負荷の高いソフトウェアでの処理を
複数のコンピューターに分散
まず、VEP6とは一体どんなソフトなのか、解説が必要でしょう。クリプトンのWebサイトを見えると“ミキシング&ホスト・ツール”とあります。ざっくり言うと、“CPUパワーの分散とメモリー・マネージメントの強力な支援ツール”という感じでしょうか。具体的には、ホストDAWがインストールされたコンピューター(以下メイン・マシン)とは別のコンピューターのCPUも使用し、処理を分散化することで、大規模な制作環境を構築できるというものです。Mac/Windowsに対応し、両OS間で相互通信も可能。スタンドアローンのほか、AAX/Audio Units/VSTプラグインとして動作します。筆者はVer.4のときから使用しており、もうこれ無しの制作はあり得ないというくらいお世話になっています。
VEPが画期的だったのは、メイン・マシンに接続されたオーディオ・インターフェースから、CPUパワー分散のために接続した複数のコンピューターの再生音も出力されたことです。そして、その巨大なプロジェクトは、メイン・マシンのDAWのファイル内に保存される(VEP6をプラグインとして使用した場合)という、とてもシンプルな仕様になっているのです。
ベーシックな使い方としては、メイン・マシンにDAWソフト、プラグイン・エフェクト&インストゥルメント、そしてVEP6をインストール。2台目以降のコンピューター(Mac/Windows)に、プラグインとVEP6をインストールした上で、これらのコンピューターをギガビットのイーサーネット・ケーブルで接続するというものです。
実は、筆者は複数のコンピューターで作業しているわけではないのですが、一台のコンピューターしか使っていない場合でも、VEP6を使用するメリットは大きいです。VEP6の強力なCPUパワー分散機能のおかげで、DAW単体で使うより何倍ものプラグインを使用できるのです。筆者の環境(APPLE MacBook Pro 2.3GHz Quad Core INTEL Core I7、16GB RAM、1TB SSD)で、そこそこ負荷の高いNATIVE INSTRUMENTS Kontakt 5を例に実験した2点の画像を比較してください(画面①)。上はDAWのPRESONUS Studio One 3にKontakt 5を直接ロードした場合で、下はVEP6を介したものですが、前者が26%なのに対し後者は5%と、CPU負荷に大きな違いが出ています。
より動作が軽快になった最新版
オートメーションなどの操作性も向上
Ver.6となって進化した点は、ソフト自体のCPU使用率が70%低減した上、グラフィック描写のCPU使用率が80%も減ったこと。なるほど実作業でも体感できるほど動作が軽くなっています。また、これまでVEPはオートメーションのアサインに一手間必要だったのですが、本バージョンよりDAWのトラック・オートメーションと同等になり、ますます“2つのソフトを使っている”感覚が希薄になりました。また、これまで大きなプロジェクトではVEP6のインスタンスごとに展開していたウィンドウもタブによる切り替え式となり、アクセスが快適になりました。さらに、Mac版でもVSTプラグインの読み込みに対応し、Windowsプロジェクトとの互換性が高まっています。
筆者の実際のプロジェクトでは、プラグイン・インストゥルメントを30トラックほどで使用していますが、Studio One 3(バッファー・サイズ:64)のCPU負荷率は25〜30%程度。動作が遅くなったり、スパイク・ノイズが乗ることはありません(画面②)。また、64ビットのみに対応したDAW上でも32ビット・プラグインが使える点も、VEP6の利点と言えるでしょう。
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新バージョンの機能解説より、“何ができるソフトか?”に焦点を当てて執筆してきましたが、VEP6が制作の強力な味方になることは間違いありません。ソフト音源を使う機会が多く、現状のコンピューターの動作に不満がある方は、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょう。一度使うと、手放せなくなると確信しております。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年1月号より)