マルチティンバー音源をセットしたPro Toolsセッション・テンプレート|解説:三浦康嗣(□□□)

マルチティンバー音源をセットしたPro Toolsセッション・テンプレート|解説:三浦康嗣(□□□)

 こんにちは、三浦康嗣です。□□□(クチロロ)というユニットで活動したり、さまざまなアーティストの方に楽曲を提供したり、“渋谷のラジオ”というラジオ局の番組『渋谷通信部 - SHIBUYASUSHI』でパーソナリティを務めたりしています。先日は、サウンド&レコーディング・マガジンのYouTubeチャンネルで『Pro Toolsでフィールド・レコーディング素材を使ったトラックメイク』と題した動画セミナーにも出演しました。よければ、そちらもご覧ください。さて、今月から4回にわたって、僕なりのAVID Pro Toolsを使った音楽作りの方法を解説していきます。よろしくお願いいたします。

3つのソフト音源をパラアウト込みでセッティング

 前述の動画セミナーでも話しましたが、僕がPro Toolsを使いはじめたのは2006年のこと。翌年のメジャー・デビューに備えて機材を買いそろえたとき、一緒に導入しました。もともとレコーディングやミックスで、エンジニアの方が作業しているのを後ろから見ているのが好きだったので、自然と“Pro Toolsいいな”と思うようになったのがきっかけです。また当時、Pro Toolsでトラック・メイキングするのは、あまり一般的ではなかったかもしれませんが、得意とされていないツールをあえて使ってみるのも面白いかなと思ったりもしました。今ではオーディオ・トラックにキックやスネアの波形を並べてビートを作っていく手法は珍しくありませんが、Pro Toolsはオーディオ編集がやりやすかったので、僕はそのころから行っていました。動画セミナーでお見せしたような作り方ですね。今回は、その動画セミナーとは少し違ったアプローチの制作方法を紹介していきたいと思います。題材として使用するのは今年の1月に初のソロ名義で発表した「Sundaynight」です。

 この曲はもともと、僕がレギュラー出演しているラジオ番組『渋谷通信部 - SHIBUYASUSHI』の企画から生まれたものです。曲の作り方を解説しようという、まさにサンレコの動画セミナーやこの連載のような番組内容で、最終的に番組のテーマ曲にするための短い曲を完成させました。そこから発展させたのが「Sundaynight」です。ちなみに、番組は日曜の夜に放送されているので、こういう曲名になっています。

 フィールド・レコーディング素材を使った曲の場合は、録音してきたものをオーディオ・トラックに並べるところから制作がスタートするので、セッション・ファイルはまっさらな状態で立ち上げます。しかし、「Sundaynight」のようなMIDIでの打ち込みも使う楽曲の場合はテンプレートを用意しています。まずはその内容から解説してみましょう。

テンプレートのミキサー画面で、最初に必要と思われるトラックのみを表示した状態。左からNATIVE INSTRUMENTS Maschine関連トラック(赤枠)、UVI Falcon関連のトラック(黄枠)、NATIVE INSTRUMENTS Kontakt 7関連トラック(緑枠)、TOONTRACK Superior Drummer 3(青枠)、リバーブのNATIVE INSTRUMENTS RaumをインサートしたAUXトラック(白枠)、予備のバスをインプットしたAUXトラック(オレンジ枠)、残りはクリック・トラックとマスター・トラック

テンプレートのミキサー画面で、最初に必要と思われるトラックのみを表示した状態。左からNATIVE INSTRUMENTS Maschine関連トラック(赤枠)、UVI Falcon関連のトラック(黄枠)、NATIVE INSTRUMENTS Kontakt 7関連トラック(緑枠)、TOONTRACK Superior Drummer 3(青枠)、リバーブのNATIVE INSTRUMENTS RaumをインサートしたAUXトラック(白枠)、予備のバスをインプットしたAUXトラック(オレンジ枠)、残りはクリック・トラックとマスター・トラック

