一部の環境において、会員限定記事の表示がうまくいかない場合が報告されています。その場合、まずはブラウザを最新にアップデートした上、WindowsではCtrl+Shift+R、Macではcommand+shift+Rでの再読み込みをお試しください。また、ほかのブラウザの利用もご検討いただけましたら幸いです。

「ZOOM ARQ Aero RhythmTrak AR-96」製品レビュー:リング型コントローラーで内蔵音源を操る革新的グルーブ・マシン

ZOOMARQ Aero RhythmTrak AR-96
ZOOMが今回リリースしたARQ Aero Rhythm Trak AR-96(以下、ARQ AR-96)は、円形に光り輝く“楽器”。NAMM 2016で発表され、ひそかにこの一台を待っていた“光り物好き”な方もいるのではないでしょうか。早速その実力をチェックしていきましょう。

32ブロック×3列の入力パッドに
468種のPCM波形をアサイン可能

ARQ AR-96は多彩な音源を搭載したベース・ステーションと着脱可能でシーケンスを打ち込めるリング・コントローラーから成るグルーブ・マシンです。ベース・ステーションには468種類のサンプルと70種類のシンセ波形を搭載。これらの音色を32種類組み合わせたKITがプリセットとして79種類用意されています。コントローラーにはリング上に沿った5列のステップ・ラインがあり、それぞれに32個のパッドを配置。選んだKIT内の音色がここに割り当てられます。このパッドを使用して32ステップ/2小節(最小ステップを16分音符にした場合)のパターンを作成し、パターンを組み合わせてSONGとして曲を構成していきます。パターンはSTEPモードとINSTモードの2種類で生成可能。STEPモードは32個のステップで5パートを打ち込め、INSTモードではパッドをたたいてリアルタイムで演奏し記録できます。どちらのモードでも最大16まで同時発音可能です。スピーカーは内蔵されていないので、1系統のフォーン端子から出力します。

それでは、まずは筆者のスタジオ・モニターで音源部分をチェック。ベース・ステーションが起動するとただの丸形蛍光管だったコントローラーが青く光り輝き、まるで命が吹き込まれたかのよう。まずはコントローラーをベース・ステーションに置いたまま、キットを切り替えて音を出してみます。

ARQ AR-96の内蔵音源は、ダンス・ミュージックでよく使われるドラム・キットやシンセのヒット・サウンドを網羅した印象。資料にはEDMに特化とありましたが、ほかのジャンルのサウンドもまんべんなく収録されています。

サウンドは、ZOOMらしいキャラクターであるものの、そのままでは若干薄い印象なので、内蔵エフェクトも併用しましょう。エフェクトは、各インストゥルメントへのインサートFX、ミキサーのマスターにインサートするMASTER FXに加え、全体にかかるFILTER、センド・エフェクトのDELAY&REVERBと5系統まで同時に使えます。インサートできるエフェクトもZOOMらしく充実していて、各インストゥルメントには全11種類、MASTER FXは全14種類から選択可能です。

それでは、リング・コントローラーを置いた状態でSTEPモードでビートを打ち込んでみます。円形のステップ・シーケンサーを使用しての感覚は新鮮。リング・コントローラーの内側には拍頭にLEDが点灯されるガイド・ラインを2列分表示することができ、見る側にもシーケンスが分かりやすく、ライブ中に即興で打ち込むのにも映えそう。シンセのような音階があるものを打ち込む際には、SELECTノブを押下すると1つの音色がクロマティックなどのスケールでリング・コントローラーのパッドに並ぶので、和音も鳴らすことができます。INSTモードでは、入力パッドがベロシティとアフター・タッチに対応しているので、表情のあるリアルタイム演奏が可能です。

さて、LEDの光はどうでしょうか。暗い中でテストするべく、自宅近所のDJバーにARQ AR-96を持ち込みました。特筆すべきは、リング・コントローラーの光が目に優しく、発色が奇麗なところ。LEDはパッドの内側に配置されているので、光がパッドで程良く拡散されてまぶしくありません。

3軸加速度センサーを搭載した
ワイアレスMIDIコントローラーとして機能

それではARQ AR-96の目玉機能の一つ、リング・コントローラーを手に持って試してみましょう(写真①)。

▲写真① ARQ AR-96はベース・ステーションとリング・コントローラーから構成されており、それらは分離可能。リング・コントローラーを手に待って楽器のように演奏することもできる。この際、GRIPキーを押して任意の範囲を握ることでグリップ・エリアが設定されるので、意図せずにパッドが押されてしまうことを防げる ▲写真① ARQ AR-96はベース・ステーションとリング・コントローラーから構成されており、それらは分離可能。リング・コントローラーを手に待って楽器のように演奏することもできる。この際、GRIPキーを押して任意の範囲を握ることでグリップ・エリアが設定されるので、意図せずにパッドが押されてしまうことを防げる

この際リング・コントローラー上にあるGRIPキーを押すと、手が握っているパッドを検出し、そのパッドからの入力をミュートして誤入力を防ぎます。また、リング・コントローラーを裏返すと自動でLEDの表示も逆転するなど、よく考えられた作りになっています。

