
ヘッド・アンプは外来ノイズに強く
優れた高域特性を有している
最初に断っておきますが、今回DM16/DM12でこなせるようなPA現場が無く、ライブもできる70人キャパのスタジオで、SSL SL4000Gと比較するという方法を採りました。テストの方法は、スタジオ用コンデンサー・マイクとライブ用ダイナミック・マイクの信号をそれぞれパラレルにSL4000GとDM16へ送り、各機を比較するというもの。DM16/DM12のヘッド・アンプはMIDAS製で、PADスイッチを備えていませんが、ゲインのコントロール・ノブだけで50dBの可変域を持ちます。ゲインを最小(+10dB)に設定したときの最大入力レベルは+11dBuと大きく、大出力のコンデンサー・マイクなども使われる最近のシーンを考慮した仕様になっています。ヘッド・アンプのセルフ・ノイズについては、通常のライブPAでは気にならないほど微小で、さすがにSL4000Gに軍配が上がりましたが、高感度のマイクを用いれば問題無いでしょう。
コンピューターへの録音が普及してからミキサーの使われる機会が減り、オーディオ・インターフェースに搭載されているマイクプリが重要視されるようになりました。MIDAS設計のヘッド・アンプはすっかりブランド化し、他ブランドのミキサーにも使われています。ミキサーのヘッド・アンプに過度な期待をする人は多く、ダメな音も良くする魔法のようなアンプを期待している人さえ見かけます。しかし、DM16/DM12のように適切な設計をされたものは、マイクのチョイスやアレンジの適不適を気付かせてくれて、その音がクリアならヘッド・アンプの存在すら忘れて次のステップに移れる。私はそれが良いヘッド・アンプだと思います。DMシリーズのヘッド・アンプは、1chあたり100万円ほどするSL4000Gと比べてもそん色無く、ひょっとしてMIDASの中級機と同等の回路ではないかと思いました。
ヘッド・アンプのCMRR(同相除去比)は−90dBと非常に優秀。これはケーブルに乗ってしまう外来ノイズに強く、波形を正確に増幅できているということです。また、70kHz(−3dB)という高域特性もサウンドに一役買っています。わざとひずませてみると、SL4000Gより美しいひずみが得られました。EQで高域を丸めると、すごく実用的です。そしてこれは、ひずみかけた音が出てしまった場合に聴き苦しくないことも意味しています。
バイパス・スイッチが付いておらず
回路への自信がうかがえるEQ
続いて3バンドのチャンネルEQを見ていきます。高域12kHz、低域80Hzのシェルビングで、中域は150Hz〜3.5kHzの可変ピーキングです(写真①)。

中域のQは、一般的な4バンドEQなどに比べるとやや広めでしょう。高域EQで少しプレゼンス帯域を加え、中域のEQをスウィープさせながら気になるところを探して切る、という3バンドEQの定石的な使い方をすればいいと思います。またバイパス・スイッチが無いことから、回路への自信がうかがえます。“フラットにしていれば、EQ回路を通ってもサウンドには影響がありません”と言われているようです。バイパス・スイッチは、接触不良で音が出なくなる原因にもなりやすいですし、この仕様は歓迎です。
そのほか印象的な部分を挙げておきましょう。このクラスのミキサーでありながら全チャンネルにインサート端子があり、ケーブルを半挿しにすれば、プリEQのパラアウトが取り出せます。AUXは2系統しかありませんが、それぞれのプリ/ポストフェーダーを一括して切り替えられるスイッチが備わっており、プリ送りがポストEQになっているのがプロとしてはありがたい(写真②)。また全チャンネルにあるライン・インは最大入力が+30dBuなので、プロ用音響機器のライン・レベル+4dBmを楽に受けられるのがとても良いです。

フェーダーは60mm長のショート・フェーダーですが、パネル上のdB目盛りの−10〜+10dB辺りは、実際のレベルとほぼ一致。パン・ポットは、定位にかかわらず音量が一定のタイプです。以上、DM16/DM12はシンプルなルックスとは裏腹に、中身はプロ仕様。エレクトロニクスを使うアーティストなどにもお薦めできます。これを用いてカフェ・ライブを考えている人は、スピーカーはワンクラス上のものを使ってほしい。DDAのためにも。

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年9月号より)