Photo:Hiroki Obara 取材協力:タックシステム
洋画の吹き替え版や字幕版、アニメの音響制作などを手掛けるグロービジョン。同社が東京・信濃町のスタジオをクローズし、2015年6月に開設したのがこの九段スタジオである。建物から新しく造られており、Dolby Atmos Homeをサポートする201(写真)とDolby Atmos Cinema対応の301といった部屋を完備。本稿では201を見ていく。
Atmos制作における豊富なノウハウ
オープンの段階からDolby Atmosに対応していたグロービジョン九段スタジオ。「2015年ごろにはアメリカのメジャーな映画がDolby Atmosを取り入れ始めていたので、吹き替え版もそうなる日が来るだろうと思い、このスタジオを造りました」と語るのは、グロービジョン取締役の川島誠一氏。
201は、AVID Pro Toolsを核にデジタル卓のS6 M40、モニター・コントローラーSTUDIO EQUIPMENT 1000MS、モニター・スピーカーのPROCELLA AUDIO P815FP(フロントL/C/R)やP8(サラウンド&ハイト)、サブウーファーのP15FP(フロント&ハイト)を備え、9.1.4chの環境となっている。オーディオI/OはAVID HD MADIで、WindowsベースのRendering & Mastering Unit(RMU)を使用。Dolby Atmos Homeのコンテンツとしては『モンスターズ/新種襲来』『シーズンズ』『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』の吹き替え版などを手掛けてきた。
301スタジオでは、映画『BLAME!』や音楽ライブのODS(Other Digital Stuff)上映についてDolby Atmos Cinemaの制作実績も持つ同社。「2015年から続けているので、ノウハウがある程度たまってきました」と川島氏は語る。
「Dolby Atmosをきちんと理解していて、仕込みの方法や制作に必要な時間を把握できるスタッフ。そういう貴重な人材が居ることは、言うまでもありません。例えばマスタリングの段階で、Dolby Atmosミックスから5.1chマスターを書き出せば良いのか、5.1chが必要なら別途ミックスから行った方が良いのか、という判断を迫られたとき。DOLBYさんとしては“Atmos版から書き出せますよ”という考えなのでしょうが、Dolby Atmosミックスから5.1chに書き出した結果は、必ずしも制作者の意図通りになるとは限らないんです。なので、5.1chは5.1chで別にミックスすることもありますし、書き出した後の変化を見越してDolby Atmosの方のパラメーターを調整してから5.1chにすることもある。逆に、5.1chをDolby Atmosにアップ・ミックスするというパターンもありますが、それではやはりDolby Atmosならではの感じが出にくいんです。アップ・ミックスするにもダウン・ミックスするにも、そこに工夫を加えていくことで、うまく時間をセーブしながら良いものを作れると思いますね」
劇場版をベースにホーム用の制作も
『貞子 vs 伽椰子』などは301で劇場版のDolby Atmosミックスを行い、Blu-ray化にあたって201でHome用に再エンコードしたという。
「国内でCinemaとHomeの両方に対応しているのは、現状弊社だけなんです(2020年2月中旬現在)。これは大きな強みなので、劇場版をHome用に調整してBlu-rayや配信コンテンツにするような流れが本格的に進めば良いなと思っています。特に配信向けのものはこれから伸びると思いますし、Netflixさんがオリジナル・シリーズをDolby Atmosで提供したいという強い思いを持っていらっしゃるので、我々としても可能な限りサポートさせていただきたいなと。また吹き替え版を作るにしても、本国からDolby Atmos M&E(セリフを除く音声。オブジェクトの位置情報も含まれている)を送ってもらえたら、さほど手間をかけずに済むはずです。それでDolby Atmosの迫力を視聴者が楽しむようになると、制作サイドも盛り上がっていきそうですよね。APPLE iPhoneやサウンド・バーのDolby Atmos対応も、今後の動向に良い影響を与えると思います」
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