「GRACE DESIGN M108」製品レビュー:オーディオI/Oやミキサーとしても使える多機能な8chマイクプリ

GRACE DESIGNM108
今回レビューするのは、GRACE DESIGNから新しく発売された8chのマイク・プリアンプM108。リモート・コントロール可能な同社マイクプリM802の設計を受け継いでおり、さらにはMac/Windows対応のUSBオーディオI/Oやデジタル・ミキサーとしても使用できるなど多機能です。

ワイド・レンジかつハイファイな音質
内部のファンで自動的に温度を管理

とりあえず使ってみようと箱から取り出したとき、まずは軽さにびっくりしました。トランスフォーマーレス回路の恩恵でしょうか、重量は2.3kgです。

フロント・パネルにあるのはHi-Zの入力端子×2とヘッドフォン・アウト、ディスプレイ、ボリューム&ミュートとエディットの2つのロータリー・エンコーダー、4つのスイッチ、電源スイッチのみで本当にシンプル。リアには所狭しと端子が並び、マイク・イン×8、アナログ・アウト、AES/EBUアウト、ADATアウト×2、ワード・クロック・イン/アウト、リモート・コントローラーをつなぐためのMIDI IN/OUT、同じくコントローラーやルーターなどを接続するためのイーサーネット端子、オーディオI/Oやミキサーとして使う際につなぐUSB端子などがあります。このほかオプション・カード用のスロットも装備され、今回のデモ機にはCR(Control Room) Output Cardというアナログ・アウトのカードが入っていましたが、Danteカードなどを入れることも可能です。

フロントのスイッチの上下には機能名が書かれており、上の方がマイクプリとして使うときの機能。+48Vのファンタム電源、フェイズ(長押しでリボン・マイク・モードに入る)、ピーク・クリア(長押しでセットアップ・モードになる)、グループ・モードがあります。

グループ・モードとは、複数のチャンネルのゲインをひとまとめに調整するための機能で、スイッチを長押ししながらエディット・エンコーダーを回すと、同じグループ内にチャンネルが追加されます。最大8ch分をグループ化できますが、例えば“ch1とch6”のように飛び石で組むことはできません。またグループ化しているときに調整できるのは、ゲインのみとなります。ピーク・クリア・スイッチの長押しで入るセットアップ・モードでは、サンプリング・レートやクロック・ソースの選択など、あらゆる設定が可能。保存もできるので、お決まりの設定を記録しておけば現場での準備もスムーズです。

マイクプリとしての音質は全くと言っていいほど癖が無く、ワイド・レンジでハイファイです。歌とアコースティック・ギターに試したところ、細かいニュアンスまでしっかりと収めてくれるので好印象。高域は伸びているものの耳に痛くありませんし、低域はタイトというよりは下まできちんと再現する感じです。

後日、ライブ・レコーディングにてオーディエンス用のマイクプリとして使ってみたところ、音の立ち上がりが速く、位相も良かったので臨場感あるサウンドを残すことができました。現場では、ほかの機材とともに結構ギチギチにラック・マウントしていましたが、そんなに熱を持たず安心でした。音質最優先の現場では上下をなるべく空けて、本体が30℃を超えないように使うのがお勧めだそうです。サイドにファンが付いていて、45℃以上から4段階でファン・スピードをコントロールして温度管理してくれますが、今回は回転数も上がらず静かでした。

デジタル・ミキサー機能を活用すれば
レイテンシーの無い録音が可能

M108はアナログ8イン/2アウトのUSBオーディオI/Oやデジタル・ミキサーとしても機能します。ミキサー・モードにはボリューム・エンコーダーの長押しで入ることができ、スイッチの下に書いてあるミュート/ソロ/パンの各機能を使えるようになります。目的のものをスイッチで選び、エディット・エンコーダーで調整する形ですね。

“オーディオI/O機能があるんだったら、ミキサー機能は不要なのでは?”と思ってしまいそうですが、DAWからのステレオ・ミックス(USB経由)とマイク・インの音声を同時に立ち上げれば、レイテンシーの無い状態での録音が可能。モニタリングは、ヘッドフォン・アウトや先のCR Output Cardから行えます。またライブ・レコーディングの場合は、PAシステムの出力とオーディエンス・マイクをミックスしてモニタリングしつつ、各楽器をパラで録ることも可能。ヘッドフォン・アウトの音質は、普段使用している同社M920に比べて若干腰高だと感じますが、周波数レンジやステレオ・フィールドは本機のマイクプリに通じるワイドな印象。とても解像度が高いと思います。

多機能なM108ですが、“Webブラウザーからのリモート・コントロール”も見逃せません。Mac/WindowsマシンやAndroid/iOSデバイスをLANで接続した後Webブラウザーを立ち上げ、アドレス・バーにつながっているM108のIPアドレスを入力すればコントロール画面が立ち上がります(写真①)。便利な機能で、例えばブースから本機を制御することが可能になるわけです。

▲写真① 筆者がテストしたWebブラウザー上のコントローラー。写真奥に見えるのはAPPLE MacBook Pro内のブラウザーに立ち上げたもので、手前にタブレットやスマートフォンを置いている。いずれも、ルーターを介してM1 08とつないだ後にブラウザーへIPアドレスを入力すれば現れる ▲写真① 筆者がテストしたWebブラウザー上のコントローラー。写真奥に見えるのはAPPLE MacBook Pro内のブラウザーに立ち上げたもので、手前にタブレットやスマートフォンを置いている。いずれも、ルーターを介してM108とつないだ後にブラウザーへIPアドレスを入力すれば現れる

最近はプラグイン・エフェクトで音を加工することが多くなってきたので、それだけにマイクやマイクプリには気を遣います。M108は、これだけの機能が付いて、サイズ/価格的にも魅力的な製品ですね。

▲リア・パネルには、左から電源端子やイーサーネット端子、オプション・カード用のスロット(写真ではDanteカードを挿入)、MIDI IN/OUT、ワード・クロック・イン/アウト(BNC)、USB端子、ADATアウト×2(オプティカル)、AES/EBUアウト、アナログ・アウト(以上、D-Sub 25ピン)、マイク・イン(XLR)×8が配置されている ▲リア・パネルには、左から電源端子やイーサーネット端子、オプション・カード用のスロット(写真ではDanteカードを挿入)、MIDI IN/OUT、ワード・クロック・イン/アウト(BNC)、USB端子、ADATアウト×2(オプティカル)、AES/EBUアウト、アナログ・アウト(以上、D-Sub 25ピン)、マイク・イン(XLR)×8が配置されている

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年4月号より)

GRACE DESIGN
M108
340,000円
マイク・プリアンプ ▪チャンネル数:8 ▪周波数特性:4.5Hz〜1MHz(±3dB、マイク・イン〜アナログ・アウト、+40dBゲイン、50Ωソース) ▪全高調波ひずみ率:0.001%以下(+40dBゲイン、+20dBuアウト、1kHz) ▪最大出力レベル:+27dBu(アナログ・アウト) ⃝A/Dコンバーター ▪周波数特性:6Hz〜24kHz(−3dB、48kHz) ▪全高調波ひずみ率:0.0004%以下(1kHz、−1dBFS、+15dBゲイン) ⃝共通 ▪サンプリング・レート:44.1/48/88.2/96/17 6.4/192kHz ▪対応OS:Mac(OS X 10.8.5以降)、Windo ws(Windows 7/8/8.1/10) ▪外形寸法:425.45(W)×44.45(H)×254(D)mm ▪重量:2.3kg