気鋭クリエイターが語る!とっておきのプラグイン・テクニック〜第6回:TeddyLoid

この連載は、さまざまなクリエイターにプラグイン・エフェクトを使った音作りのノウハウを語っていただくものである。今月登場するのはTeddyLoid。国内EDMプロデューサー/DJの旗手として知られ、Jポップや劇伴といった分野でも活躍している才人だ。中田ヤスタカや☆Taku Takahashi、小室哲哉などと交流を持ち、海外公演も数多くこなす彼は、どのようなテクニックを有しているのか? 今回はボーカル・プロセッシングを中心に、ディープな技の数々を語ってくれた。

使用頻度が高いのはVocal RiderとTune

皆さんはWAVES Vocal Riderというプラグインをご存じでしょうか? ボーカル・トラックへインサートすると、音量のバラつきを自動的にならしてくれるという革命的なツールです。小さなところは大きく、大きなところは小さくしてくれるのですが、“補正された感”のようなものは出ないので、コントロール精度が極めて高いのでしょう。“優れたボリューム・オートメーションを描いてくれるプラグイン”とも言えそうですね。

僕は歌モノの楽曲を手掛けることも多く、制作の際には必ずVocal Riderを使っています。自分なりの細部へのこだわりから、最終的には自らオートメーションを描くのですが、作曲やラフ・ミックスの段階ではお世話になりっぱなしです。気に入っているのは“High Rider”というプリセット。アタック・タイム(補正が始まるまでのスピード)が速く、レンジ(上げ下げの幅)も広いので、シャウトなどのダイナミック・レンジが広い素材もうまくまとまります。またいかなる設定の場合も、補正に合わせて中央のフェーダーが上下するため、自分でオートメーションを描く際の参考にもなるんです。これを手本にして、どんなオートメーションを設定するか決めているほどですね。

▲ボーカルの音量のバラつきを自動的にならすことができるWAVES Vocal Rider。どういった音量調整がなされているかは、中央のRiderフェーダーを監視していれば一目りょう然 ▲ボーカルの音量のバラつきを自動的にならすことができるWAVES Vocal Rider。どういった音量調整がなされているかは、中央のRiderフェーダーを監視していれば一目りょう然

Vocal Riderの後段には、決まってWAVES Tuneをインサートしています。ミキシング・エンジニアの方も御用達のピッチ補正プラグインですね。僕は自分のボーカルを録るときもシンガーの方を録る際にも、技術的な面よりはかっこ良さや叙情性、その曲に合った抑揚などを重視します。シンガーの方に“今のテイク、ピッチが揺れていたので録り直していいですか?”と言われることもあるんですが、そのテイクがグルーブ感に富んでいたりすると、積極的に採用したいわけです。ただ、そういった録り音を音源作品としてブラッシュ・アップしようとすれば、どうしてもピッチ補正が必要になってくるんですね。

Tuneの魅力の一つに、操作性の良さが挙げられます。プラグイン画面内のエディターはピアノロールのようなデザインで、歌を読み込むと視覚的に補正することが可能。一つ一つの音のピッチを半音よりも細かい単位で上げ下げできますし、ピッチの動きが波線のような絵で表示されるため、それをペン・ツールでエディットすれば抑揚も変えられます。あまりにも操作しやすいので、録り音のメロディ・ラインそのものを変化させることもしばしば。補正後の音質がナチュラルなのも良いですね。他社のピッチ補正プラグインに比べて動作が軽い印象なので、そこもお気に入りの理由の一つです。

▲エンジニアの間でもユーザーが多いWAVESのピッチ補正プラグインTune。縦横共にズーム表示可能なエディターで、グラフィカルに調整できるのが魅力 ▲エンジニアの間でもユーザーが多いWAVESのピッチ補正プラグインTune。縦横共にズーム表示可能なエディターで、グラフィカルに調整できるのが魅力

