BRIAN ENO AMBIENT KYOTO 〜アンビエント・ミュージックのイノベーターによる音と光のインスタレーション展

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO 〜アンビエント・ミュージックのイノベーターによる音と光のインスタレーション展

アンビエント・ミュージックの第一人者であり、プロデューサーとしてもデヴィッド・ボウイ、U2、コールドプレイなどを手掛けてきたブライアン・イーノ。実は美術学校出身で、音楽とビジュアルによるインスタレーション作品も数多く発表している。そのインスタレーションが一堂に会する展覧会が、1930年に銀行として竣工した歴史ある建物を舞台に、京都で開催。彼のアンビエント/ジェネレーティブ・ミュージックとシンクロし、刻々と変化していくビジュアルを中心とした作品群は、時を忘れるような感覚に引き込んでくれる。

Text:iori matsumoto Photo:yoshikazu inoue Co-operation:Bose Professional

77 Million Paintings

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO|77 Million Paintings
BRIAN ENO AMBIENT KYOTO|77 Million Paintings
BRIAN ENO AMBIENT KYOTO|77 Million Paintings

 サウンドと光がシンクロして生み出される空間芸術作品。“7,700万”という数字は、システムが生み出すことのできる正面にあるビジュアルの組み合わせの数だという。音楽やボイスなどが入り交じるサウンドは一定ではなく、映像との組み合わせは実質無限だ。2006年、ラフォーレミュージアム原宿にて初出展された後、世界各地で47回展示され、16年ぶりに日本へ帰還。今回は会場内に丸太が垂直に伸び、自然との調和を意識したかのような空間で、作品とともに過ごす時を堪能できる。

The Ship

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO|The Ship

 2016年リリースの3D音響を想定したアルバム『The Ship』をオーディオ・インスタレーションとして展示。暗い船室を想起させる会場の中で、多数のスピーカーから個別の音が鳴り、ストーリーが展開していく。当然、鑑賞する位置によってサウンドのバランスが変わるため、異なった印象を受けるだろう。3台のギター・アンプから生み出される咆哮のような音、前後が入れ替わるようなサウンド演出、人工音やざわめきなどを交えたスリリングな時間を味わえる。

Light Boxes

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO|Light Boxes

 色あざやかにLEDで発光するボックスが、ゆっくりとほかの色に変化していく作品。色の組み合わせとともに、流れるようなサウンドがシンクロしていく。なお、「Light Boxes」「Face to Face」にはSONOSのスマート・スピーカーSonos Oneを使用していた。

Face to Face

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO|Face to Face

 スクリーンに投影する3人の顔写真が、気が付かないほどのスピードで別の人物へと変化。一人の顔に集中していると、いつの間にか他の2人の顔が全く別の人物へと変わっている。その時間変化の度合いを象徴するようなアンビエント・サウンドが場内を満たす。

常時異なるサウンドに満たされる空間

 今回の『AMBIENT KYOTO』ではブライアン・イーノの来日は叶わなかったが、長年イーノのインスタレーションを支えてきたスタッフが彼の意思を反映した展示を作り上げた。芸術監督はドミニク・ノーマン=テイラー氏。イーノの諸作をリリースしてきたAll Saints Recordsの創設者でもある。

 「今回、歴史のある建物……もともと金融機関の建物であったということにイーノは関心を寄せていました。イーノのインスタレーションでは、いつも建物と作品のバランスを考えています。しかも一つの展覧会でこれだけの作品数の同時展示はあまりないことです。私たちは来場者の皆さんに、それぞれの作品の展示に長時間滞在してほしいと考えています。この京都中央信用金庫 旧厚生センターは3層に展示エリアが分かれているので、フロアごとに長い時間滞在していただけるであろうと考え、多くの作品を同時に展示しました」

