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2VCOのクロス・モジュレーションが可能
ジョイスティックによる直感的な操作
まずはDriftbox W。本機は2VCO/1VCF/1VCAのアナログ・シンセで、一方のVCOでもう一方のVCOを周波数変調するクロス・モジュレーションを音作りの基本としている。またVCOの周波数でVCFの変調もでき、さらにはVCFの発振も可能。VCOの信号を内蔵ディレイで遅延(最大350ms)させた上でVCOに戻すという、フィードバック・モジュレーション回路まで搭載している。
各セクションの操作は、計5本のジョイスティックで直感的に行える。例えばVCOのジョイスティックは、縦方向で出力レベル、横方向で周波数をコントロールする。VCFは縦でモジュレーション・レベル、横でカットオフ。ディレイ・セクション(フィードバック・セクション)では縦でディレイ・タイム、横でフィードバック・レベル。ドリフト・セクション(LFOセクション)では縦でLFOの出力レベル、横でLFO周波数をコントロールする。ツマミなら両手で行う操作が、指一本のアクションで可能だ。
5本のジョイスティックの関係には、スイッチ類のセッティングなども複雑に絡み合っているので、音の変化は時に奏者の予測をはるかに超えてしまう。自由に操るには日々の修行が必要となるだろうし、そのくらいディープなシンセだと思って付き合うべきだ。
さらに注目すべきポイントがある。背面には各VCOのためのCVインやGateイン/アウトが装備されている上、5本のジョイスティックそれぞれのCVアウトが備えられている。ジョイスティック・アウト(以下、JSアウト)1と2はVCO1/VCO2のもので、周波数の電圧を出力する。JSアウト3はフィルターのジョイスティックのもので、モジュレーション・レベルの電圧を出力。そしてJSアウト4と5は、ドリフト・セクションのジョイスティックのLFOレベルとLFO周波数の電圧を送り出すようだ。この電圧を賢く理解できれば、本機で外部のモジュラー・シンセのパラメーターを効果的にCV制御することも可能。というわけで、モジュラー・シンセのコントローラーとしても役に立つだろう。また手元に外部シンセが無くても、例えばJSアウト2をVCO2のCVインに入力して(つまり戻して)みると、予想通り最高の出音が得られる。
音声の出力レベルをシーンとして保存
CVの加算だけでなく生成も行える
次にDriftbox Cだ。本機は4chのオーディオ/CVミキサーで、音声のミックスやCVの加算が行える。4つのチャンネルのそれぞれには、2つのオーディオ・アウトへ出力するためのレベル・ツマミがスタンバイ。これらはバスと考えると分かりやすい。アウト1と2をL/Rと考えると、ただのミキサーの発想から抜け出せない。例えばアウト1は外部ディストーションへ、アウト2はリバーブへというFXバス的な使い方はどうだろうか(ギタリストが使うと威力を発揮する画期的なマシンかもしれない)。
そして最も特徴的だと思ったのは、全チャンネルのオーディオ出力レベルを最大8つのシーンとしてメモリーできることだ。シーンの切り替えは、パネル右下の白いボタン、または背面のGateインからの電圧信号で行える。モジュラー使いの筆者としては、外部シーケンサーからGate信号を受け取るたびに各チャンネルのレベルを変化させたり、外部エフェクトへの送りをリバーブからディレイへ瞬時に切り替えるなど、妄想が止まらない。ちなみに各種スイッチ、各チャンネルのCV出力レベル、マスター・レベルの設定はメモリーできないので、ご注意を。
ところで1CHと3CHには、それぞれ“VCA”というトグル・スイッチがある。普通ミキサーでVCAと言えば音量変化のパラメーターだが、本機のそれは違う。このスイッチをオンにすることで、1CHと3CHのCVイン・ツマミが最大で約11VのCVを生成/出力するモードになるのだ。例えば2CH〜4CHへCVを入力しつつ、1CHのVCAスイッチをオンにしてイニシャル・ボルテージを加算……という使い方はどうだろう。また本機には何も入力せずに、1CHと3CHでCVを生成しつつ、CVアウトを外部機材につなぐといったコントローラー的な使い方も可能だ。ちなみに、すべてのチャンネルをオーディオに使用しても、VCAスイッチはCVイン・ツマミに対して有効な状態なので、ぜひ同時にCVアウトを活用したい。
ざっとDriftbox WとCについて紹介したが、この手の硬派なマシンには他者が考え及ばない設計者のこだわりがあるはずだ。ユーザーはそれを読み解きながら、大胆に“間違った使い方”もしてみよう。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年6月号より)