【TOPIC】Vocal Rideのテクノロジーとプリセット制作者について

TeddyLoidさんが“革命的”と形容したWAVES Vocal Riderについて解説しましょう。Vocal Riderの検知アルゴリズムの内部では、時間/周波数/エンベロープの各要素がボーカルに最適化された上で用いられています。ほとんどの内部処理は検知段階で行われ、最終的に正確なゲインを提供。また内部は32ビット浮動小数点演算となっており、処理による副作用をできる限り除去しています。

ほかのWAVESプラグインと同じく、Vocal Riderもプリセットを豊富に備えています。こうしたプリセットはWAVESに貢献してくれているアーティスト、エンジニア、ベータ・テスターなどから募っています。我々は、あらゆるユーザーの用途に見合うプリセット、素晴らしいスタート・ポイントになるようなプリセットを目指しています。またWAVESスタッフの大半がミュージシャン、エンジニアでもあるのです。
(解説:WAVES インターナショナル・マーケティング ウディ・ヘニス氏/Udi Henis氏)

“全部入り”が魅力のボーカル用プラグイン

Tuneの後段には、ボーカル向けのさまざまなエフェクトを統合したIZOTOPE Nectar 2をインサート。EQやコンプ、ディエッサー、サチュレーター、ハーモニー、ディレイ、リバーブ、リミッターなどを組み合わせたプリセットがジャンル別に用意されており、“コンプを立ち上げて、次にディエッサーを立ち上げて……”というように一つ一つロードするよりも速いところが気に入っています。

面白いのは、ピッチ・モジュールのFormantセクションに配置された“Shift”ノブ。これを下げると男性っぽい声、上げると女性的な声に変わるので、女性ボーカルの曲のデモを作るとき、自分の仮歌を加工するのに使っています。音質の変化については、気になったことはありません。そのほか、ディレイやダブリングなどの用途にも便利。とりわけディレイは多用していて、音色が良いのはもちろん、タイムをオートメーションで変化させたときに“ぎゅるん”といったノイズが出ないのも性能の高さを物語っています。

▲IZOTOPE Nectar 2は、さまざまなエフェクトを合わせて扱えるボーカル処理用プラグイン。画面でクローズアップしているコンプのように、複数のエフェクト・モジュールを一覧できるグラフィック・ユーザー・インターフェースだ ▲IZOTOPE Nectar 2は、さまざまなエフェクトを合わせて扱えるボーカル処理用プラグイン。画面でクローズアップしているコンプのように、複数のエフェクト・モジュールを一覧できるグラフィック・ユーザー・インターフェースだ

Doublerにオートメーションを設定する技

Nectar 2の後に挿すものとしては、WAVES Doublerの4ボイス版が挙げられます。“無人島に唯一持っていくプラグイン”と言えるほど、よく使うんですよ(笑)。

用途はメイン・ボーカルのデチューンです。手順としては、まずボーカル・トラックをコピーして、そこにDoublerをインサート。デフォルトではボイス1とボイス3がアクティブになっているので、ボイス1をLch側に定位させてわずかにピッチ・アップ、ボイス3をRch側に振って少しだけピッチ・ダウンさせます。それからダイレクト音(原音)をミュートしオリジナル・トラックとミックスすれば、コーラス効果を伴ったリッチなボーカル・サウンドの完成です。

僕はピッチ・シフトのパラメーターであるDetuneにオートメーションを描くことが多く、ある部分だけピンポイントに効果を強めて揺らしたりします。またパンにオートメーションを設定することで、ブレイクのときは中央に3声を集め、続くドロップでガッツリ広げる……といった演出が可能。オートメーションで場面ごとの変化を付けるのは、現行のEDMでよく使われる手法です。僕は聴き手をハッとさせるギミックを常に模索しているんです。