リング・コントローラーには3軸加速度センサーが搭載されていて、コントローラーを傾けることでエフェクトを制御可能。これはコントローラーの動きとサウンドの変化がリンクして、ワイアレス演奏に向いている機能です。

リング・コントローラーを持ったまま移動してBluetoothの圏外に出ると、リング・コントローラーが赤く点滅して警告します。安定して届く距離は何も遮へい物が無い状態で6m程度なので、DJブースの周りやステージ内なら問題なく届くでしょう。

さて、次はリング・コントローラー部をMIDIコントローラーとして使用。リング・コントローラーはBluetooth LEを搭載しており、対応するデバイスはAPPLE Mac(OS X 10.10.5以降)とiPad(iOS 8.0以降)です。

MIDIコントローラーとして使用する場合は、用途に応じて5つのパッド・レイアウトから選択可能。筆者としてはABLETON Liveのセッション・ビューをコントロールする“SESSIONレイアウト”が気になりましたが、実際にはLive専用モードというわけではなく、あらかじめMIDIマッピングされたテンプレート・ファイルを改変して使うタイプでした。ABLETON認定トレーナーの筆者としては、ARQ AR-96用MIDI Remote Scriptの開発を期待したいところです。このほかには、上級者向けに“PROGRAMMERモード”も用意されており、MIDIシステム・エクスクルーシブでLEDの光を制御することもできます。

気になるレイテンシーは、ベース・ステーションに接続する際には10ms程度でそれほど遅れは感じません。一方、Mac/iOSに接続すると20ms程度と若干遅れが体感できるものの、従来のワイアレス機器に比べると格段にレスポンスが速くなっています。

外部入力をキャプチャーし
LOOPERモードで再生できる

ARQ AR-96にはLOOPERも内蔵されていて、外部入力の信号の録音や、SDカードに保存したWAVなどのオーディオ・ファイルの素材、内部の演奏のリサンプリングなどをループさせることができます。ループ素材を録音する際はCAPTUREキーを押して録音を開始。終了するとリング・コントローラーのパッドが緑色に光り再生されます。このとき任意のパッドを押すと再生位置をその位置にジャンプさせることができます。このルーパー・シーケンスは逆回転もできる楽しい機能です。

一通りARQ AR-96をテストしてみると、ハードウェア部分はクオリティが高く、使い方次第で大きな可能性を感じさせる一台です。その一方でソフトウェア部分はまだ伸びしろがあります。テスト使用が発売前だったこともあると思いますが、楽器にしては操作が煩雑だったりと、改善する余地はあちこちに見受けられます。そのためこの1台ですべての音源を鳴らすよりも、ほかの音源と組み合わせて使った方が効果的でしょう。また、エディットするパラメーターも多岐にわたるので、エディター・ソフトも欲しくなります。

§

こうした機材は単なる飛び道具に思われがちですが、使い方次第では演奏を視覚的にも観客に伝えられる優れたツールになり得ます。ARQ AR-96はソフトウェアの育て方次第で化ける一台になるでしょう。

▲ベース・ステーションの側面。左からOUTPUT L/R(フォーン)、INPUT L/R(フォーン)が並ぶ。反対側の側面には、外部電源端子、USB端子、SDカード・スロット、ヘッドフォン端子(ステレオ・フォーン)を用意。リング・コントローラーにはタッチ・パッドのほか、GRIP、SETUP、電源、STOP、DELAY、FILTER、MASTER FX、REVERB、セレクト、PLAY/PAUSE、RECの各種キーが搭載されている ▲ベース・ステーションの側面。左からOUTPUT L/R(フォーン)、INPUT L/R(フォーン)が並ぶ。反対側の側面には、外部電源端子、USB端子、SDカード・スロット、ヘッドフォン端子(ステレオ・フォーン)を用意。リング・コントローラーにはタッチ・パッドのほか、GRIP、SETUP、電源、STOP、DELAY、FILTER、MASTER FX、REVERB、セレクト、PLAY/PAUSE、RECの各種キーが搭載されている

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年9月号より)

ZOOM
ARQ Aero RhythmTrak AR-96
オープン・プライス(市場予想価格:68,000円前後)
▪パッド数:96個(32×3) ▪LED数:160個 ▪最大同時発音数:16 ▪最大同時使用インストゥルメンツ数:33 ▪オシレータータイプ:538(468種のPCM波形+70種のシンセ波形) ▪パターン数:384(176プリセット) ▪最大ステップ数:32ステップ ▪対応メディア:SD/SDHC/SDXCカード ▪内蔵電池:リチウム・ポリマー充電池 ▪充電時間:2.5時間(LEDの明るさがLowで約4.5時間使用可能) ▪外形寸法:260(W)×64(H)×260(D)mm(ベ ース・ステーション)、280.5(W)×33.5(H)×2 80.5(D)mm(リング・コントローラー) ▪重量:990g(ベース・ステーション)、540g(リング・コントローラー)