思いも寄らないフレーズやコードをAIが自動生成〜HEXACHORDS Orb Producer Suite

HEXACHORDS Orb Producer Suite 〜思いも寄らないフレーズやコードをAIが自動生成

 Reviewed by 
MK
【Profile】プロデューサー/DJとして、Armada MusicやRevealedなどのトップ・レーベルから楽曲をリリース。またKONAMI『beatmania IIDX』などゲームへの楽曲提供や、Jポップの編曲も行っている。Shadw名義では海外のレーベルからもリリース多数。

4つのプラグインが連携し
コード進行やメロディ/バッキングを自動生成

 人工知能を搭載したプラグインがコードやメロディ、ベースやアルペジオを自動で生成する、HEXACHORDS Orb Producer Suite。バーチャル・インストゥルメントとして立ち上げると、音楽知識などが無くても自動で曲が完成してしまうという、未来感あふれるプラグインとなっております。

 

 プラグインはOrb Chords、Orb Melody、Orb Bass、Orb Arpeggiosの4つが収録されており、Orb Chordsで生成したコードを元にOrb Melody、Orb Bass、Orb Arpeggiosが自動生成されるように機能しています。つまりOrb Chords以外を単体で立ち上げることはできないので注意しましょう。

 

 4つのプラグインすべてで、キー、スケール、拍子、小節、コード進行は共通。一部を変更すると瞬時に連動して自然なフレーズやメロディを生成してくれます。また画面上部のテーマ部分は各フレーズを保存し、別のテーマで新しいフレーズを生成することが可能。気に入ったフレーズを保存したり、Aメロ/Bメロ/サビなど、コード進行が変わる楽曲の場合でも簡単に切り替えることができます(画面①)。

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画面① Orb Producer Suiteの4つのプラグインに共通する“ORBマスター”部。上のA/B/C/A2/B2は、曲の構成に合わせてパートごとのブロックを作る”テーマ”。その右下にはコード・ネームを指定するセクションがある

 テーマ・タブの下の3つのボタンは、Orb Producer Suiteの一番の目玉、コード進行とメロディを自動生成してくれる機能です(画面②)。一番左はコード進行、打ち込みタイミング、メロディ、ベロシティなど全自動で生成してくれます。中央のC7ボタンはコードの積み方をランダムに生成、右のボタンは1小節内で複数のコードを生成します。

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画面② テーマの下に並ぶ3つのボタンがOrb Producer Suiteのキモ。左の丸いボタンがフレーズの自動生成、C7と書かれたボタンがコードのランダム生成、右は小節内で複数のコードを生成する

 完全自動な機能とは別に、コード進行のプリセットも豊富に収録されており、メジャー/マイナーなどの基本的なコード進行から、メランコリックやエキサイティングなど気分や雰囲気に近いプリセットも収録されています。

 

 このプリセットからまずOrb Chordsを指定し、Orb MelodyやOrb Bassを自動で生成するといったことも可能なので、全自動で自分に合うものが出てこなかった場合などに重宝します。

 

フレーズの音域や音数は
シンプルなコントロールで自動調整

 画面中央のコード・ネームが配置されている部分では、細かく修正することが可能で、修正したいコードをクリックし、ルートとMaj/min/sus4/dimなどのコード・タイプや9thといったテンションなど、好きな響きに変更することができます。また各コード・ネームの間の+ボタンを押すと、新しいコードを差し込むことが可能。1小節内に複数のコードを入れたい場合は、ピアノロール上のコード間のマーカーを移動することで長さを変更できます(画面③)。

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画面③ Orb Chordsに生成されたコード・パターン。小節間のライン上部にあるマーカーをドラッグすると、コードが切り替わるタイミングを動かすことができる。もちろんピアノロールでのノート編集にも対応。作成したフレーズやパターンは右下のアイコンをDAWのトラックへドラッグ&ドロップ可能だ

 その上部のピアノ・ボタンと矢印ボタンを有効にするとDAW内で打ち込んだコードを録音して解析してくれるので、コード名が分からない場合はこちらの機能を使用して解析してOrb Producer Suite内に取り込み、メロディを自動生成してもらうといったことも可能です(画面④)。

