
大出力クラスDアンプを採用
5種類の補正設定を切り替えて比較可能
1234Aは、1989年発売の1034A、そこから1999年にウーファー・ユニットが変更された1034Bの進化版です。1034Bのアンプ部分は全アナログ回路でしたが、1234Aは96kHz DSPのチャンネル・ディバイダーを搭載。その後段のアンプ部は計2,150W/chのクラスDを採用しています。DSP機能はSAM(Smart Active Monitor)と呼ばれ、専用インターフェースを介してスピーカー自体をイーサーネット・ケーブルで接続。Mac/Windowsマシン上で専用ソフトGLM(Genelec Loudspeaker Manager)を使ってネットワーク内のスピーカーを制御します。入力はAES/EBUとアナログ(XLR)が1系統ずつ。入力切り替えやレベル調整はGLM側から行えます。DSPの設定も1ファイルにつき5種類まで記憶でき、これを切り替えて聴き比べることも可能です。
GLMはスピーカーから測定用信号を出力し、それをマイクで拾い計測します。それを元に各スピーカーの特性と距離差を10バンドEQとディレイで補正。その際の測定ポイントは1カ所、あるいは複数のポイントを測定して平均化する方法を選べます。また各スピーカーをそれぞれ補正するだけでなく、ファンタム音像の精度を重視して各スピーカーを共通の補正にすることも可能。10ポイントのEQは、すべてカット方向のみで補正し、ブーストはできません。
従来の同社ラージよりも設定を追い込める
1034Bに比べて低域のパワー感も増強
筆者の所属するスタジオでは、これまで多くの同社ラージ・モニターを採用しています。どの機種も規模の大小はあるものの基本的には同じアナログ構成。これらのコントロールは、8050Aなどのスモール・モニターと同様のパラメーターをDIPスイッチで制御します。
ラージ・モニターはコンソールを避けて高い位置に設置されることが多く、特に重要な波長の長い低域は、直接音と床や壁で反射する音の時間差による干渉の影響を受けやすいため、設置する部屋の音響設計が何より重要です。音場を十分に考慮した部屋を造り、その上、実際にスピーカーを設置してアンプ・ユニットの調整をしますが、電気的な調整だけでは望みの音を得ることは難しく、スピーカーの角度/幅などの設置方法や、スピーカー周りの物理的な音響処理について変更を重ね、仕上げます。時には一度スピーカー・マウント面のバッフルを大々的に作り直すなどの大工事が必要なこともあり、十分な音色を得るためには、少ないDIPスイッチの組み合わせで音を追い込める調整経験と、部屋を物理的に変更する多くの工事資金が必要でした。実際の調整ではどこまでがスピーカー、どこからが部屋の問題とは簡単には割り切れず、大変な苦労を重ねて各部屋のラージ・モニターを仕上げてきました。
今回の試聴はオタリテックの試聴室まで伺いました。簡易防音と少しの音響処理がされた部屋なので、これまでの経験からすると素性が分かればいいかなという気持ちで挑みましたが、ポンとスタンドに載せられた1234Aは、自動補正機能AutoCalで調整した状態でも、素晴らしく良い音がしていました。補正特性を見ると80Hz付近と160Hz付近にディップがあります(画面①)。これは部屋の定在波に起因するもの。補正EQはカットしかできないため、この部分を直すには部屋を変更しないといけません。1234Aも、実際に導入する場合に部屋の音響特性が重要なのは今までのスピーカーと変わりませんが、これまで限りある調整ポイントの組み合わせで追い込んで、それでも調整しきれず妥協していたところを、さらに深い部分まで追い込める魔法のシステムだと感じました。

肝心の音質も、アナログ・モデルの1034Bとは別物。特に、1034Bに感じていた低域のパワー感不足は解消され、イメージとしては上位機種の1035Bに近い感じになっています。青山prime sound studioの1034Aを1035Bに入れ替えようかなと脳内で勝手に計画を立てていたのですが、この1234Aの音質と調整の自由度、約400万円という価格を考慮すると、1234Aを購入した方が、結果としては安くて、音も良いという結果を得られるのでは?と考え始めてしまいました……。

連動用端子。下段はスピーカーへの出力で、左がウーファー、右がミッドレンジ&ツィーター(共にスピコン)
製品サイト:http://otaritec.co.jp/products/genelec/products/dsp-products/1234a-2/index.html
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年4月号より)