SHURE最高峰ワイアレスAXT Digital発表会

5月29日&30日、SHUREのフラッグシップとなるデジタル・ワイアレス・システムAXT Digitalの発表会が、東京・恵比寿のザ・ガーデンルームで開催された。今回はシカゴのSHURE本社から製品企画/開発担当のマイケル・ジョーンズ氏が来日し、プレゼンテーションを行った。

SHURE本社でAXT Digiltalの製品企画/開発を担当したマイケル・ジョーンズ氏 SHURE本社でAXT Digiltalの製品企画/開発を担当したマイケル・ジョーンズ氏

世界的なワイアレスの課題をクリア

日本では従来のA帯から新帯域への移行が行われたことが記憶に新しいが、SHUREの本国であるアメリカはもちろん、世界各国で電波利用の制限が厳しくなっている。そんな中で求められるRF安定性とオーディオ品質、そしてデジタル・ドメインの現在のシステムにおける利便性などを兼ね備えたシステムとして、AXT Digitalは開発された。

AXT Digitalは、SHUREの従来のアナログ・ハイエンド・モデルAXTと、デジタルのトップ・モデルUHF-Rの後継となるもの。レシーバーは2chのAD4D、4chのAD4Qがあり、トランスミッターはUHF-Rからのアップグレードを想定したリーズナブルなADシリーズと、新たなハイエンドとなるADXシリーズがラインナップされている。

受信機は共通。送信機はADシリーズとADXシリーズの2ラインナップから選択できる 受信機は共通。送信機はADシリーズとADXシリーズの2ラインナップから選択できる

ジョーンズ氏は、以下の4点をAXT Digitalの特徴として挙げた。

●RF安定性

 AXT Digitalは新しい変調方式を採用し、安定性と到達距離の延長を実現。送信機からの電波の強さとSN比を常時監視するChannel Quality Meterも装備する。ダイバーシティも、各アンテナで良好な方を選択するのではなく、常時複数のアンテナの信号を合成するトゥルー・ダイバーシティ方式を採用。4つのアンテナを使用するクアッドバーシティにも対応する。さらに、多チャンネル運用を可能にするハイデンシティ・モードは6MHzで17chから47chに拡張可能。到達距離は通常に比べてやや短くなるものの、後述のオーディオ品質は変わらない。

チャンネル名の左にある白いメーターがChannel Quality Meter チャンネル名の左にある白いメーターがChannel Quality Meter

●オーディオ品質

 同社のワイアード・マイクと比較しても遜色の無い透明感ある音質を実現しつつ、レイテンシーはアナログ出力使用時で2ms(ハイデンシティ・モードでは2.9ms)。デジタル出力はDanteとAES3を備える。また会議などでの使用を考慮し、AES256による暗号化も行う。

●コマンドとコントロール

 Wireless Workbench(Mac/Windows)やChannels(iOS)といった従来からのコントロール・ソフトが使用可能な上、受信機のヘッドフォン・アウトで他のDante機器の信号をモニターするDante Browse、受信機1台のヘッドフォン・アウトでシステム上の任意のチャンネルのモニターが行えるDante CueといったDante関連の機能が充実。充電器の使用状況もネットワークでモニタリングできるため、例えば広大なキャンパス内の各教室の充電状況を集中管理したり、ギター・テックが担当するワイアレス送信機の充電状態をモニター・エンジニアがチェックしたりといったことが行える。

●ハードウェアと拡張性

 先述のように、AD/ADXシリーズどちらの送信機にも共通の受信機であるAD2D/Qが使用可能。AD2Q/Dは470〜636Hz(G56)対応機と、606〜714Hz(K56)&B帯対応機の2タイプが日本向けに用意される。また、スペクトラム・マネージャーやバッテリー・チャージャーなどのアクセサリーはAXTのものが流用可能だ。

予算に応じて選択できる2タイプの送信機シリーズ

先述の通り、送信機は2つのシリーズから選択が可能だ。

ADシリーズは、ボディパック型のAD1と、ハンドヘルドのAD2がラインナップ。AD2はKSM8/KSM9のヘッドに合わせたブラッシュド・ニッケル仕上げも用意される。AD2の電源スイッチは最下部に用意されているため、使用者が不用意にオフにしてしまう可能性も少ないという。

ADシリーズのラインナップ ADシリーズのラインナップ

ADXシリーズは、2.4GHz帯を使ったShowLinkリモート・コントロールに対応。電波の状況をチェックし、使用中であっても安定したチャンネルへ自動で切り替えることができる。ShowLinkのアクセス・ポイントとしてダイバーシティ化を果たしたAD610が新たに追加された。

