
録音場所の制約から解放してくれる
コンパクトな“システム”とも言える
本体を見てみると、前面にはダイアルが備わっており入力レベルを調整できるようになっています。そのため付属の三脚デスク・スタンドに装着して使う場合も、手元でレベルを変更可能。本格的な収音を目的とするコンデンサー・マイクにXLR端子が装備されておらず、デジタルのケーブルでデバイスとつながる姿は本当に“今”を感じさせます。“直接つないで録音できる”というのは、これまで個別に必要だったマイク、マイク・プリアンプ、ADコンバーターが1つにまとまっていることを意味します。システムがコンパクト化するだけでなく、機器接続の煩わしさやロケーションの制約からも解放されるでしょう。さらにiOSへの対応で、本当の意味でのロケーション・フリーが実現されました。
私は、将来的にマイクプリやADコンバーターがパソコン側に集約されると思っていましたが、まさかマイク本体にそれらのデバイスがまとまったとは驚きです。iOSデバイスへの接続は、どんな場所の音声も直ちにインターネット上へ展開できることを意味しています。ライブ・ステージの上からダイレクトにアップ、などということも可能ですし、これからどんな使い方が生まれるのか楽しみですね。
音質はフラットで使い道が広そう
“吹かれ”に強いという特徴も
本機は、付属のUSBケーブルまたはLightningケーブルでデバイスに接続するだけで、あっという間に使えるようになります。いわゆるプラグ&プレイ仕様なので、特に難しい設定はありません。
私は途中まで、本体上の出力端子をMicro USB端子だと思っていたのですが、よく見るとMicro HDMI端子です。なので付属しているのは、厳密にはUSB/Micro HDMIケーブルとLightning/Micro HDMIケーブルとなります。これらのケーブル、パッと見はよくありそうな感じなのですが、よくよく考えてみるととても不思議な変換ケーブルで、少し調べたところやはり一般には売っていない組み合わせです。市販のケーブルでの代替や延長は難しいと思うので、その点には注意しましょう。
AT2020USBIはマイクプリに相当するデバイスを内蔵しているため、コンデンサー・マイクでありながらファンタム電源の有無などを気にしなくても済みます。声を入力したときの印象は、とてもフラット。同社マイクの音質と言えば、高域までしっかりと伸びたきらびやかなイメージでしたが、本機はオールマイティに使えそうなキャラクターです。また“吹かれ”に強いようで、場合によってはポップ・ガード無しでも大丈夫だと思います。
そして一番のポイントであるiOS対応に関しては、本当にさまざまな可能性があります。移動しながら使ったり出先で使用するのはもちろんですが、私が想像するところでは通常のスタジオ・ワークでも有用。ブース内に本機と2ミックスなどの入ったiOSデバイスを用意しておけば、ボーカリストが自分の好きなように練習したり、録音できるかもしれません。これまでも同様のことをブースでできるようにしている方がいましたが、セッティングがなかなか大変でした。それこそコンピューター本体をブースに持ち込むか、長いケーブルでディスプレイとマウス/キーボードをブース内に引っ張ってくるような形だからです。本機には、AT2020USB+に備わっているようなダイレクト・モニタリング用のヘッドフォン端子がありませんので、レイテンシーなどは少々問題になるかもしれませんが、大仰なセッティングをせずとも歌録りや練習ができるのは便利でしょう。
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“デバイスの小型化”というのは、その見た目以上に新しい価値をまとっているのが常なので、ユーザーが固定観念にとらわれず自由な発想で使い方を発明すれば良いと思います。このAT2020USBIも、さまざまな可能性を秘めたマイクと言えますね。


USBI本体は付属の三脚デスク・スタンドに装着している
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年4月号より)