ここからは小室哲哉の新プライベート・スタジオをレポート。約15畳のコントロール・ルームと約3畳のボーカル・ブースがあり、制作のみならずファン・コミュニティ“TETSUYA KOMURO STUDIO”の配信にも用いられているので、既にこの風景を目にしたファンも少なくないだろう。ここでは小室の右腕としてプログラマー/エンジニアを務める溝口和彦、赤堀眞之の両氏のコメントを交えながら、この新スタジオを紹介していく。
Text:iori matsumoto Photo:Eiji Kikuchi
仕様や用途を決め込まないスタジオ
「具体的な話が挙がったのは今年の春くらいですね。小室さんからは、ある程度の音が出せて、歌が録れて。あとは週に1回ファン・コミュニティのTETSUYA KOMURO STUDIOで配信をしているので、映像が撮れるようにという希望がありました。ですので、照明用バトンを用意してあったり、カメラのケーブルが天井に通せるようにしてあります。スタジオの仕様や用途を決め込まず、機材をラッキングすることなく、日々必要なものが入れ替わる。そんなスタジオになりました」
そう説明してくれたのは、1994年のTM NETWORK“終了”時から小室のプロジェクトに携わる溝口氏。氏のプライベート・スタジオをアコースティックエンジニアリングが手掛けていた縁で、ここも同社に設計施工を依頼したという。
「床が白ってあまり無いですし、未来っぽい印象になります」と溝口氏は続ける。スマート・ライトPHILIPS Hueで雰囲気に合わせて照明のカラーをコントロールできるのもそうした印象を強めている。マンション内のスタジオということもあって、当初はブースの無いスタイルも計画されていたという。
「小室さんは、特に仮歌はヘッドフォンでモニターしながら録ればいいから1部屋でいいと言っていたんです。でも思ったより広いスペースが確保できたので、ボーカル・ブースも造ることになりました。結果として宇都宮さんのボーカルも録れたのは良かったです。コントロール・ルームは、アップライト・ピアノを入れてもいいように位置によって響きを変えてもらっています」
ちなみにこのスタジオでの初レコーディングとなった宇都宮のボーカルはマイクにSONY C-800G、マイクプリにRUPERT NEVE DESIGNS Portico II Chanlel Strip、コンプにPURPLE AUDIO MC77を使用。TMファンにはおなじみのエンジニア、伊東俊郎氏によるオペレートで収録されたとのこと。もちろん曲はTMの新曲「How Crash?」で、完成次第リリースされることになるだろう。
ソフトもI/Oも何を使うのかは決まっていない
さて、機材面を見ていく前に、溝口氏、赤堀氏の役割を語っていただく。「僕はMOTU Digital Performerをメインに、ABLETON Liveでビートを組んだり、そうしたデータをAVID Pro Tools|HDXとやり取りしています」と溝口氏。一方、赤堀氏は「僕はもともと久保こーじさんのプロデュースでベーシストとしてバンド・デビューした縁で、こーじさんや溝口さんとはつながりがあり、5年くらい前から先生(小室)の制作にかかわるようになりました。僕はAVID Pro Toolsがメインです」と語る。さらに、久保こーじ氏を交えた4人で、いわば小室哲哉チームとして制作をしているそうだ。アレンジ/プロダクション面ではコライト的な体制を採っていると言える。
そんなふうに複数のクリエイターが入れ替わりでかかわることも、先述のようにシステムの固定化をしないというスタジオ・コンセプトにつながっている。
「使用するDAWもそのときによって変わるし、複数のDAWを同時に立ち上げるので、オーディオ・インターフェースもAVID HD I/O、PRISM SOUND ADA-8XR、MOTU 828MK3 Hybridを使い分けています。一方、ハードウェアのシンセについては壁のパッチ盤からFERROFISH Pulse 16 MXに接続し、ここでAD変換して各オーディオ・インターフェースへデジタル接続で立ち上がるようにしています。いわばパッチ・ベイ的な役割です。ソフト音源も同様で、DAWとは別のMacにVIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proを立ち上げて、その上で使用します。負荷分散のためにVienna Ensemble Proを使う方はいらっしゃいますが、複数のシステムで共有するために使うのはあまり見たことがないですね」と溝口氏。
少し音を加えたりすると先生が気付く
ここで、小室がよく使うソフト音源を溝口氏に聞いてみた。
「小室さんとしてはスピード感が欲しいので、パッと作るにはREFX Nexus 3がいいようです。その後で、差し替えたり、僕らが音を足したりする。ほかにはギター音源のAMPLESOUND Ample Guitar PFやTONE2 Electraなどが立ち上がっています。僕自身はSPECTRASONICS Omnisphere 2が多いです。探せば何でもあるところが良いですね。音色からアイディアをもらえることが多いので、何を入れようかと思ったときに、そこから作っていける」
一方、赤堀氏は全く違うチョイスをしているとのこと。
「僕は打ち込みもPro Toolsでやることが多く、シンセはVENGEANCE SOUND Avenger、REVEAL SOUND Spireが多いですね。シンベはU-HE Repro-1かDivaとか。Divaは温かい音で、オラつきたいときはRepro-1(笑)」
溝口氏がさらにこう続ける。
「そうやってみんな違うものを使っていて、それぞれ入れていく。ある程度自由が与えられているんです。音を足して肉付けしたり、それをまた壊してみたりを、こーじさんを含めた4人でやっていく形ですね」
赤堀氏はこんなエピソードも教えてくれた。
「少し音を加えたりすると、先生が気付くんですよね。“溝口はこれ好きだなぁ”“これは赤堀が弾いたの?”って。違う場合は違うと言ってくれますし、面白かったらもっとこうしたらいいよと。そのフレキシブルさが生きたクリエイティブ活動ができていると思います。現代的な作り方だと思います」
このスタジオでは、TM関連では配信ライブ『How Do You Crash It?』の仕込みやミックスが行われているが、小室ソロでは、TETSUYA KOMURO STUDIOのメンバー限定のアナログがリリースされる。溝口氏が紹介してくれた。
「昨年からジャズ・テイストのインストを30曲くらい作っていて、その中からセレクトした曲をアナログ化して、会員限定で発売します。意外に思われるかもしれませんが、小室さんはジャズ/フュージョンも高校生くらいのときから聴いていて詳しくて。小室さんがピアノを弾いたものに、ほかのパートを足したりして制作したものです」
Release
『JAZZY TOKEN』12inch LP
Tetsuya Komuro
(TETSUYA KOMURO STUDIO)
オンライン・ファン・コミュニティ“TETSUYA KOMURO STUDIO”会員限定で発売。
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