「LYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(N)」製品レビュー:さまざまな接続方式に対応したハイエンドAD/DA/オーディオI/O

LYNX STUDIO TECHNOLOGYAurora(N)
今年のNAMM showでも話題になっていたLYNX STUDIO TECHNOLOGYの新型AD/DAコンバーター、Aurora(N)が日本でもリリースされることになりました。拡張スロットに入るカードによってチャンネル構成などが変わるのですが、今回筆者のところに届いたのはDigiLinkポートを搭載したアナログ24イン/24アウト仕様のAurora(N) 24-HDというモデルで、AVID Pro Tools|HDX/HD Nativeのインターフェースとして使用できます。マスタリング・グレードを謳うその実力を試してみました。

ThunderboltやDanteにも対応可能
32trマルチレコーダー機能も内蔵

Aurora(N)シリーズは1Uラック・サイズの中に3つのカードが取り付けられる拡張スロット(LSlot)が付いていて、カードによって8ch、16ch、24ch、そして32chの入出力仕様のものが存在しています。8ch単位での追加だけではなく、カードにはAES/EBU+ADATやDante、そして今回試したAVID Pro Tools|HDX/HD Native、USB(iOS対応)やThunderboltインターフェースも用意されており、今後マイク・プリアンプ機能やアナログ・サミング機能を持ったカードもリリースされる予定とのことです。

フロント・パネルには鮮やかなカラー液晶パネルが付いており、メーターの表示やクロックの選択などをジョグ・ダイアルとボタンを使って操作できるようになっています。画面の解像度が高いこともあってか、メーター表示は小さいながらも非常に見やすく、なめらかに動いていてストレスがありません。

またハイエンド・オーディオ・グレードのヘッドフォン端子を2つ用意しています。各ヘッドフォン端子のモニター・ソースは同一ですが、チャンネルの指定は可能です。

内部の設計には同社のHiloで培われたHilo Converter Technology(HCT)という技術を惜しみなく投入し、各ペア・チャンネルごとに独立したディスクリート・コンバーターを搭載して音質の向上を図っています。さらにmicroSDレコーダーを内蔵しており、最大32trの同時録音と再生にスタンドアローンで対応。最大2TB(microSDHC)対応とのことですから、ライブ録音などでも威力を発揮しそうです。

広がりがありスムーズで分離の良い出音
単体機に引けを取らないクロック精度

中でも筆者の最大の関心事は、Pro Tools|HDXのインターフェースとしての実力です。普段仕事ではAVID HD I/Oを使用していますので、これとの比較試聴を繰り返してみました。

まずAurora(N)のPro Tools用カードには標準サイズのDigiLinkポートが2つ(Primary/Expansion)あります。ポートがMiniタイプではないので、HDXやHD Nativeカードと接続する場合は変換ケーブルが必要です。またLoopSync端子を持っていないので、既存のシステムに組み込む場合はワード・クロックによる同期が必須になります。Aurora(N)のPro Toolsカード自体はHD I/Oをエミュレートしており、Pro Tools HD Softwareのハードウェア設定画面ではHD I/Oとして認識されます。後は通常のHD I/Oと全く同じ使い方です。

幾つかのセッションで録音/ミックスを試してみましたが、まずその出音の素晴らしさに驚きました。HD I/OのD/Aは非常にパンチがあり、ガツンとくるのに対して、Aurora(N)は非常に広がりがあり、スムーズな印象。かといって軽く感じるわけではなく、全帯域にわたってセパレーションが良く、バランスも良好です。ただ、今までに聴いたことのないキャラクターを感じました。最近はPro Tools|HDX用インターフェースとして話題になっている競合モデルが数多くあるわけですが、Aurora(N)はそのどれとも違うキャラクターを持っていると言えます。

まず良いクロックで鳴らしたときのようなサラサラした高域と定位の良さを感じつつ、ボーカルのピーキーな中高域の成分がうまく処理されており、そのせいで全体的に大人でリッチな印象を受けます。何を聴いてもいい音に聴こえてしまう、そういうぜいたくな悩みが出てくるかもしれません。リバーブの見え方も全然違いますので、これでミックスをすると作る音がかなり違ってきました。全体的にフラットかつナチュラルというよりは、Aurora(N)特有の色が付いているというイメージがあるのですが、そこをいい方向に持っていくことができれば確実に音質の向上は狙えるポテンシャルを持っていると言えそうです。

