「YAMAHA EMX7」製品レビュー:スピーカー・プロセッサーなどを備える多機能なパワード・ミキサー

YAMAHAEMX7
YAMAHAが新しく発売したPA用パワード・ミキサーEMXシリーズ。固定設備用としてよく見る形のミキサーですが、従来のEMXシリーズの血統を受け継ぎつつ最新の技術とノウハウが投入されています。パワー・アンプ出力などの仕様違いで、EMX7とEMX5の2機種がラインナップされていますが、入力はいずれも12ch。今回はEMX7をチェックしてみましょう。

9.5kgと軽量で側面に持ち手を用意
入出力端子のバラエティが豊か

手元に送られてきたEMX7を箱から取り出すと、とてもオシャレなデザインです。最大出力710W(4Ω)のクラスDパワー・アンプがL/Rの2台分入っているのに、本体は9.5kgと軽量。側面には持ち手があります。

インプット部は先述の通り12chで、マイクは最大8本接続できます。ch1〜4にはワンノブ・コンプを搭載。コンプの難しい動作原理を覚えることなく、1個のノブを回すだけで最適な効果を得られます。マイクのほかは、電子キーボードやCDプレーヤー、携帯オーディオ機器などのライン入力にも対応。ch11/12には、スマートフォンなどを接続できるステレオ・ミニのライン・インがあり、心憎い仕様です。もちろんHi-Zスイッチやファンタム電源なども装備しています。出力端子もバリエーション豊かで、メインのスピーカー以外にパワード・モニターやパワード・サブウーファーを接続することが可能です。

大きな進化を感じるのは、フロント・パネルに備わった液晶パネル。ステレオ・アウトやAUXセンドに使える内蔵グラフィックEQ、“Flex9 GEQ”の操作画面などを表示できるのです。このFlex9 GEQでは、選択肢として用意された31バンドの中から任意の9バンドを選んで調整することができます。また、スピーカーの性能を最大限に引き出すDSPプロセッサーも装備されています。こちらも液晶パネルを見ながら操作でき、CBRシリーズなどのYAMAHA製パッシブ・スピーカーを接続すれば、使い勝手の良いシステムを構築できます。そのほか、BASS BOOSTモードや、不快なハウリングをボタン1つで除去するフィードバック・サプレッサーなども内蔵しています。

とても素直な音質のマイク・イン
内蔵DSPで併用するスピーカーに最適化

まずは弊社の倉庫にてチェックしてみました。リアにはスピーカー・アウトとして、スピコン/フォーンのコンボ端子があります。既存のミキサーから置き換えやすい端子形状なので、うれしい配慮ですね。

まずはマイク・インにダイナミック・マイクを接続。とても素直な音で、安っぽくありません。ワンノブ・コンプは、効き過ぎるくらいしっかりとかかりますね! しかし、かかっているときには出力ゲインがアップされるようで、オーバー・コンプで音量が下がり過ぎるようなことはありません。チャンネルEQは3バンドで、高域10kHz、中域2.5kHz、低域100Hzとおいしいポイントが設定されていて、使いやすいです。

続いてFlex9 GEQをチェック。直感的に使えますし、効きも良く操作が簡単です。そのほかの出力系機能に関しては、システム設定でアンプ出力を“L+R/AUX1”にセットすれば、L+Rのモノラル信号をメイン・スピーカーに、モノラルのAUX信号をモニター・スピーカーへ送ることが可能。すぐにパワー・アンプを追加できない現場でもモニターを使えるので、これはうれしい仕様ですね。

一通りの機能を理解したところでフィールド・テストをしてみたくなり、弊社管理のビア・ガーデン・ライブ会場に持ち込みました。併用したスピーカーはCBR12です。まずはノーEQで音を出してみました。音量は十分で、会場内でのエリア・カバーも問題ありません。

ここでEMX7の内蔵スピーカー・プロセッサーをCBR12用のモードに設定すると、出音がさらにハイファイに。高域が聴きやすくなったのもさることながら、主に低域の補正を行ってくれたようで、ボトムが伸びてとても立体的になりました。音量も十分です。内蔵スピーカー・プロセッサーで基本的な音作りができますので、さまざまな会場でグラフィックEQでの補正に困らないと思います。

新しい機能を取り入れながら操作しやすいミキサーを作るのには、かなりの技術的努力を要すると思います。筆者は、音色の向上をベースに正常進化したEMXシリーズを高く評価したいと思います。

▲リア・パネルにはスピーカー・アウトL/R(スピコン/フォーン・コンボ)を装備 ▲リア・パネルにはスピーカー・アウトL/R(スピコン/フォーン・コンボ)を装備
▲今回のテスト会場に持ち込んだYAMAHA CBR12。2ウェイ・パッシブ機で、ウーファー口径は12インチ ▲今回のテスト会場に持ち込んだYAMAHA CBR12。2ウェイ・パッシブ機で、ウーファー口径は12インチ
▲EMX7の本体液晶に映し出されたFlex9 GEQ ▲EMX7の本体液晶に映し出されたFlex9 GEQ

link-bnr3

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より)

YAMAHA
EMX7
オープン・プライス(市場予想価格:90,000円前後)
▪入力チャンネル:12 ▪チャンネル・コンプ:ワンノブ・タイプ(アタック・タイムは約25ms、リリース・タイムは約300msで固定) ▪チャンネルEQ:3バンド ▪内蔵マルチエフェクト:24種類(SPXアルゴリズム) ▪内蔵DSPプロセッサー:フィードバック・サプレッサー、グラフィックEQ、スピーカー・プロセッサー ▪外形寸法:465(W)×308(H)×325(D)mm ▪重量:9.5kg