動せずともダーク・テーマとクラシック・テーマの切り替えが行えるようにもなっている。

Point 3:I/O&トラック&ボイス数が増加

 ネイティブ環境で使用できるI/Oとトラック、ボイス数が大幅に向上。Pro Tools|Ultimateでは最大2,048ボイスに対応した。これにより、HDXシステムでもHybrid Engineモード時はHDXカード1枚の場合でも最大2,048ボイス対応となった。

Point 4:ビデオ・コーデックH.265/HEVCを追加

 低ビット・レートでも高品位な画質を保てるビデオ圧縮コーデックのH.265/HEVCがPro Tools|Ultimateで使用できるようになった。そのほか、バウンス時のQuick Timeチャンネル・フォーマット拡張などのビデオ機能強化が施されている。

Point 5:サイド・チェイン時に自動で遅延を補正

 Hybrid Engineにより、HDXシステムでのみ可能だったサイド・チェイン時の自動遅延補正がPro Tools/Pro Tools | Ultimateでも可能となった。サイド・チェインでのトラック同士をしっかりとシンクさせることができる。

Hybrid Engineの魅力とは?

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 Pro Tools 2021.6のアップデートの一番の目玉がHDXシステム上でのHybrid Engineモード対応。HDX DSPとコンピューターのCPUを同時に使用でき、Pro Toolsの処理性能を大きく向上させるシステムとなっている。多様なアーティストが新たな音楽を作り出す中、そのHybrid Engineによるパワーが彼らの制作の可能性を押し広げるだろう。Hybrid Engineを生かせるAVIDハードウェアも紹介するので参考にしてほしい。

DSPとCPUのパワーを融合

 既に発売されていたオーディオ・インターフェースのPro Tools|Carbonで初めて導入されたHybrid Engine。HDX DSPとパソコンのCPUのパワーを効率良く使い、今まで以上の処理能力を得ることができる。System UsageにもCPUメーターが実装されているので、その稼働率を確認することが可能だ。

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 これまでPro Tools|Ultimateでは、HDXカード1枚につき256ボイス、最大で3枚のHDXカードを使用して768ボイスを扱えていた。しかし、現代ではサラウンド/イマーシブなど多チャンネルでの音楽制作も多くなり、膨大なボイス数を扱う機会が増えている。場合によっては、トラックをまとめるなどしてボイス数を節約するなど工夫をしなければ、768ボイスで足りなくなるケースもあり得た。しかし、Hybrid Engineではボイス管理はCPUベースで行える仕様となり、2,048という3倍近くのボイス数を扱えることとなったため、そういう心配も減るだろう。HDXカードが1枚だったとしても扱える最大ボイス数は変わらないのも特徴だ。

対応するI/O数は維持

 バージョン2021.6より、Pro Tools、Pro Tools|Ultimate共にネイティブ環境時の最大オーディオ入出力数が64chになった。ただし、HDXシステムではHybrid Engineモードを使った場合でも、これまで通りI/O管理はHDXカード上のFPGAで行うため192chまで拡張可能となる(カード3枚使用時)。

AAXプラグインをフレキシブルに活用できる

 これまでPro Tools上のエフェクト処理を中心的に担っていたHDX DSPがHybrid EngineによってCPUパワーを制約無しで使用することができるようになったため、AAX DSPプラグインをより効率的に活用することが可能だ。トラックには雷マークのDSPモード・ボタンがあり、それをオンにすることでそのトラックにインサートされているプラグインはHDXカード上で実行されるAAX DSPプラグインとなる(DSP版が無いプラグインはバイパスになる)。

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 雷マークをもう一度クリックすると、元のAAXネイティブ・プラグインへと簡単に切り替えることが可能。レコーディングではレイテンシーを抑えるためにDSPモードをオンにし、録音後はオフにするなど、効率的にプラグインを使っていくことができる。また、これまでのHDX DSPエンジン使用時に生じていた、特定のトラック状態でネイティブ・プラグインを使用した際のラウンド・トリップ処理によるボイス消費という課題が解消された点も、ボイス数を効率良く管理したいDolby Atmosミックスを行うユーザーには朗報だ。

