エンジニア目線の「Ozone 10活用術」を福田聡が語る

エンジニア目線の「Ozone 10活用術」を福田聡が語る

Ozone 10はプロ・エンジニアにとっても手応えあるクオリティ。仕事で愛用中のエンジニア福田聡氏が、従来のモジュールに加わった新機能と新たなモジュールを語る。

【新機能】MaximizerのMagnify Soft Clip

新機能 MaximizerのMagnify Soft Clip

“最後の1~2dB”を追い込める

 ピークをならしてくれるエフェクトです。今回のアップデートで最も気に入りました。最高です。僕はミックスの延長でマスタリングまでお引き受けすることもあるのですが、これまで“最後の1~2dB”を上げたいときに低域がリミッティングされすぎてしまい、試行錯誤することがあったんです。それを素早く解決する手段として、Magnify Soft Clipが素晴らしい。実際に、直近のマスタリングで一番活躍しています。

 Magnify Soft ClipはL(ライト)、M(モデラート)、H(ヘビー)の3つのモードを備え、個人的にはMがちょうど良いあんばい。音がうまく“面”になって分厚く聴こえるし、きらびやかさも出てきます。20~30%の設定で使うのが良いと思いますね。使用するタイミングは、マスタリングの最後の最後でもう一押しレベルを入れたいとき、もしくはミックスの仕上げの段階が良いでしょう。最初からMagnify Soft Clipを入れてミックスしていると、キックや歌を上げたいときに、思ったように上がらないようなことが起こり得るからです。

 バージョン10のMaximizerは、IRC(Intelligent Release Control)にも進化が見られます。前バージョンではIRC II~IVをよく使っていたのですが、新しいIRC IIIは高域に特徴が出て、IRC IVは上下の伸びがさらに良くなった印象です。個人的には、IRC IIの音が最もまとまり良く感じられました。音が太くなりつつもっさりとはせず、上下のレンジ感も間延びしない程度の広さだと思うのです。IRC Iも印象が良くなり、元の質感をあまり変えたくないときに活躍しそうです。

【新モジュール】Impact

新モジュール Impact

トランジェント制御で低域のパンチもお手のもの

 4バンドのエキスパンド/コンプレッションを手軽に行えるエフェクト。トランジェント・コントロール系です。画面左の各帯域のスライダーでは、0より上でエキスパンド、0未満でコンプレッション的な効果が得られ、その下のEnvelopeスライダーでは、主にリリース・タイムが変化します。

 第一印象としては、2ミックスの低域に有用。例えばキックのアタック感を強めたいとき、EQでブーストするとベースの余韻まで持ち上がる場合があります。そこでImpactを使ってみると、打点感を際立たせつつ、余韻の長さをキープするような処理がいとも簡単に。結果、“すき間感”ができるので、グルーブが分かりやすくなります。設定も簡単で、強調したい帯域を0以上にして、Envelopeを短めの数値に。個人的には、初期設定の1/16(リリース・タイム=16分音符の長さ)くらいが気持ち良いと思います。

 同様のアプローチを一般的なマルチバンド・コンプでやろうとすると、パラメーターが多いので技術を要するでしょうし、Impactでサクッと処理できるのは良いと思います。またM/S処理も可能なので、Midを強めるような設定にすれば、センターがより際立ったパンチのある音が得られそうです。なお、エキスパンド方向に効果を深めると全体の音量が上がるので、オート・ゲインをオンにしておく方が使いやすい。このオート・ゲインも精度が高く、自動の音量制御をきっちりとこなしてくれます。

新モジュール Impact

 Imapctはコンプレッションにも効果的。例えば“ちょっとシャキシャキしているな”という音に挿して、中高域のスライダーを下げればマイルドにできます。iZotopeの製品らしく、とにかくアタックへの反応が良いので、数あるトランジェント系プラグインの中でも指折りだと思います

【新モジュール】Stabilizer

新モジュール Stabilizer

躍動感を与えるダイナミックEQ

 Stabilizerとは“一定に保つもの”という意味で、プリセット・ジャンルに合わせてリアルタイムにEQする様は、まさに名は体を表すといった感じ。例えば“Hip-hop”を選ぶと、初期設定のShapeモードでは60Hz以下が持ち上がって、サブベースの効いたトラップを思わせるバランスに近づきます。

 2ミックス、メイン・ボーカル、アコギ、ドラムなどに試したところ、すごく好きになってしまい、特に2ミックスに関しては躍動感やスピード感、奥行き感が程良く付加される印象。ミックスが一段落したタイミングで、どこかのっぺりしていると感じたとき、またはちょっとしたハプニングや動きが欲しいときに少しだけかける、というのが効果的だと思います。バスに使うのもよいでしょう。また、自分の扱っている曲のジャンルとプリセット・ジャンルが必ずしも好相性とは限らないので、プリセット名に縛られずマッチするものを探してみましょう。今回、R&Bの曲にRockのプリセットをかけてみたら、音がフレッシュに、明るく元気になった感じで格好良かったです。

 ボーカルやアコギには、デフォルトのAll-PurposeというプリセットをCutモードで使用。Shapeは上げ下げの両方を行いますが、こちらはカット専用です。オート・マルチバンド・ディエッサーのような使い方ができますね。同様のエフェクトは他社からも出ていますが、コンプっぽく音色が変化してしまうものもある中、Stabilizerは“本当にかかっている?”と思うほど柔らかく、自然な音。ギュッとコンパクトになったり、ひしゃげるような感じがありません

新モジュール Stabilizer

 画面左下のTame Transientsはアタックを和らげる機能。例えるならアナログ・テープを通してマイルドにするような効果で、ドラムの金物が耳に痛いときなどに使えそうです。

【新機能】ImagerのRecover Sides

新機能 ImagerのRecover Sides

音色感をキープしつつモノラルに寄せられる

 Imagerでは、最大4帯域のステレオ幅を広げたり狭めたりできます。2ミックスの低域をモノラルへ寄せるのに使う人も多いと思いますが、そうするとソースによっては左右の要素が聴こえにくくなります。それをリカバーさせるのが、この機能。モノラルに寄せることで聴こえづらくなった左右の成分を中央に返す、というものです。なので、Stereo Width(ステレオ幅を設定するスライダー)を0未満にした帯域にだけ作用します。例えば、左右に広がったシンセ・ベースを含む低域に用いれば、音色感をあまり変えずにモノラルへ寄せられるでしょう

 今回、2ミックスに使ってみたところ、位相がズレるような変化は感じられませんでした。全帯域をモノラルに寄せてから中~高域を広げていくと、リバーブ成分や左右に振った要素が“むう~ん”と復活してくる感じ。DAWのパン・デプスを考慮して、どのくらいの音量感で復活させるか決めるとバランスを取りやすいと思います。

結論:モダンかつ優れた進化を感じる

 僕はOzone 9も使っていましたが、今回、音がより上質になったと思います。妙な癖が無く、これまで以上にシルキーな質感で、立ち上げた時点で印象が良かったです。普段から愛用しているモジュールでは、テープ・シミュレーターのVintage Tapeにしても、かかり方がしなやかになりました。全体的にモダンな方向で、良い進化だと感じます。

福田聡

【Profile】フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニア。ファンクやR&Bなどグルーブ重視のサウンドをメインに、最近ではENDRECHERI、Purple Drip、佐藤竹善、賽などを手掛ける。

【特集】iZotope Ozone 10〜ネクスト・レベルのマスタリング・ツール

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