「SLATE DIGITAL ML-2」製品レビュー:プラグインとの組み合わせでさまざまな名機の特性を再現するマイク

SLATE DIGITALML-2
近年のAIやバーチャル製品の精度は、技術力やコンピューターの進歩により格段に進化し、精度が非常に高くなってきています。その素晴らしさや利便性、費用対効果などを考えると、無くてはならないものになるのは当然でしょう。今回レビューをするSLATE DIGITAL ML-2は、まさにそんな“バーチャル”を極めた、究極とも言えるレコーディングのためのコンデンサー・マイクです。

コンデンサー/ダイナミックの2つのモード
音圧の高い環境でもマイキングできる

まず、ML-2について分かりやすく説明しましょう。マイク本体であるML-2と、そのマイクで録音された音源をサウンド・デザイン(モデリング)するVMRというプラグインの2つを組み合わせて使うのが基本となります。VMRは、名機と言われるマイクプリやコンプ、EQなどをモデリングしたモジュールを使用できるプラグイン(VMR自体は無償)です。Mac/Windowsに対応し、AAX/AU/VSTで動作します。そのVMR内にマイク・モデリング用モジュールを立ち上げることで、18機種のマイク・モデル(ML-2にライセンスが付属)を選ぶことが可能です。モデリングされているマイクは公表されていないので、ネーミングと画像から想像するしかありません。中には、モデリングをしただけでなくSLATE DIGITALならではのモディファイがされたモデルも備わっていました。モジュール画面上には選択しているマイク・モデルの画像と、マイクと音源の距離感を仮想的に調整できるFAR/NEARスライダー、マイク・モデルを選択するスイッチが表示されます。

ML-2+VMRが基本的な使い方ですが、ML-2単体の使用もできますし、ML-2無しでのVMRによるマイク・モデリングも可能。ただし、想定されている使い方ではないので、あくまでもイレギュラーな使用方法です。VMRを使用する際、同社のマイク・プリアンプVMS-One(オープン・プライス:市場予想価格35,000円前後)や、オーディオ・インターフェースのVRS8(オープン・プライス:市場予想価格220,000円前後)を使用するとより忠実に再現できるとのこと。VMS-OneやVRS8は、色付けの無いクリアなマイクプリを搭載しており、VMRでマイクプリ・モデリングを行うのに最適です。

ML-2の詳しいスペックは公開されておらず、国内Webサイトでは“ノイズレスで超リニアな色づけの無い〜”とだけ表記されています。あくまでもVMRでモデリングしたものがML-2のスペックになるという考え方なのでしょう。ML-2の使用にはファンタム電源が必要で、本体裏のスイッチでノーマル・モード(コンデンサー)とダイナミック・モードに切り替えが可能です。

▲ML-2は楽器向けに開発されており、同シリーズのボーカル向けマイクML-1には無かったNORMAL/DYNAMICスイッチが搭載されている。NORMALでは通常のコンデンサー・マイクとして、DYNAMICではマイクの出力を減衰させて使用可能だ。ドラムやギター・キャビネットなど、音圧の高い環境でのマイキングが行える ▲ML-2は楽器向けに開発されており、同シリーズのボーカル向けマイクML-1には無かったNORMAL/DYNAMICスイッチが搭載されている。NORMALでは通常のコンデンサー・マイクとして、DYNAMICではマイクの出力を減衰させて使用可能だ。ドラムやギター・キャビネットなど、音圧の高い環境でのマイキングが行える

既に発売されている同シリーズのML-1は、ボーカル用のマイクとして開発されたためかモードの切り替えは無かったのですが、今回のML-2は楽器用ということを念頭に置いているので、このダイナミック・モードが搭載されたようです。ただし、あくまでも出力を減衰させてサウンドをダイナミック・マイクに寄せるためのスイッチなので、ファンタム電源は必要になります。このダイナミック・モードにより、ドラムやギター・キャビネットなど、通常はダイナミック・マイクを立てるような状況でも過負荷や不要なひずみを起こすことなく、音圧の高い環境でマイキングすることが可能になったようです。では、実際にスタジオで試してみましょう。

マイク・モデリングを使うことで
通常では考えられないマイキングが可能

まずはVMRを使わずマイクだけを使用した感想ですが、ナチュラルで解像度も高く、S/Nも非常に優れていて、同価格帯のマイクと比べても高いクオリティです。指向性はカーディオイドとなっています。アコースティック・ギターを録ってみたところ、非常にナチュラルなサウンドで、モデリング機能無しでも十分に使用できるレベルでした。歌の録音に関しては若干の物足りなさを感じてしまいましたが、まだモデリングを使っていない状態ですし、問題無いでしょう。

さて、モデリング機能を使ってみます。一番興味があり、好印象だったのがバス・ドラムとスネアの録音です。何と言っても、ML-2は小さなペンシル型ですので、通常では考えられないバス・ドラムへのマイキングが可能なのです。想像してみてください! バス・ドラムの中にラージ・ダイアフラムのビンテージ・マイクを入れられますか? サイズ的にも不可能ですし、恐らくマイクも破損すると思います。モデリングではあるものの、そんな夢のようなことができるのがML-2なんです。バス・ドラムへ実際に立てたときの音も興味深く、どのマイク・モデリングでも最高にごきげんなサウンドを聴かせてくれます。

好印象だったのは、S-47FとS-421というモデルです。推測できるモデリング元はそれぞれ非常に個性の強いサウンドを持つマイクですが、見事にそのニュアンスが再現されています。バス・ドラムの録音で試してみたところ、S-47Fは伸びのある低域で、パンチ力というよりは音量感が増すサウンド。S-421は特徴のある周波数特性を持ち、強調された中高域、EQで補正をするとしっかりとした質量が出てくる低域は、想定されるモデリング元マイクにとても近く、リアリティのあるものでした。

FAR/NEARスライダーによる音の変化においても、思わずニンマリとしてしまうぐらいよくモデリングされています。ただ、ボーカルの場合はFAR/NEARの調整がイメージとは違い、EQカーブが変わったように感じました。恐らくモデリングは無響室で行われているので、FARにしたからといって部屋の初期反射音が加味されるわけではないためでしょう。

18種類すべてのモデリングの感想をこのレビューでお伝えできないのが残念ですが、ぜひML-2を使ってみてください。EQやコンプだけでは味わえない、奥深いマイキングやマイク選びの世界へあなたをいざなうことだと思います。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年7月号より)

SLATE DIGITAL
ML-2
オープン・プライス(市場予想価格:18,000円前後)
▪形式:コンデンサー ▪指向特性:カーディオイド ▪電源:48Vファンタム電源 【REQUIREMENTS】 ●VMR ▪Mac:macOS 10.12以降、INTELのプロセッサー、AAX/AU/VSTに準拠 ▪Windows:Windows 7以降、INTELまたはAMDのプロセッサー、AAX/VSTに準拠 ▪共通:4GB以上のRAM、PACE iLok