モニタースピーカーとは?〜選び方や設置方法をエンジニアが解説

モニタースピーカーとは?〜選び方や設置方法をエンジニアが解説

宅録/DTMに最適なモニタースピーカーをクリエイターとエンジニアのレビューで紹介する特集「はじめてのモニタースピーカー選び」。ここでは、モニタースピーカーを自宅環境に導入するにあたって気になるであろうポイントを、エンジニアのSUI氏に解説していただく。“そもそもモニタースピーカーって何?”といった根本的な疑問から、実際に自宅でモニタースピーカーを設置する際のお悩みまで、順番に解決していこう!

モニタースピーカーって何?

音をできるだけ正確に再生するためのスピーカー

 音楽を再生するためのスピーカーは、大きく2種類に分類することができます。

リスニング用のスピーカー
音楽制作用のスピーカー

 一つは“リスニング用のスピーカー”。これはBGMを再生するためのものです。家や車のスピーカーのように、低域や高域が誇張され、音楽が心地良く鳴ることが重視されているものや、店内のスピーカーのように、低域の迫力や高域の派手さを切り捨ててより広い範囲に音が届くように設計されているものなどがあります。

 もう一つは、今回のメイン・テーマである“モニター用のスピーカー”。これは、主に音楽の制作現場で使うことを目的としたものです。完成前の楽曲には不要な周波数帯域や演奏ミス、作者が望んでいないノイズなどが含まれていることがあるので、それらを適切に処理する必要がありますし、一つ一つの音がどのようにかかわり合っているのかを確認しなければなりません。そこでモニタースピーカーは、“実際に鳴っている音”をできる限り正確に再生する必要があります

 この目的を達成するために、多くのメーカーがモニタースピーカーを開発するのですが、製品によってアプローチの仕方が異なり、音の特徴に違いが生じます。自分が作りたい楽曲や、制作環境に合った製品を選ぶ必要がありますね。

各部の名称と役割

 一般的なモニタースピーカーは、正面から見ると上下に円が2つ並んでおり、これらをスピーカー・ユニットと呼びます。さらに、下部のユニットは“ウーファー”と呼ばれ、音楽のほとんどの帯域はここで再生されます。上部のユニットはツィーターと呼ばれ、これは主に高域の再生を担当します。この2つで音楽を再生するものを一般的に“2ウェイ”と呼びますが、1つのユニットですべての帯域を再生する“フルレンジ”と呼ばれるタイプのスピーカーもあります。

2ウェイ・スピーカー
フルレンジ・スピーカー

 また、スピーカー本体の下部や後ろ側に穴が空いていることがあります。この穴は“バスレフ・ポート”と言い、おおよそ80Hz以下の、音というより空気の振動に近い超低域を補強する役割を担っています。ダンス・ミュージックなどの低音を重視した楽曲の制作には、バスレフ・ポートを搭載しているものが向いているでしょう。

スピーカーの選び方

Point 1:アクティブ・スピーカーを選ぶ

 現在モニタースピーカーとして一般的に販売されているものの多くがアクティブ・スピーカー(別名:パワード・スピーカー)です。これは、スピーカーを駆動するためのパワー・アンプが内蔵されているもので、コンピューターを直接、またはオーディオ・インターフェースやミキサーを介してつなげば、すぐに音を出すことができます。パワー・アンプを内蔵しないパッシブ・スピーカーというものもありますが、別途パワー・アンプを選ぶ必要があり価格も高くなるので、手軽に音楽を作りたい方にはアクティブ・スピーカーがお薦めです。

 パワー・アンプには、クラスA、B、AB、Dの4種類あり、駆動方法が異なります。クラスAは小音量でクリアに鳴らすのが得意で、クラスBは大音量の再生に向いています。クラスABは小音量のときはAとして、大音量ではBとして駆動します。クラスDは比較的効率的良くパワーを出すことが可能です。気にしすぎる必要はありませんが、参考までに覚えておくとよいでしょう。

Point 2:適度に低域、高域が強調されるものを選ぶ

 モニター用のスピーカーとして使用することを考えれば、できるだけ均一な周波数バランスで再生されることが望ましいと言えます。しかし、皆さんの主戦場になるであろう宅録環境では、スピーカーのポテンシャルをフルに発揮して聴けるシチュエーションは少ないのではないのでしょうか。その理由の一つが、等ラウドネス曲線にあります。ごく簡単に言ってしまえば、音量を下げると低域と高域が聴こえづらくなるという人間の耳の特性のことです。ここから逆算すると、ある程度小さな音量で鳴らすことを想定した“均一な再生”のためには、適度に低域と高域が持ち上がった特性が必要なのではないかと筆者は考えます。

等ラウドネス曲線。各周波数の音が感覚的に同じ大きさに聴こえる音圧レベルを結んだもの(単位はphon)。例えば、1000Hzの音を20phonで聴くためには20dBの音圧レベルが必要だが、100Hzの音を同じ音圧感(=20phon)で聴くためには40dB以上、10kHzの音の場合は30dB以上の音圧レベルが必要になる

等ラウドネス曲線。各周波数の音が感覚的に同じ大きさに聴こえる音圧レベルを結んだもの(単位はphon)。例えば、1000Hzの音を20phonで聴くためには20dBの音圧レベルが必要だが、100Hzの音を同じ音圧感(=20phon)で聴くためには40dB以上、10kHzの音の場合は30dB以上の音圧レベルが必要になる