 テンプレートには3つの音源、NATIVE INSTRUMENTS Maschine、Kontakt 7、そしてUVI Falconをあらかじめ用意しています。これらは最近の楽曲制作でよく使用するもので、Maschineはビート用、Kontakt 7とFalconはそれ以外のパート用です。

 Maschineはキック、スネア、ハイハットのパラアウト用インストゥルメントトラックをあらかじめ作っています。

一番左がMaschineをインサートしたインストゥルメントトラック、その右の3つはMaschineのパラアウトを入力したインストゥルメントトラックで、キック/スネア/ハイハット用。右端はそれらをまとめたAUXトラック。OUTPUT Thermal、TONE PROJECTS Unisum、KIIVE AUDIO Tape Faceをインサートし、必要に応じてオン/オフされる

一番左がMaschineをインサートしたインストゥルメントトラック、その右の3つはMaschineのパラアウトを入力したインストゥルメントトラックで、キック/スネア/ハイハット用。右端はそれらをまとめたAUXトラック。OUTPUT Thermal、TONE PROJECTS Unisum、KIIVE AUDIO Tape Faceをインサートし、必要に応じてオン/オフされる

Maschineソフトウェアの画面。ドラム・パターンはこの中で打ち込んでいき、ドラムに関しては楽曲の構成もこの中で完結させることが多い

Maschineソフトウェアの画面。ドラム・パターンはこの中で打ち込んでいき、ドラムに関しては楽曲の構成もこの中で完結させることが多い

 また、それらをまとめるための“beat”という名前のAUXトラックも用意。ビート作りは瞬発力が大切なので、途中でパラアウト用のトラックを立ち上げて、といった作業をしたくないですからね。しかも、これらのパラアウト用トラックには、マルチバンド・ディストーションのOUTPUT Thermal、コンプレッサーのTONE PROJECTS Unisum、そしてテープ・シミュレーターのKIIVE AUDIO Tape Faceもインサート。基本的にはインアクティブにしてあり、使わないことも多いのですが、すぐに試せるようにはしておこうという意図です。

 Falconはマルチティンバーの音源ですが、音色そのものは用意せずに各ティンバーは空の状態にしています。MIDIチャンネルごとに、MIDIトラックとパラアウト用のインストゥルメントトラックを8組用意していて、各インストゥルメントトラックにはEQのFABFILTER Pro-Q 3もインサートしてインアクティブにしています。

Falconの画面。音色は用意せず、空の状態にしている

Falconの画面。音色は用意せず、空の状態にしている

左端がFalconのインストゥルメントトラック、その右はMIDIトラックで、さらにその右はFalconのパラアウト用インストゥルメントトラック。このMIDI&インストゥルメントトラックのペアを8個用意

左端がFalconのインストゥルメントトラック、その右はMIDIトラックで、さらにその右はFalconのパラアウト用インストゥルメントトラック。このMIDI&インストゥルメントトラックのペアを8個用意

 シンセの周波数レンジは広いため、“そんなに要らないよ”ということも多いので、いつでもすぐにローカットができるようにしているのです。Kontakt 7もFalconと同じように、8ch分のMIDI&インストゥルメントトラックを用意しています。

左端がKontaktのインストゥルメントトラックで、その右はMIDIトラック、さらにその右はパラアウト用のインストゥルメントトラック。こちらもMIDI&インストゥルメントトラックのペアを8個用意

左端がKontaktのインストゥルメントトラックで、その右はMIDIトラック、さらにその右はパラアウト用のインストゥルメントトラック。こちらもMIDI&インストゥルメントトラックのペアを8個用意

Kontaktの画面。こちらも何か特別に音色を用意しているわけではない。特に「Sundaynight」は、KontaktがVer.7にアップデートした直後に制作していたため、意図的にさまざまな音色を試してみた

Kontaktの画面。こちらも何か特別に音色を用意しているわけではない。特に「Sundaynight」は、KontaktがVer.7にアップデートした直後に制作していたため、意図的にさまざまな音色を試してみた

