
170°の指向特性で音の反射が増え
空間に溶け込んだ柔らかい音質になる
本製品は、私たちPAエンジニアが普段使用しているラインアレイやモニターなどで使用するハイパワー級のものではなく、主に壁にマウントして使用するかなり小型なもので、フルレンジのVXS1MLとサブウーファーのVXS3Sがあります。その小型さゆえ、手元に届いた幾つかの箱のうち、どの箱にスピーカーが入っているのか判断できなかったほど。スピーカーが入っているという小さな箱を開けて、中にVXS1MLが4つも収められていたときは驚きました。サイズはVXS1MLが62(W)×62(H)×82(D)mmで0.17kg。VXS3Sが322(W)×162(H)×118(D)mmで2.7kgと、かなり小さくて軽いですね! カラーは2種類あり、白色のVXS1MLWとVXS3SW、黒色のVXS1MLBとVXS3SBから選べます。
VXS1MLは1.5インチのネオジム磁石を使用したフルレンジ密閉型で170°×170°の指向性、180Hz〜20kHzの周波数特性を持ち、インピーダンスは8Ω、許容入力は10W(PGM)、最大音圧レベルは92dB SPLという性能です。VXS3Sは無指向性で65Hz〜180Hzの周波数特性、インピーダンスが8Ωで許容入力が40W(PGM)、最大音圧レベルが98dB SPLと、店舗用としてはかなりハイスペックではないでしょうか?
サブウーファーのVXS3Sは、パッシブ・ラジエーター方式を応用したYAMAHA独自の低音再生技術、Swing Radiator Bass(SR-Bass)方式を採用しています。振動板の一辺のみを固定することで動きの制限を解放しており、振動板のしなりで効率良く低域を拡張する技術だそうです。
インプット端子はVXS1MLがユーロブロック、VXS3Sがバリア・ストリップ端子で、余分なコネクターなどは必要ありません。VXS3Sを経由してVXS1MLを接続(サテライト接続)することによりローインピーダンスはもちろん、ハイインピーダンスの入力も可能です。パワー・アンプや現場を選ばないため、プランニングも容易となっています。付属の取り付け金具のほか、マウント・アダプター(別売り)も用意されており、壁や天井に埋め込んだ状態で設置できることもポイントが高いでしょう。
今回は部屋の四隅にVXS1MLを設置し、部屋のセンターにVXS3Sをセッティング。パワー・アンプには、VXSシリーズを最適にドライブする専用スピーカーEQを搭載しているYAMAHA MA2030Aを用いて、ローインピーダンス設定でサテライト接続をしてみます(写真①)。サテライト接続を行うことでVXS1MLにハイパス・フィルターがかかり、VXS1MLとVXS3Sの周波数特性がスムーズにつながるようです。これで誰でも簡単に“良い音”が手に入りますね!

実際に音を聴いてみましょう。……良い!! 耳に負担がかかりにくい、とても素直なサウンドです。周波数に大きなピークも無く、音がぼやけているわけでもなく、聴きやすい“空間になじむ”音になっています。170°の指向特性により音の反射が増え、場に溶け込んだ柔らかい音質になるという、“スピーカーからの直接音を聴かせる”という方向性とは違ったアプローチです。直接音は“音楽を聴く”ときは良いのですが、“BGM”として音源を流すときに、“もう少しぼかしたいのに音量を下げると聴こえにくくなる”という音量感の戦いが生まれたりします。そういった場面で本製品は有用でしょう。筆者が考えていた“小型スピーカーの音質の限界”がいとも簡単に崩されてしまいました。
VXS1MLとVXS3Sを組み合わせて
アンビエンス用スピーカーとしても使える
今回、VXS1MLとVXS3Sを使って、会場の余韻をコントロールできるシステムを本機で再現できないか?と思い、“VXS1ML+VXS3Sで作る余韻コントロール・システム”計画を実行しました! 下向けにしたVXS3Sの周りに、金具を使ってVXS1MLを外向けに4つ取り付け、配線して完成です。これを天井からつるします。あとはライブ・ハウスのブースにMA2030Aを置き、リバーブを用意して接続。メイン・スピーカーとは別にこのシステムへ2ミックスを送って、リバーブ成分のみが出力されるようにすると、さもコンサート・ホールでプレイしているかのような空間が出来上がります。リバーブが空間になじみ、本機の広い指向特性がこれまた良い仕事をしてくれました。
筆者も含め、最近は良い音を届けるために“直接音をいかにコントロールするか”を追い求めている人も多いような気がします。このVXS1ML+VXS3Sはそれとは違ったアプローチで、優しく包み込むような満足するサウンドを届けられるスピーカーとなってくれるでしょう。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年6月号より)