 サウンドを担うのは、マーティン・ハリソン氏。まずは「77 Million Paintings」のシステムを解説していただいた。

 「これはジェネレーティブなサウンドとビジュアルが共鳴する作品です。正面にステレオ・ペアで置かれたBOSE L1 Pro8がメインの役割で、音楽的な要素を再生します。そのほかにはGENELEC G Oneが5ペアあり、長辺方向の中央では高音域のボイス、前方の左右ではピアノなど、後方の右側でスウィープ音という具合に、スピーカーのペアごとに再生する音は分けられています。尺の異なるさまざまな要素の組み合わせで構成されているため、全体として同じ音が再生される瞬間はありません。映像もジェネレーティブですから、常に異なる映像と音が体感できます」

「77 Million Paintings」「The Ship」のメイン・スピーカーとして使われたポータブル・ラインアレイ・システムBOSE L1 Pro8。コラム型の形状も相まって、暗い空間の中で姿を潜めている。なによりイーノにとって色付けの無いサウンドが採用の理由だという

「77 Million Paintings」「The Ship」のメイン・スピーカーとして使われたポータブル・ラインアレイ・システムBOSE L1 Pro8。コラム型の形状も相まって、暗い空間の中で姿を潜めている。なによりイーノにとって色付けの無いサウンドが採用の理由だという

 一方、「The Ship」は、刻々と映像と音が変化する「77 Millions Paintings」などとは趣の異なる、ストーリー性のある作品だ。ハリソン氏はこう解説する。

 「こちらも4つのコーナーに置いたL1 Pro8をメインとし、そのほかにGENELEC 8020/8320を計9台、そしてギター・アンプを3種類使っています。「The Ship」ではかつては古いものなどさまざまなスピーカーを使っていました。面白いチャレンジでしたが、どんな音が鳴るかは予測不可能なので、現在はGENELECに置き換えています。それぞれのスピーカーから異なるサウンド……例えばギター・アンプからブラスが流れたり、GENELECからボコーダー・ボイスを鳴らしたりしています。空間的な構成もあり、例えば、対角線上に部屋を横切って移動するディレイがあったりといった具合です」

「77 Million Paintings」ではGENELEC G One×5ペア(10基)がそれぞれ独立した音を再生。「The Ship」ではGENELEC 8020DPM×5基と8320APM×4基も使用。FENDER、ROLAND、VOXのギター・アンプとともに包み込むサウンドでストーリーを描く

イーノはL1を“透明なスピーカー”と絶賛

 これらの展示で使用されるスピーカーは、もちろんイーノが指定しているものだ。ハリソン氏は「BOSE L1はブライアンのお気に入りなんです」と語る。

 「スピーカーが主張せず、音楽に色付けをしないというのがその理由です。彼が言うには、これまで使ってきたほかのスピーカーは“スピーカーの音を聴いてしまう”のだと。音楽を聴きたいのであって、そのためにはL1が最も透明で色付けが少ないと考えているわけです。私もL1はイーノのインスタレーションに貢献していると思います。空間に溶け込むデザインで、スピーカー自体の存在を主張することもありません。L1の中でも、新しいL1 Pro8をインスタレーションに使用するのは今回が初めてで、中低域から低域にかけて、以前のモデルよりも強くなっていると感じ、その部分の調整をしました。慣れるのに時間がかかりましたが、実際、よりしっかりとした音に感じられました」

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO 開催概要

2022年6月3日〜8月21日9月3日(会期延長) 京都中央信用金庫 旧厚生センター

  • 主催:AMBIENT KYOTO実行委員会(TOW / 京都新聞)
  • 企画制作:TOW / Traffic
  • 協力:α-station FM KYOTO / 京都METRO / CCCアートラボ
  • 後援:京都府 / 京都市 / ブリティッシュ・カウンシル / FM COCOLO
  • 機材協賛:Genelec Japan / Bose / Magnux / 静科 / SONOS
  • 特別協力:Beatink / 京都中央信用金庫

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