オールマイティでナチュラルな音質
多彩なオプションが標準で付属
ミリタリー・グレードのケースを開けると、マイク本体、ショックマウント、スポンジ・タイプのウィンド・シールド、ボーカル録音用ポップ・フィルター、レザーのマイク・ケースが付属しています。ポップ・フィルターはショックマウントに磁石で簡単に装着可能。これだけのオプションが付属していると、さまざまな録音に即戦力となります。
LCT 640 TSは、通常モードと、2枚(表/裏)のダイアフラムを別々に出力するデュアル・モードの切り替えができます。通常モードでは本体で指向性の切り替えができ、同社FETコンデンサー・マイクのフラッグシップであるLCT 640とほぼ同じと言えるでしょう。モードの切り替えは、指向性切り替えボタンの長押しで、正面のロゴが白色のときは通常、緑のときはデュアルと、見た目にも分かりやすくなっています。デュアル・モード時には本体で指向性は切り替えられませんが、ステレオ録音した後に、無償提供されているプラグインPolarizer(Mac/Windows対応:AAX/Audio Units/VST)を使ってDAWソフト上で調整可能です。ちなみに、デュアル・モードでは2系統のファンタム電源が必要となります。
まず、通常モードの音をチェックしました。音質的にはオールマイティでナチュラル。低域はタイトで、中高域がちょっと張り出して、音像的に前に出ます。高域はナチュラルに落ち着いていますが、欲しければEQで少し上げれば済む感じ。オンマイクでもオフマイクでも使えますが、オンマイクがより印象が良かったです。ボワボワとした感じのない中低域から低域で、癖の少ない、使いやすい音質だと思います。
指向性を録音後にコントロール
1本でステレオ収音も可能
では、本機の特徴であるデュアル・モードを試してみましょう。ダイアフラム表側の音は本体下のXLR端子から、裏側の音は横にあるミニXLR端子から出力されます。マイクプリのゲインを両方同じにして、DAWのステレオ・トラックに録音。そのまま聴くと、Lchに表側、Rchに裏側の音がアサインされています。
そこでPolarizerをインサートしてみると、ステレオ・トラックでも音はセンター定位になり、あとはプラグイン内で指向性を選ぶだけです(画面①)。今回、複数人で歌うコーラスやクラップの録音で試してみました。通常だとマイクを無指向か双指向性にしてマイクを囲む形で録るのですが、表裏の人の声の出し方によってバランスが悪かったりします。LCT 640 TSではそのバランスをPolarizerで調整可能。裏側の人の声が弱いなと思ったら、そちらがちょっと強くなるような指向性に変えてあげるだけでバランス調整ができます。指向性は連続可変なので、それぞれの指向性の中間といった微妙な調整も可能です。単一音源のオンマイク収音でも、空気感を後で調整できるなど、音像の調整が後から行えるのは面白いと思います。
実際に試してみると、一番の使いがいがあるのは、デュアル・モードの状態でのステレオ・マイクとしての使用です。音源に対して本体を90°横向きにし、表側をLch、裏側をRchとします。2本のマイクを使う場合と比べ、ダイアフラムが同じ位置なので位相が良いのと、センターがはっきりしているという利点があります。ドラムのアンビエンスやピアノに使ってみましたが、位相もアンビ感も良いステレオが味わえました。応用でセンターにもう1本単一指向のマイクを追加で立て、L/C/R仕様にすると特に良かったですね。通常は普通のマイクとして使い、必要なときにはステレオでという使い方ができるのは大変便利だと思います。
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税込みで10万円を切る価格で購入できますし、この仕様で、この癖の無い音ならば、1本持っていると面白い録音ができると思います。ボーカルやアコギにも試してみましたが、面白く、かつ難なく録音できます。指向性を後で変えられるというだけでなく、ステレオ・マイクとして使用できるのが筆者としてはうれしかったですね。宅録などでブースが狭いけれどステレオで録音してみたい!というときにも便利です。使い方は、あなた次第ですね!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年1月号より)
製品ページ
http://www.lewitt.jp/LCT-Series/LCT-640TS/