ADXトランスミッターは、ボディパックは従来のような形状のADX1に加えて、小型でアンテナを内蔵したADX1Mも登場。ハンドヘルド型はSHUREの従来モデルよりも細身でコンパクトなデザインとなり、ノーマル・タイプのADX2と、FDモード(2つのチャンネルを使って冗長化するモード)を備えたADX2FDが用意されている。

ADXシリーズのラインナップ ADXシリーズのラインナップ

遠達性やカバー・エリア、干渉などさまざまな問題をクリアする機能

製品のプレゼンテーションを終えたジョーンズ氏は、ウォークテストとして、クアッドバーシティのデモを行った。アンテナをザ・ガーデンルームのステージ下手&上手、ロビー、楽屋に設置。会場からロビー→楽屋→ステージと歩きながらAXT Digitalを使用し、Wireless Workbenchの画面をスクリーンに表示して、安定した受信状況をサウンドと共に来場者へ示していた。

ADX2を手に、クアッドバーシティのデモをするジョーンズ氏。左画面がWireless Workbenchで、各アンテナの受信状況などが時間軸上でモニタリングできる ADX2を手に、クアッドバーシティのデモをするジョーンズ氏。左画面がWireless Workbenchで、各アンテナの受信状況などが時間軸上でモニタリングできる

また、客席数6万を超えるシカゴの巨大スタジアム、ソルジャー・フィールドで撮影したデモ・ビデオも公開。ハイデンシティ・モードでの150mもの遠達性能、バックステージまでカバーするクアッドバーシティ、TV電波と近い帯域での200mもの長距離使用といったテストが行われていた。

デモ・ビデオより。“MJ”と記されているのがジョーンズ氏のいる場所で、アンテナから219ヤード(200m)。あえてテレビ電波と近い周波数でテストを行い、クリアな音声伝達をアピールしていた デモ・ビデオより。“MJ”と記されているのがジョーンズ氏のいる場所で、アンテナから219ヤード(200m)。あえてテレビ電波と近い周波数でテストを行い、クリアな音声伝達をアピールしていた

最新の超小型ボディパックに秘められた特許技術

ジョーンズ氏に直接話を聞く機会を得たので、プレゼンテーション内でほとんど触れられていなかった小型ボディパック、ADX1Mについて詳しく聞いてみた。
SHUREでは顧客やユーザーから意見を聞くことを大切にしているが、対象は何もエンジニアだけではないという。

「衣装担当のスタッフや演者にも話を聞きました。小型化を望む声は我々も予想できましたが、トランスミッターを袖口に入れたり、太ももに張り付けたり、ウィッグに仕込んだりといった使用例が分かったのです」

完成したADX1Mは丸みを帯びた樹脂製のボディを採用している。

「人の身体に直接触れることを想定して、角の無いデザインにしました。またバッテリー・エリアやボタンのすき間などから汗が入り込まないような設計にしています。ボディはULTEMという、優れた耐熱性を持つ樹脂で、内部の温度が65℃でも70℃でも、外に熱さを伝えることはありません。逆に言えば、内部は熱くなってもきちんと動作するような仕様になっています」

もう一つADX1Mの特徴的な点は、アンテナを内蔵していることだ。

「通常のRFアンテナに加えて、パワー・センシング・アンテナを備えており、電波を効率的に出力しているかをセルフ・チューニングする仕組みとなっています。一般的なボディパックは使用する周波数に合わせてアンテナの長さを決めていますが、ADX1Mは内部で電気的にチューニングしています。同時に身体に装着することで起こる送信のロスなどもありますから、それをパワー・センシング・アンテナでリアルタイムに監視し、アンテナの長さを調整するのと同じようなチューニングをしているのです。これは米国特許を取得した、SHURE独自の技術なんですよ」

最後に、一般的な形状のボディパックであるADX1との違いについても聞いてみた。

「最大出力は通常タイプのADX1の方が大きいです。しかし、全くフリーな状態でトランスミッターを使う人はいません。身体につけた状態ではセルフ・チューニングが行えるADX1Mの方が安定した送信が行えるでしょう。特に、衣装に取り付けるためにADX1のアンテナを曲げてしまう場合などは、本来の性能が出ませんから、なおさらですね」

ADXシリーズのトランスミッター。左上がADX1M、右がADX1、手前がSM58ヘッドを装着したADX2。ADX1Mのコンパクトさが分かるだろう ADXシリーズのトランスミッター。左上がADX1M、右がADX1、手前がSM58ヘッドを装着したADX2。ADX1Mのコンパクトさが分かるだろう

AXT Digitalにいち早く触れる機会

既報の通り、AXT Digitalの発表会は今後、大阪、福岡、名古屋、札幌、仙台で開催予定(関連記事へリンク)。発売はADシリーズが今年8月、ADXシリーズが来年早々を予定しているというので、いち早くこの新しいシステムに触れてみたい音響関係者はぜひ発表会へ足を運んでほしい。