
EQやコンプを備えたアナログ・イン
USBストレージに直接パラで録音可
TouchMix-30 Proは、32イン/16アウトのデジタル・ミキサー。パネルの中央には10インチの大型マルチタッチ・スクリーンが装備され、プロはもちろん経験の浅いオペレーターでも直感的に扱いやすい仕様です。
32ch入力の内訳は、マイク/ライン・イン×24、ライン・インL/R×3、ステレオのデジタル・イン(USB)。マイク/ライン・インにはクラスAのヘッド・アンプが搭載されており、マイク/ライン・インとライン・インL/Rのすべてに4バンドEQやコンプ、ゲートなどが入っています。
16ch出力の内訳は、メイン・アウトL/RとAUXアウト×14。これらには、6バンドのパラメトリックEQや1/3オクターブのグラフィックEQのほかアンチフィードバック・フィルターが備わっており、ハウリングを防いでくれます。AUXのチャンネルはステレオ・リンクさせることができ、AUX 11/12と13/14のミックス・バスにはインイア・モニター向けのヘッドフォン・アウトもスタンバイ。これらのヘッドフォン・アウトからはAUXアウトと同じバランスの音が出ます。AUXアウトの隣にあるモニター・アウトL/Rには、メインとAUXを選んでアサイン可能。16chの出力では内蔵のRTA(Real Time Analyzer)を使えるため、出音の周波数バランスを視覚的にも確認できます。
録音機能も充実しており、本体のUSB A端子から外部のUSBストレージに直接、32trのマルチトラック・レコーディングが可能。インプット・チャンネル1〜30とメイン・アウトもしくはAUX 13/14を32ビット・フロートのオーディオで録音できます。またアナログ32イン/32アウトのMac用USBオーディオI/O機能も備えており、本体のUSB B端子とMacを接続してDAWソフトへのマルチトラック・レコーディングが可能。さらにはリモート・コントロールにも対応し、Android/iOSのタブレット・デバイスからWi-Fi経由で制御できます。
抜けと歯切れが良いマイク・インの音
部屋の音響に合わせてGEQを自動補正
外観については、32chミキサーとは到底思えないくらいのコンパクトさ。従来の業務用小型ミキサーの2/3程度でしょうか。重量も非常に軽いですし、このサイズでこのスペックというのは大きな利点だと思います。
ヘッド・アンプのアナログ・ゲインは本体にメモリーすることができませんが、ADコンバーターの後段にはデジタル・ゲインがあるので、ヘッド・アンプでざっくり設定し、微調整をデジタル・ゲインで行うと良いでしょう。マイク・インの音は非常にすっきりとした印象で、低域に余計なダブつきが無く、抜けと歯切れが良いです。RTAなどを併用すれば、とっさのハウリングにも素早く対応できるでしょう。内蔵のプロセッサー(FX)は全6種類で、リバーブやディレイに加え、コーラスやピッチ・シフトも搭載。ミュージシャンからの要求に幅広く対応できます。
本機はいろいろな機能を備えていますが、操作系がシンプルで使いやすいと思います。私自身、タッチ・スクリーンでのオペレートは苦手な方なのですが、パネル右下のマスター・エンコーダーが便利です。左手でスクリーンを触りながら右手でエンコーダーを操作する感覚は非常にスムーズで、EQやコンプなどの設定を直感的に行えます。また“∅”(Zero)というボタンが付いていて、これを押せば選択中のすべてのパラメーター値を0にすることも可能です。またチャンネル間で設定をコピー&ペーストするためのボタンもあり、実際に使ってみると思っていた以上に便利だと感じました。そして面白いのが“Tuning Wizard”という機能。トークバック・インに市販の測定用マイクをつなげば、部屋の音響特性に合わせてメイン/AUXアウトのグラフィックEQを自動補正してくれるのです。先述の通り録音の機能も豊富で、録り音も十分なクオリティだと思います。
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プロ・エンジニアがライブ・ミキシングに必要とする機能を豊富に備え、32イン/16アウトで非常にコンパクト。特に小型のタッチ式デジタル・ミキサーの難点だった操作性が改善されているので、誰にでもお薦めできる一台だと感じます。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年4月号より)