マスター・トラックのプラグインはテンション・アップ用

 せっかく買ったのでと思い、ドラム音源のTOONTRACK Superior Drummer 3もインサートしていますが、ほぼ使っていません。なので、これもインアクティブの状態。

 そのほかに、AUXトラックを4つ用意していて、その一つにはリバーブのNATIVE INSTRUMENTS Raumをインサートしています。

リバーブにはNATIVE INSTRUMENTS Raumを用意

リバーブにはNATIVE INSTRUMENTS Raumを用意

 またマスタートラックにはACOUSTICA AUDIO Pensado EQ2やマルチバンド・コンプのLEAPWING AUDIO Dynone、サチュレーターのTONE PROJECTS Kelvin、Unisum、NEWFANGLED AUDIO Saturate、MELDA PRODUCTION MSaturator、Tape Faceなどをインサートしていますが、すべてインアクティブの状態です。

左はクリックトラックで、右のマスタートラックには多数のプラグインをインサート。これらは基本的に使用しておらず、たまに音圧が上がったときの変化を予測する際にアクティブにする。また作業に飽きてきてしまったときに使ってみるとテンションが上がる。マスタートラックの最後にインサートしているスピーカー・キャリブレーション・ソフトのSONARWORKS SoundID Referenceのみ常時使用

左はクリックトラックで、右のマスタートラックには多数のプラグインをインサート。これらは基本的に使用しておらず、たまに音圧が上がったときの変化を予測する際にアクティブにする。また作業に飽きてきてしまったときに使ってみるとテンションが上がる。マスタートラックの最後にインサートしているスピーカー・キャリブレーション・ソフトのSONARWORKS SoundID Referenceのみ常時使用

 制作中にもこれらでマスタリング的な処理を行うことはありませんが、最終的な仕上がりの目星を付けるために時々、アクティブにします。例えば“このハイハットはでかすぎるかな?”とか“この音だけ抜けて聴こえすぎてないか?”といったことを確認するのです。あと、作業に飽きてテンションを上げたくなったときにもいいですね。こういうプラグインは使うと楽しくなりますから。

 マスターの最後にはスピーカ−・キャリブレーション・ソフトのSONARWORKS SoundID Referenceをインサートしていて、これは曲作りの最初の段階から常に使用しています。部屋の特性をマイクで測定して、スピーカーの周波数特性をフラットに近づけてくれるソフトですが、Spotifyなどで音楽を聴くときにも使用しているので、音の感覚を常に同じにしておくためにも欠かせません。

 今月はテンプレートの話で終わってしまいました。次回は「Sundaynight」の具体的な制作方法を解説していきますが、ざっくりと予告を。Maschineソフトウェア上でビートを組み、Kontaktでコードを、Falconでベースを打ち込んで歌を録り、さらに細かいフレーズを加えてといくという工程。ご興味をお持ちいただければ幸いです。ではまた来月!

 

三浦康嗣

【Profile】□□□主宰。スカイツリー合唱団長。□□□のほぼ全ての楽曲の作詞・作曲・編曲・演奏・歌唱・トラックメイクを手掛けている。2023年1月には初のソロ・シングル『Sundaynight』をリリース。現在、立体音響スタジオの設立に向けて動いており、2023年中の完成を目指している。「サウンド&レコーディング・マガジン」のYouTubeチャンネルでは、Pro Toolsでのフィールド・レコーディング素材を使った曲作りのセミナー動画を配信中。

【Recent work】

『Sundaynight』
三浦康嗣

【動画セミナー】

『Pro Toolsでフィールドレコーディング素材を使ったトラックメイク』

 

AVID Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:12,870円|Pro Tools Studio:38,830円|Pro Tools Ultimate:77,880円
(Artist、Studio、Ultimateはいずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools Ultimate搭載の機能を継続して利用可能

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)

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