宅録やDTMに最適なペアで約5万円以下のモニター・スピーカー全9モデルを、音楽クリエイター/ギタリストのShin SakiuraとエンジニアのSUI氏が徹底レビュー! ここでは、ADAM AUDIOのT5Vを紹介します。
ウーファー+ツィーターで計70Wの出力。聴く位置による音像のブレを抑えた設計
ウーファーに50W、ツィーターに20WのクラスDパワー・アンプを搭載し、計70Wの出力を誇る。ツィーターがリボン状になっているのがこのスピーカーの大きな特徴で、広い表面積を確保することでダイナミック・レンジを広げ効率良く空気を振動させ、クリアな高域再生を実現するとのこと。同社最上位機と同じウェーブガイド(ツィーターに取り付ける部品)を採用し、広いエリアで安定したブレの少ない音像を実現しているという。高域、低域それぞれを補正するEQスイッチを背面に備える。
Point
- ウーファー口径:5インチ
- 入力端子:XLR、RCAピン
- その他:リボン状の独自ツィーターでクリアな高域を再生する
SPECIFICATIONS
●形式:2ウェイ・アクティブ・スピーカー ●スピーカー構成:5インチ径ウーファー+1.9インチ径ツィーター ●周波数特性:45Hz~25kHz ●外形寸法:179(W)×298(H)×297(D)mm ●重量:5.7kg/1台
低域の分離感が良くボーカルはリアルに聴こえる 〜Shin Sakiura
T5Vは、ハイエンドのモニター・スピーカーのような音がします。周波数レンジが広く、低域のボリューム感はちょうどいい。またベースとキックの分離感も良いので、当然ベース・ラインがくっきり見えるし、キックでは胴鳴りのする50Hz付近がよく見えるので、リリースの処理もしやすいと思います。中〜高域も含め、全体的にバランスのいいスピーカーです。
印象的だったのは、ボーカルがとてもリッチな音に聴こえ、まるでプロのスタジオ環境で聴いているような音がしたということ。ボーカルの口の動きや喉の使い方といったところまで、とてもリアルにイメージできました。同じくシンセ・アルペジオでも、一音一音が奇麗に聴こえます。とにかく音質がクリアなので必要以上に音量を上げなくていいし、過剰なEQ処理も防げるので、T5Vは最高だなという印象です。耳に痛いピークも感じないため、長時間の作業にも向いているでしょう。テンションの上がるサウンドと冷静にジャッジできるサウンドのちょうど中間で鳴らしてくれるT5V。レコーディングから作曲、編曲、ミックスまで、音作りにこだわるすべてのユーザーの強力な味方になると思います。
高域から低域まで音のつながりがなめらか 〜SUI
自分は以前、ADAM AUDIO A3Xを愛用していたのもあって“聴きなじみのある音だな”というのがファースト・インプレッション。やはり独自技術であるリボン式のU-ARTツィーターが最高ですね。25kHzまでの高域が再生可能な上、周波数帯域における変な偏りも少ない。そして耳に痛いピークもないので、本当に奇麗な高域が鳴ります。
低域に関しては、バスレフ・ポートがリア・パネルに備わっているためか、適度なロー感を得られます。そしてローエンドまでよく見えますね。中域の表現力は豊か。リバーブ・テイルを最後まできめ細かく見ることができるでしょう。ミックス・エンジニアとしては“仕事がはかどるスピーカーだな”と思いました。また、内蔵DSPによって制御されたクロスオーバーが優秀なためか、高域から低域までの音のつながりが非常に滑らかになっている印象です。
奥行き感やステレオ感といった空間の広がりが大きいので、とにかくモニターしやすく、このクオリティでペアで5万円以下なのはびっくり。ボリュームを大小変えても音像が破たんすることがないため、本当に実用的なスピーカーです。
レビュワー紹介
Shin Sakiura
東京を拠点に活動する音楽クリエイター/プロデューサー/ギタリスト。2015年より個人名義でオリジナル楽曲の制作を開始。バンド・サウンドからヒップホップ、R&B、エレクトロまで広い音楽性を持ち、自身の作品制作のほか、SIRUPやアイナ・ジ・エンドなどの楽曲制作や海外アーティストとのコラボと活動は多方面にわたる。ギター、ベース、サンプラーなどさまざまな楽器を駆使したライブ・パフォーマンスも注目を集めている。
Recent Work
『WILD CHILD feat. brb.』
Shin Sakiura
(PARK)
SUI
エンジニアのほか、リミックス・ワークも手掛ける音楽クリエイターとしても活動。ギターやベースなどの演奏からプログラミングまでを一人でこなすマルチプレイヤーでもあり、その柔軟なプロダクション・スタイルはメジャー/インディーズ問わず定評がある。近年では作曲家として劇伴音楽にも携わり、ますますその活動の場を広げている。セミナー講師としては自身の技術を惜しみなく講義することも多く、業界内での信頼も厚い。
Recent Work
『WATW “ing”』(『Honey, You!』収録)
WATWING
(トイズファクトリー)
※作編曲/エンジニアリング
試聴環境
今回試聴を行った場所は、多目的スペースである御茶ノ水RITTOR BASEだ。スタジオ内には、一般的な部屋を想定して6畳ほどの空間を用意。そこに簡易デスクとスピーカー・スタンドを設け、モニター・スピーカーを配置した。ここで2人のレビュワーに、リファレンスとなる楽曲を再生したりDAWを立ち上げて作業したりして、全9モデルのスピーカーの性能をチェックしていただいた。