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画面④ コード・ネームの上にある鍵盤と矢印のボタンをオンにすると、MIDIトラックやMIDI演奏での入力で、自動でコードを解析し、コード・ネームを付けてくれる

 ピアノロール左側のノート&ベロシティー・セクションではさらに細かく調整することが可能。デンシティーは1小節内でのノートの数、オクターブは音の高低、シンコペーションはビートから音のズラすタイミング、リズムはフレーズの複雑さ、フレーズレングスは小節内のフレーズの長さ、サイレンスはノートの長さの変更、ポリフォニーはコードの構成音数を表しています(画面⑤)。

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画面⑤ Orb Chordsで生成されるフレーズをコントロールするセクション。音数や音域、ダイナミクスなどはここで指定することで、曲調や展開に合わせたフレーズへと仕上げることができる

 Orb Chordsのスプレッドはコード構成音の間隔を変更、Orb Melody、Orb Bass、Orb Arpeggiosのヒューマン・タッチは発音タイミングをランダムにして人間らしさを加える機能となっています(画面⑥)。

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画面⑥ Orb Melodyの画面⑤と同じ部分。Orb Chords最下段のスプレッド(ボイシングのオープン/クローズ調整)に代わり、発音タイミングをランダムにするヒューマンタッチが設けられている

 そして、このパラメーターの中央にあるORBボタンはそれらを自動で生成してくれる機能です。ベロシティではビートの音の強弱を細かく変更することが可能なので、機械っぽい打ち込みから自然な打ち込みにすることができます。

 

ウェーブテーブル・ソフト・シンセも内包
理論的知識や手癖の呪縛から解放される

 Orb Producer Suiteはこのような自動生成機能とは別に、シンセサイザー的な側面も併せ持っております。画面上部のMIDIボタンからシンセ・ボタンに変更するとオシレーター×2基を搭載したウェーブテーブル・シンセサイザーになります。8つのタイプの波形からモジュレーターやディレイ、リバーブ、ドライブなどエフェクトも搭載されており、プリセット音も非常に豊富に用意されています(画面⑦)。

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画面⑦ オシレーター×2のソフト・シンセも使用可能。単体発売されているソフト・シンセ、Orb Synth(beatcloud価格8,800円)と同等のものとなっている。サブオシレーター、ノイズ・ジェネレーター、モジュレーターとしてエンベロープ・ジェネレーターとLFOを2基ずつ用意。ディレイ/リバーブ/ドライブといったエフェクトやモジュレーション・マトリクスまで備えた本格的なものだ

 とにかく驚いたのが、Orb Melody、Orb Bassが自動生成するフレーズの自然さです。個人的にはすべてを全自動で生成すると少し不自然な部分や機械っぽい部分が出てしまうと思ったのですが、コード進行をある程度しっかりイメージで固めてからOrb Melody、Orb Bass、Orb Arpeggiosで自動生成すると自分の頭の中に無いメロディやフレーズが瞬時にどんどん生成されるのには非常に驚きました。

 

 またコード進行のプリセット数も豊富なので、普段出てこないコードなどを選択し、ノート・セクションで自動生成すると面白いコードが生まれ、“コレ採用!”といった流れもスムーズでした(画面⑧)。前述したように、DAW上で既に作成したコードを記録して取り込み、ノート・セクションで自動生成といった編曲的な作業もやってくれるのは非常に面白いと思いました。

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画面⑧ プリセットされているコード進行の一例。度数と、そのキーでのコード・ネームが併記される。気に入ったものにチェックを入れることも可能

 楽曲制作に関して、初心者は音楽理論の知識が分からない、中上級者は自分の手癖に頼りがちで似たような曲が多い、といったさまざまな悩みがあると思います。このOrb Producers Suiteはそんな初級者から上級者まで多くのユーザーの悩みを解決し、自分の頭の中に無いアイディアを提案してくれる相棒のような印象を持ちました。人工知能もここまで来たか……と非常に恐ろしくもワクワクするプラグインでした。

 

HEXACHORDS Orb Producer Suite【AI搭載】

12,500円(beatcloud販売価格)

 Requirements 
■Mac:macOS 10.5(Catalina)
■Windows:Windows 10以降

■AU/VST3

 

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