Photo:HIRO EDWARD SATO 取材協力:ロックオンプロ
角川大映スタジオは、1933年開所の映画撮影所が源流。現在は映画やドラマの撮影に加え、MV撮影でも使用されることが多く、訪れたことのある音楽業界関係者も多いだろう。ポストプロダクションも手掛けており、昨年11月からMA/ADRというスタジオがDolby Atmos Homeのミキシング〜マスタリングに対応した。チーフ・エンジニアの田中修一氏に話を伺っていく。
既設の7.1ch環境にハイト・スピーカーを追加
角川大映スタジオのポストプロダクション・セクションは、このMA/ADRのほかに、映画用のダビング・ステージ、フォーリー・ステージ、3つのサウンド編集室、そのほか試写室や映像編集設備を備えている。Dolby Atmos Homeに対応したMA/ADRは放送やパッケージ・ソフト、配信作品のMA/アフレコなどに用いられるスタジオだ。田中氏は、Dolby Atmos Home環境導入の経緯をこう説明してくれた。
「昨年の7月にサウンド編集室の改装工事を行ったのですが、その際に将来に向けてそろそろDolby Atmosを触れる環境が欲しいと提案したのがきっかけです。ですがサウンド編集室の広さでは天井スピーカーのレイアウトが難しく、せっかくなら天高もあり環境の良いMA/ADRをDolby Atmos Homeのマスタリングまで対応させてはどうかとなりました。MA/ADRは一昨年、コントロール・サーフェスをAVID S6に更新したタイミングで、Pro Tools用のI/OもPro Tools|MTRXへリプレースし、7.1chのモニタリング環境を構築していたので、導入のハードルが低かったのが決め手でした」
モニター・スピーカーは、GENELEC 8250AをフロントL/C/Rとリアに、サイドには8240Aを設置。これらは従前から使用しているもので、新たに8330A×4本をハイト・スピーカーに設置したGLMシステムを組んでいる。同スタジオが定期的にスタジオ・システムをアップデートしてきたことに加え、「ここは建築から音響を考慮していて、天井内に2mほど吸音層がありスピーカーの設置がしやすかった」 と、大規模施設だからこその優位性があったと田中氏は語る。
HT RMUの信号をPro Toolsに再接続
システム面で特徴的なのは、Pro Tools|MTRXで複数のPro Toolsを統合している点だ。
「Pro Toolsはメイン、SE用、サブの3つが稼働していて、これらをまとめるためにPro Tools|MTRXにはDigiLinkカードを3枚追加しています。あとはHT RMUとの接続用のDanteカード、そのほか入出力関係のカードが4枚で、8つのスロットがすべて埋まっている状態です」
HT RMUはAPPLE Mac Proで構成。SONNET製のThunderboltシャーシを介して、FOCUSRITE RedNet PCIeR(Dante対応PCIeカード)とつながり、Pro Tools|MTRXと接続されている。
「HT RMUからの回線もDanteでPro Tools|MTRXに入力していて、モニターの7.1.4だけでなく、リレンダラー・アウトからステレオや5.1chなどのダウン・ミックスとそのステムを受けられるようにしてあります。メインのPro ToolsとHT RMUでDolby Atmos Homeのマスタリングをしながら、同時にダウン・ミックスやステムをほかのPro Toolsで録音でき、マスタリング中に5.1chやステレオのダウン・ミックスのモニター切替も可能です」
配信向けのドラマ作品でDolby Atmos Home制作をスタートしているという同スタジオ。「オブジェクトを使わなくても、ベッド・チャンネルにハイト・スピーカーがあるだけで、これまでとは違った音場表現ができると感じています。Dolby Atmosのミックス〜マスタリングにはある程度の規模のスタジオが必要ですから、スペースの限られた都心部のスタジオでまかない切れない場合も増えていくでしょう。その分、弊社のような撮影所系のスタジオがその受け皿になっていけるといいですね」と田中氏は語ってくれた。
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