AUSTRIAN AUDIOのOC818は、Mac/Windows用の無償プラグインPolarDesignerを使って、録音後にマルチバンドで指向性を変えられるコンデンサー・マイクだ。今回は、アコースティック録音の名手として知られるエンジニア、檜谷瞬六氏が製品をチェック。拠点とするスタジオ54itでインプレッションを語っていただいた。
Photo:Hiroki Obara
指向性によって音色のバリエーションを生み出せる。カブリを取るような用途だけではないと思います
“その楽器らしい音”が得られるマイク
グランド・ピアノとチェロの録音に使い、参照用に数種類のチューブ・マイクとFETコンデンサー・マイクを立てました。OC818への第一印象は“音のたたずまいがしっかりしている”というもの。ピアノにステレオで立てても空間に広がるようなデフォルメ感がなく、低域から高域まで姿勢が良いというか、ピアノがピアノらしく録れる。チェロも同様で、どの帯域にも過不足が出ずバランスの良い音が得られました。楽器との距離感までよく捉え、その場の空気の振動を正しくキャッチする印象です。また、ダイアフラムが敏感で繊細に動くため、現代的な精密さのある音なのだと思います。すごく性能が良いマイクだと感じました。
チェロに関しては、ピアノ以上にPolarDesignerが有効活用できるなと。“指向性を録音後に変えられる”と言われたら、ある方向にフォーカスしたりカブリを取り除いたりという用途が想定されがちだと思いますが、それだけじゃないのがPolarDesignerで、“指向性によって音色のバリエーションが作り出せますよ”といったメッセージを感じるんです。
マイクの周波数特性は、指向性によっても結構な違いが出てきます。だから、PolarDesignerで指向性を変えると、低音を太く聴かせるようなことができる。言うなれば、チューブ・マイク的な音だって作り出せるんです。例えば中低域の指向性を単一に寄せると、太く聴こえる場合があります。無論チューブのテイストが乗るわけではないんですが、“このマイクは低域が豊かだから好み”とか“高域がきらびやかで良い”みたいな音色の特徴が、指向性を変えることで作り出せる。最大5バンドなので、各指向性の周波数特性の組み合わせによる音色デザインまで見越しているのではないかと思います。使い込んで習熟すれば、超ハイエンドなマイクに肉薄するような音を作れるかもしれません。
自宅録音にも重宝すると思う
もちろん、不要な音を取り除く用途にも使えて、僕なら宅録に重宝すると思います。宅録の一番の大敵は、壁からの反射です。OC818とPolarDesignerがあれば、特定の帯域に嫌な反射を感じてもピンポイントに減らせるでしょう。普通は全帯域の指向性を変えるという選択肢しかないところが、かなり柔軟に調整できるので、録音環境がベストでない場合のトラブル・シューティング能力も高いと思います。
総じて、すごくきちんと作られたマイクという印象です。そこが一番ですね。隙がないというか、メーカーが信念を持って、こだわって作っている気がする。使い込んだら、もっと良さが理解できるのだろうと思いますね。