出力にCARNHILLトランスを備え
入力側にはLUNDAHLトランスを搭載
まずは外観を見ていきましょう。フロント・パネルには何やらたくさんの操作子が並んでいますね。本機は2chのプリアンプなので、各チャンネルで操作子の内容は同じです。
ツマミはパネル左からインプット・ゲイン(最大+80dB/5dBステップ)、ハイパス・フィルターのカットオフ周波数(30〜400Hzを連続可変/スロープは−12dB/oct)、アウトプット・レベル(最大+26dBm)の3種類。
ボタンは左から48Vのファンタム電源、−30dBのPAD、“A”や“Ge”と名付けられたボタン(後述)、ハイパス・フィルター、位相反転、マイク・インの入力インピーダンス切り替え(400Ω/1.6kΩ)、Hi-Zインをアクティブにするためのもの(2MΩ)が並びます。Hi-Zインが用意されているので、マイクだけでなくギターやベース、シンセサイザーなどを直接接続することが可能。ホーム・レコーディング用などにプリアンプを探している方にとっても、強い味方になりそうです。
さて、AおよびGeというボタンに関してですが、まずAはCARNHILL製トランス仕様のクラスAディスクリート・アウトをアクティブにするものです。これがオフだと、出力は通常の電子バランス・アウトになります。Geは、入力段に備わったLUNDAHL製トランスの後ろにゲルマニウム・アンプ回路をインサートするためのボタン。アクティブにすれば、入力音にハーモニクスを加えて色付けが行えるとのことです。
“A”ボタンでは全体をブライト寄りに
“Ge”では中低域を強めにできる
今回、タイミング的に筆者がホームとしているhmc studioでバンドのレコーディングがあったので、できる限りの楽器で検証してみました。まずはドラムのオーバー・ヘッド。併用したのはコンデンサー・マイクのAKG C414 XLIIです。AとGeのボタンをオフにしたデフォルトの状態で試してみたところ、ドラム・キットの全体感をしっかりとらえつつ、心地良い距離感も演出してくれています。ハイハットやライド・シンバルなど金物の高域成分に十分な伸びを感じるものの、耳に痛い成分は目立っておらず好印象です。またキックやスネア、タム類の低域成分もしっかりと収音しています。
続いてはAとGeをアクティブにしてみましょう。まずはA(CARNHILLトランスのクラスAディスクリート・アウト)のみをオンにすると、中低域が軽くロール・オフし、全体的に少しブライトになると感じました。テンポの速い曲や明るいイメージの曲に合いそうな質感です。次にGe(入力側のゲルマニウム・アンプ)をアクティブにしてみたところ、中低域の押し出しが強くなり、高域が落ち着きました。倍音成分が付加され、力強い音になります。ここで内蔵のハイパス・フィルターを軽くかけてみたところ、低域が自然にロール・オフし、ミックス後のイメージに近いところまで追い込むことができました。
ドラムに続いては、管楽器(サックスとトランペット)でチェック。ダイナミック・マイクのSENNHEISER MD421-U-4を併用してのテストです。筆者は管楽器をレコーディングする際に、プリアンプでサチュレーションをかけることが多いため、今回もインプット・ゲインを上げ目にして突っ込み気味で録ってみました。デフォルトの状態で、管楽器との相性は抜群です。プリアンプによっては、立ち上がりの速い音が耳に痛い感じでひずむことがあるのですが、DP2はキンキンせずに音の存在感を際立たせるひずみ方をします。AやGeをアクティブにしてみたところ、基本的には先述したドラムのオーバー・ヘッドと同じ印象。全体的にブライトな方へ寄る感じですが、今回はデフォルトでの録り音が採用されました。
楽器録りのほかには、1kHzのサイン波とスペクトラム・アナライザーを使って、本機の倍音成分をチェックしてみました。まず、デフォルトの状態およびクラスAディスクリート・アウトのみをアクティブにした状態では、二次/三次倍音共にあまり付加されていませんでしたが、ゲルマニウム・アンプをオンにしてみると、こうした倍音の付加が見られ、特に二次倍音の増加が数値上、著しく見受けられました。
今回、初めてTK AUDIOの製品を使用しましたが、個人的には非常に好みの音を録ることができました。TK AUDIOは、同じ2chのマイク・プリアンプとしてDP1 MK3(オープン・プライス:市場予想価格160,000円前後)というモデルもラインナップしています。DP2は、基本的な機能こそ同じですがハイパス・フィルターが新しく搭載され、価格は5,000円ほどしか違いませんので、コスト・パフォーマンス的にもお得な製品と言えますね。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年11月号より)