このキャラクターはA/D部分に関しても同じことが言えました。ボーカル録音ではひずみ感の無いクリアな音質が狙え、ドラムのトランジェント感もうまく再現できました。エレキギターの複雑な倍音も良い感じです。やはり全体的にはリッチになった印象で、まさにマスタリング・グレードと言えます。

音を聴いて、これは相当内蔵クロックのSynchroLock 2がいいのだろうということで、試しにAurora(N)をマスター・クロック・ジェネレーターとして使ってHD I/Oを鳴らしてみました。HD I/O内蔵クロックのときよりもよりワイドで全部の楽器がはっきり見える感じで、単体のクロック・ジェネレーターに引けを取らない実力を感じました。クロックによってはちょっと奇麗過ぎて勢いがなくなるという印象の製品もありますが、Aurora(N)のクロックは押し出し感も十分あり、自分好みな音でした。

初めてLYNX STUDIO TECHNOLOGY製品を使ったのですが、個性があってとても良いモデルでした。Aurora(N)は次世代のAD/DAコンバーターとして選択肢に挙げていいのではないでしょうか。

▲今回テストしたAurora(N) 24-HDのリア・パネル。各カード下段に8ch分のアナログ入力&出力(D-Sub 25ピン)が並ぶ。中央のカード上段はワード・クロック入力×1と出力×3(BNC)、右の上段はDigiLink端子×2。32chモデルは左のカードが16ch入出力仕様となる。またUSB(16chまで対応)、Thunderbolt、Danteは右のカードがそれぞれの端子に入れ替わる ▲今回テストしたAurora(N) 24-HDのリア・パネル。各カード下段に8ch分のアナログ入力&出力(D-Sub 25ピン)が並ぶ。中央のカード上段はワード・クロック入力×1と出力×3(BNC)、右の上段はDigiLink端子×2。32chモデルは左のカードが16ch入出力仕様となる。またUSB(16chまで対応)、Thunderbolt、Danteは右のカードがそれぞれの端子に入れ替わる
▲画面では、全入出力レベルを一度に監視できたり、任意の入出力(2ch単位)を高精細なメーターで確認することができる。左にはサンプリング・レートとクロック設定のほか、microSDカードのレコーディング機能用のセッション/テイク表示やカウンターなども用意。各種設定も画面とボタン、ジョグ・ダイアルで行える ▲画面では、全入出力レベルを一度に監視できたり、任意の入出力(2ch単位)を高精細なメーターで確認することができる。左にはサンプリング・レートとクロック設定のほか、microSDカードのレコーディング機能用のセッション/テイク表示やカウンターなども用意。各種設定も画面とボタン、ジョグ・ダイアルで行える

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年11月号より)

LYNX STUDIO TECHNOLOGY
Aurora(N)
オープン・プライス(Aurora(N) 24-HD:市場予想価格550,000円前後)
▪最大分解能:24ビット/192kHz ▪THD+N(1kHz/−1dBFS/20kHzフィルター):−113dB(ライン入力)、−108dB(ライン出力@+20dBuトリム)、−107dB(ヘッドフォン@ボリューム最大) ▪ダイナミック:レンジ(A‐weighted、−60dBFSシグナル・メソッド):119dB(ライン入力)、120dB(ライン出力&ヘッドフォン) ▪周波数特性(20Hz〜20kHz):±0.010dB(ライン入力)、±0.025dB(ライン出力&ヘッドフォン) ▪外形寸法:482.6(W)×43.2(H)×254(D)mm ▪重量:約3.27kg(Aurora(N) 24) REQUIREMENTS (Aurora(N) 24-HD) ▪Mac/Windows:AVID HD NativeカードまたはHDXカード、Pro Tools HD Software 10.1以降、Pro Tools のバージョンに応じたシステム条件 ※そのほかUSB、Thunderbolt、Danteに対応可能。USB接続は16chまでで、iOSにも対応