▲TeddyLoidがボーカルへデチューン効果を加えるために愛用しているWAVES Doubler(4ボイス版)。画面には原音+4つの声部のためのパラメーターが並び、それぞれのオン/オフをはじめ、パンやピッチの調整が可能 ▲TeddyLoidがボーカルへデチューン効果を加えるために愛用しているWAVES Doubler(4ボイス版)。画面には原音+4つの声部のためのパラメーターが並び、それぞれのオン/オフをはじめ、パンやピッチの調整が可能

楽曲の低音部にもWAVESが大活躍

フロア映えする音作り、という観点ではWAVES Scheps Parallel Particlesも有用。AIR、BITE、SUB、THICKの4つのエフェクト・ノブを備えており、いずれか1つを触るだけでも劇的に音が変わるんです。僕はこれを、ライブやDJのための“スペシャル・エディション”の制作に使っています。既発の楽曲をプレイするにしても、オーディエンスには“オリジナル・ミックスと何かが違う!”といった新鮮味を味わってほしいし、ドロップにさらなる迫力を持たせるなどしたいものです。
そこで便利なのがSUB。ノブ1つで超低域を強化できるため、ドラムやベースによく使っています。例えばウォブル・ベースにかけると面白い。オートメーションを描いて、発音しているときにだけかかるよう設定すれば、かなりのメリハリを付けることができます(その場合、発音していない部分は完全オフにするのがキモです!)。

▲アデルやラナ・デル・レイのエンジニアリングを手掛けるアンドリュー・シェップスのテクニックを再現したWAVES Scheps Parallel Particles。TeddyLoidは高域を強調するAIRノブにオートメーションを設定し、シンセのリバーブのみにかけるなど工夫を凝らして使っている ▲アデルやラナ・デル・レイのエンジニアリングを手掛けるアンドリュー・シェップスのテクニックを再現したWAVES Scheps Parallel Particles。TeddyLoidは高域を強調するAIRノブにオートメーションを設定し、シンセのリバーブのみにかけるなど工夫を凝らして使っている

ベースと言えば、ギター用アンプ・シミュレーター&エフェクトのWAVES GTRも欠かせない一品。僕はベースを作る際にサブベースとハイベース(主に高域成分を担うベースのレイヤー)の2種類を重ねることが多く、そのハイベースをGTRでひずませてヒリヒリとした成分を強調しています。ギター・アンプのモデリングとあって、一般的なオーバードライブなどよりもエグくひずんでくれるため、フレンチ・エレクトロっぽい雰囲気を出すのに最適。またプリセットが超豊富で、なおかつクオリティも抜群なので、曲作りのインスピレーションがかき立てられます。これはWAVES製品すべてに言えることですね!

▲WAVESのギター用アンプ・モデリング&エフェクトGTR。 フレンチ・エレクトロを出自とするTeddyLoidらしく、シンセ・ベースやリードを過激にひずませるのに使っている。「ジャスティスなどのフレンチ・エレクトロ勢は実際のアンプにシンセを通していましたが、それをDAW上で実践しているわけです。シンセは僕にとってギターのような感覚です」とTeddyLoid ▲WAVESのギター用アンプ・モデリング&エフェクトGTR。 フレンチ・エレクトロを出自とするTeddyLoidらしく、シンセ・ベースやリードを過激にひずませるのに使っている。「ジャスティスなどのフレンチ・エレクトロ勢は実際のアンプにシンセを通していましたが、それをDAW上で実践しているわけです。シンセは僕にとってギターのような感覚です」とTeddyLoid

既にお気付きの通り、WAVESのプラグインは僕の制作の核となる部分で、“10代のころにMercuryバンドルを買ったからこそプロになれた”と言っても過言ではありません。例えばL2やL3といったマキシマイザーを使っていなければ、海外クリエイターに比肩する音圧を手に入れるのは難しかったでしょう。

現在は“パソコンを使えば安くで音楽が作れる”という風潮なのかもしれませんが、僕は道具にお金をかける価値というものは必ずあると考えています。入手して使い込んだ分、自分の音に返ってくるので、皆さんもいろいろトライしてみましょう。