プロデュースを務めるレトロ・ポップ・ユニットFANCYLABOを軌道に乗せ、自作曲の世界を拡張し続けるプロデューサー/DJのNight Tempoさん。主に1980年代の日本のポップスや歌謡曲をダンサブルにリエディットする『Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』シリーズも好調で、ますます時めいています。今回は、サンプリングやリエディットに関する制作のお話しですヨ!
原則としてオリジナルの曲構成は生かす
曲作りにおいて好きな手法は、キックをトリガーとしたサイドチェイン・エフェクト。サンプリングした素材にかけると偶然性のある面白いグルーブが生まれることがあります。ただ、1980年代初頭に録音された2ミックスやマルチトラックをABLETON Liveにドラッグ&ドロップするとテンポがだんだんズレてくるときがあるんです。
例えば、Liveのタイムライン上にドラム・ループ・サンプルの先頭をピッタリ合わせても、2小節目辺りから微妙にズレてきてしまうことがあります。この問題を解決するためには、手作業でサンプルを調整する必要がどうしても出てくるんです。この作業はすごく大変ですが、ここではLiveの機能であるWarpモードを使ってサンプルのテンポを一つずつ解析し、オーディオをタイム・ストレッチしています。最初にこの作業を行っておくことで、この後のプロセスがとても楽になるんですよ。あとは楽器やボーカルを短く部分的にサンプリングして、切り貼りするといったことも好きです。自分は韓国人なのでJポップや邦楽を作ることを目指しているわけではありません。自由に表現したり、自分の好きな音楽を追究できればいいと考えています。
リエディットする上で重要なのは、曲構成を基本的に変えないということ。もともとオリジナル曲が持つ構成は、何かしらの理由があってそうなっているので、それは原則として崩さないようにしているんです。例えば「フライディ・チャイナタウン (Night Tempo Showa Groove Mix)」は、原曲に忠実な構成です。
しかし、曲やフィーリングによってはそうじゃないパターンもある。具体例を挙げると「Dress Down (Night Tempo Showa Groove Mix)」では、原曲の間奏部分をイントロにしています。つまり、構成の組み替えを試してみて“良い”と感じた場合は、採用することが多いです。
付け加えると「セシールの雨傘 (Version II) (Night Tempo Showa Groove Mix)」は、オリジナルの構成がほとんど残っていないくらい変わっています。これは、こっちの方がより面白いのではないか?と個人的に感じたからです。ただ、やっぱり“オリジナルの曲構成はなるべく生かす”という方向性は軸として大切にしていますね。
フロアでの盛り上がりを意識して制作する
自分はオリジナル曲を歌っているアーティストの歴史や人物像をあまり意識せず、単に“曲が良いから”という理由でリエディットしていることがありますが、サンプリングする音源の年代によって扱いやすい音質/扱いにくい音質というのは感じません。ダフト・パンクのような欧米のダンス・ミュージック・アーティストは、古いソウルのレコードをサンプリングしてダンス・ミュージックに昇華しているじゃないですか。自分はそれを1980〜90年代のシティポップを使ってやっているようなイメージ。ハウス・ミュージックだって、昔のソウルのレコードをサンプリングしていたりします。だから、それと同じ考え方なんです。
ちなみにFUJI ROCK FESTIVAL '22に出演したときは、荻野目洋子さんの「Eye Spy The Night」のリエディット版をDJでかけました。オリジナル曲のリズムはあまり跳ねていないんですが、リエディット版ではドラムを跳ねさせてグルーブを作っています。こっちの方がフロアでかけたときに“絶対盛り上がる”っていうのが分かるんですよ。特に自分は日本だけでなく、アメリカやヨーロッパでもDJ経験があるので、フロアでどんな曲をかけたら盛り上がるのかという視点でリエディットを制作することがよくありますね。
Night Tempo
80’sの日本のポップスをダンス・ミュージックに再構築した“フューチャー・ファンク”のシーンから登場した韓国人プロデューサー/DJ。アメリカと日本を中心に活動する。昭和ポップスを現代的にアップデートする『昭和グルーヴ』シリーズを2019年に始動。Wink、杏里、松原みき、秋元薫らの楽曲を素材にこれまで17タイトルを発表し、最新作は泰葉。2021年にはオリジナル曲を収録したアルバム『Ladies In The City』をメジャー・リリースした。