Hybrid Engineを生かすAVIDシステム・セットアップ

 Pro Tools|MTRX or Pro Tools|MTRX Studio + HDXカード 
〜ハイエンドなオーディオI/OとHDXカードの組み合わせ〜

 2UサイズのPro Tools|MTRXは、モジュラー式で好みの仕様にカスタマイズできるオーディオ・インターフェース。8枚までの拡張カードを組み込むことができ、アナログ入出力(最大48ch同時入出力)と、AES/EBUやDante、MADIなどのデジタル入出力を追加可能。DanteやMADIを使用することで、アナログ入出力以外に、外部Dolby Atmosレンダラー(RMU)に対して128chでの接続が可能となる。また、DigiLinkコネクターを2系統備え、2つのPro Toolsシステムから1台のPro Tools|MTRXを共有することができ、同じくDigiLinkコネクターを2系統備えたDigiLinkオプション・カードを追加することで、さらに複数のPro Tools | HDXシステムを追加接続することも可能だ。

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Pro Tools|MTRX

 Pro Tools|MTRXの性能を受け継ぎながら、1Uサイズとスリムな筐体となっているPro Tools|MTRX Studioは、モジュラー式ではないものの、備わっているDante入出力で最大64イン/64アウトに対応する。Pro Tools|MTRXおよびPro Tools|MTRX Studioはスピーカー・キャリブレーション機能を有しており(MTRX用はオプション・カード)、Dolby Atmosのスピーカー・セットアップを簡単に行うことができるのも特徴だ。MTRX、MTRX Studioを使用するにはHDXカードが必要なので、最低1枚は導入しておこう。

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Pro Tools|MTRX Studio

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HDXカード

 

 Pro Tools|Carbon 
〜Hybrid Engineを初めて実現したHDX DSP内蔵オーディオI/O〜

 Hybrid Engineの先駆けとなったAVB接続のオーディオ・インターフェース。カスタム設計されたFPGAと8つのHDX DSPを搭載しており、HDXカードを備えていないコンピューターの環境でもAAX DSPプラグインを使用できる。FPGAはオーディオのルーティングを、HDX DSPはAAX DSPでのリアルタイム・プラグイン処理を行い、常に1ms未満の超低レイテンシーでモニターが可能だ。

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フロント・パネル

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リア・パネル

 ビット/サンプリング・レートは最高32ビット/192kHzに対応。マイクプリは8基がスタンバイしており、126dBのダイナミック・レンジを持つパッドレス設計となっている。4系統のマイクプリとフロント・パネルのインスト・インはインピーダンスを変えることが可能だ。モニター・セレクターやトークバック機能も備えている。

 

 また、標準付属ソフトとしてPro Toolsのほか、さまざまなAAX DSPプラグインや、サチュレーションを加えられるHEATオプションが加わっているのも魅力だ。アナログ入力×8系統とインスト入力×2系統、ヘッドフォン・アウト×4系統を搭載しており、バンド・サウンドの録音も十分に行える仕様となっている。

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本体のスイッチで切り替えできる3系統のモニターと、4系統のヘッドフォン・アウトのソースは、Pro Tools上から設定が行える。ほかにも、本体上のスイッチの機能アサインや、トークバックのレベル、DIMのレベルも調整可能

Pro Tools|Carbonの期間限定プロモーションが実施中!

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 2021年12月31日(金)までの期間、Pro Tools | Carbonを購入して新規登録すると、約30万円分に値するANTARES Auto-Tune HybridとPro Tools | Ultimate永続ライセンスが無償提供される。

プロモーションの詳細はこちら:

製品情報

【特集】Hybrid Engineが解き放つPro Toolsの真価

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