設置のポイント

Point 1:壁から30〜60cm離して設置する

壁から30〜60cm離して設置する

 まず気を付けるべきなのは、スピーカーと壁や床との距離。スピーカーから出る音のエネルギーは正面だけでなく、全方向に発せられます。スピーカーの背面にもエネルギーがいくので、スピーカーと背面の壁の距離が近いと共振しやすくなります。低周波の方が物に共振する力は強いため、低域が壁全体から発せられるようになり、結果として低音がモサッと聴こえるような状況になってしまいます。部屋が狭かったりすると壁の近くにスピーカーを設置せざるを得ない状況もあるので、低域に問題を感じたらこのことを思い出してみてください。原則的に30~60cm程度スペースをとるのが良いです。ただし、メーカーによっては壁の近くに設置することを織り込み済みで設計している製品もありますので、メーカー・サイトやマニュアルを確認することはとても大切です。

Point 2:リスニング位置は正三角形になるように

リスニング位置は正三角形になるように

 設置場所が決まったら、リスニング位置を決めます。リスニング位置は、2台のスピーカーと自分の頭が上から見て正三角形になる状態が望ましいとされています。正三角形よりもリスニング位置が内側になるとヘッドフォンのような聴こえ方になり、外側になると水平方向の音の位置関係(=定位)が曖昧になる傾向があります。

 また、スピーカーは少し内側に向けることでリスニング位置への音の集まりが良くなります。良い角度を求めて調整しましょう。

Point 3:ツィーターが耳に向かうようにする

 最後にスピーカーを設置する高さを決めていきます。高さを自由に変えられる場合は、ツィーターの位置が耳の高さになるように設置し、高さを自由に決められない場合は、ツィーターが耳に向かうように角度を調節しましょう。

ツィーターが耳に向かうようにする

 スピーカーに傾斜をつけるために使用する土台は、必ずしも専用のものである必要はありません。ホーム・センターなどに売っている円柱の形をした真鍮製の台座や三角木材、制振ゴムなどを活用するとよいでしょう。材質によって少なからず出音に影響が出るので、いろいろ試してみるのがお勧めです。

モニタースピーカーの接続方法

 一般的なアクティブ・スピーカーの場合、ケーブルでミキサーやオーディオ・インターフェースのライン・アウトとスピーカーのライン・インをつなぎます。接続端子には、XLR、TRSフォーンのバランス接続端子と、RCAピン、ステレオ・ミニなどのアンバランス接続端子があります。

バランス接続端子とアンバランス接続端子

 バランスは3種類の信号を、アンバランスは2種類の信号を伝送する方式。バランスは外来ノイズを打ち消すことができるので、より安定した伝送が可能です。原則として同じ規格の入出力に接続しますが、バランスはバランスへ、アンバランスはアンバランスへと接続していれば、ケーブル両端の端子の形状が変わっても問題ありません。

もっと音を良くする方法

重みがあって高密度なスタンドを使う

 スピーカーのポテンシャルを最大限引き出すために一番重要なのは、振動するウーファーやツィーターのパワーを損失無く空気の振動に変えることです。空気の波は共振によって複雑に重なり合うと、打ち消し合ったり変に増強されたりしてしまいます。スピーカーの筐体やスタンド、スタンドを設置した床などが共振してしまうと、音のパワーが失われたりゆがめられたりするので、望ましい土台は密度が高く質量が大きいもの(=振動しにくいもの)になってきます。“究極の土台は地球”などといった真面目な冗談もあるくらいですが現実的には難しいので、できるだけ重みがあり、高密度のスピーカー・スタンドを使用すると、よりスピーカーのポテンシャルを発揮することができるでしょう。

インシュレーターを活用する

 近年では、土台の重さや密度ではない、別の考え方のツールも出てきています。それがインシュレーターです。インシュレーターは、スピーカーとスタンドや机の間に挟んで使用するツール。スピーカーが生み出す振動エネルギーを吸収もしくは押し返すことで、机やスタンドの天板に伝わる振動を軽減させることができます

インシュレーター

 市販のインシュレーターには非常に高価なものがありますが、それが求める音に効果的かどうかは試してみないと分かりません。専用のものを購入しなくても、クッキーの缶に砂を詰めたり、十円玉を置いたり、週刊誌を重ねてギュウギュウに縛ったり……アイディア次第でさまざまな改善が期待できます。まずは宅録ならではのアイディアフルな環境を目指してみてはいかがでしょうか。

 インシュレーターの設置方法による影響についても説明しておきます。スピーカーとインシュレーターの接地部分は面積が小さいほど不要な振動が伝わりにくくなるので、面接地より点接地、4点支持より3点支持が推奨されています。また、3点支持の方が4点支持よりも比較的重心のバランスが取りやすいです。ただ、3点支持か4点支持か、には諸説あるので、最初は好みで良いと思います。これから紹介していくスピーカーは重量が重くないものばかりですので、まずは3点支持で検討すると良い結果を生みやすいでしょう。


 モニタースピーカーの音は複数の要素が入り混じって作用することで変化します。したがって“決定的なスピーカーの設置”となると非常に難しいのですが、自分に合った環境は割と見つけやすかったりするので、ここまでの解説を念頭にいろいろと試してみましょう。

 

SUI

SUI
作曲、トラック・メイクからボーカルのディレクション、ミックス・ダウン、マスタリングまで手掛ける作家/プロデューシング・エンジニア。近年は劇伴やCM音楽にも活躍のフィールドを広げている。

宅録/DTMに最適なペアで約5万円以下の9モデルをレビュー!

関連記事