Photo:Chika Suzuki 取材協力:タックシステム
サカナクションの最新ライブBlu-ray制作に使われたP’s STUDIO。東京の麻布台にあり、普段は主に洋画の吹き替えやアニメの音響制作、Blu-rayのオーサリングなどを手掛けている。今回はライブBlu-rayのDolby Atmosミックスが行われた部屋=A/R ONEを訪れることができた。
16アウトのモニコンVCM-102を活用
2015年にDolby Atmos Homeへ対応したA/R ONE。「当時イマーシブ・オーディオという言葉を聞くようになり、Dolby Atmosのことも知りました」とは、ハウス・エンジニア菊地一之氏の弁だ。そのころDOLBYとの契約でHome Theater Rendering & Mastering Unit(HT RMU)を借りられることが分かると、準備に取り掛かったそう。
「最初は勢いで環境を整えるつもりでしたが、モニター・コントローラーが障壁になってしまって。と言うのも当時の最大フォーマットは7.1chだったので、モニコンも最大8アウトが普通だったのですが、Dolby Atmos の7.1.4chだと12アウト必要になるため“4ch足りないぞ”と。8アウトのものを2台併用するという案もありましたけれど、ハイト・スピーカーだけ操作系が別になってしまうから現実的ではないと思って。そんな折、AVID S6の発表会でTACSYSTEM VMC-102を見つけたんです。なんと16アウトのモニコンだったんですよ!渡りに船で、すぐに導入を決めました」
VCM-102はMADIベースのAD/DAコンバーターDIRECTOUT TECHNOLOGIES Andiamo 2.XTに接続され、これを制御。モニター・スピーカーはJBL PROFESSIONAL LSR6328P(フロントL/C/R&サラウンド)とLSR6325P-1(ハイト)を使用している。
MADI環境に合うWindowsのRMU
マシン・ルームを見せてもらったところ、Windows版のRendering & Mastering Unit(RMU)が設置されていた。
「更新したばかりの新しいRMUですね。当初はMacのものを検討していたのですが、音声入出力の仕様を見てみたらオーディオI/OとDanteでやり取りせねばならず、そこがネックになりました。我々は基本的にMADIでシステムを組んでいるため、その中にDanteベースの機器を入れようとするとコンバーターが必要になります。コンバーターを導入するだけならよいのですが、問題は音声とタイムコード(LTC)の間に発生する時間的なズレなんです。つまり音声のMADI→Dante、タイムコードのアナログ→Danteという変換には必ず時間差があるので、オフセットを取らないとリップ・シンクなどがどんどんズレていく。その時間差がどのくらいになるか結局分からなかったので、WindowsベースのRMUを選ぶことにしたんです。MADIを直接入力できますし、MADIで組んだシステムの中に入れるのは、やはりMADIベースの機材が理にかなっていると思いますね」
P’s STUDIOにはもう一つ、A/R THREEというDolby Atmos Home対応の部屋がある。Dolby Atmos制作におけるP’s STUDIOの強みを尋ねてみると「やはり経験値だと思います」という答えが返ってきた。
「状況としては5.1chが出てきたときと似ていて、皆さんどのように使えばよいのかを模索している段階だと思うんです。例えばDolby Atmos草創期の洋画にはオブジェクトを多用したものもありましたが、最近は本当に必要な部分で効果的に使われている印象です。海外では既にこなれてきていて、“まずは7.1chできっちりとミックスし、補足としてオブジェクトを加えていこう”という考え方があるのかもしれません。そういう点で、サカナクションのライブBlu-rayも練られていますよね。フロントはフロントで完成されていて、ハイトの使い方もすごく理にかなっている。全体で聴くと“ライブ会場に居たら本当にこういう感じだろうな”と思えるんです。今後Dolby Atmos対応のスタジオが増えて、日本の技術が底上げされていくと良いですね」
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