「RADIAL Space Heater」製品レビュー:12AX7管ドライブ回路とトランスを内蔵した8chサミング・アンプ

RADIALSpace Heater
今回テストするのはRADIALのSpace Heater。同社製品はDIしか使ったことがないのですが、ペダル・エフェクトやAPI 500互換シリーズなども結構力を入れていますね。本機は暖房機器のようなモデル名ですが、サミング・ミキサーとチューブ・オーバードライブを組み合わせた、珍しい機材です。

真空管のプレート電圧も変更可能
インサート・ポイントも用意

Space Heater、1Uの割には奥行きは175mm程度とあまりないにもかかわらず、結構な重量感。説明書を読んでみると各チャンネルに出力トランスを搭載しているとのことです。見た目もがっちりした力強い印象。ちなみに電源ユニットは別体となっています。

まずフロント・パネルを見ていきましょう。ch1/2、3/4、5/6、7/8がそれぞれペアになっています。ON/OFF(OFFでチャンネル回路全体をバイパス)、サミング回路とヘッドフォン・ミキサーに送るBUS、40Hz以下の低域をカットするHPF、TUBE DRIVEのスイッチが並びます。ノブは2連で、内側がDRIVE(真空管への入力レベル)、外側がLEVEL(出力レベル)。その2連ノブが2ch分並ぶ間に、真空管のプレート電圧を35/70/140Vから選べるHEATスイッチがあります。

マスター部にはステレオ出力のオン/オフ・スイッチとヘッドフォン・レベル&アウトがあります。サミング・ミキサーとしては奇数チャンネルはLに、偶数チャンネルはRにアサインが固定されています。

裏側を見ると、入力はTRSフォーンとD-Sub 25ピンを併装。L/Rのマスター出力はXLR、ch1〜8の出力はD-Sub 25ピンですが、インサート端子としてTRSフォーンでのSENDもあり、出力としても、同じくTRSフォーンのRECV(RECEIVE)と組み合わせてエフェクト・ループとしても使えます。インサート・ポイントは真空管とトランスの後段です。そのほか、複数台で入力を拡張するためのLINK端子もあります。

色付けの少ないナチュラルなサミングから
ハードなディストーションまで多用途に

前置きが長くなってしまいました。まずサミング・ミキサーとして使ってみます。オーディオ・インターフェースの出力からD-Subで入力。Space Heaterのステレオ出力をオーディオ・インターフェースに戻します。DAW内でドラム、ベース、上モノ、ボーカルの4グループに分け、それぞれステレオで出力。次のセッティングで聴き比べてみました。

①各チャンネルのON/OFFスイッチをOFF

マスター・ボリュームだけ通る状態で、サウンドは本当にナチュラル。本機のデザインからはもう少し色付けがあるものを想像していたのですが、良い意味で期待を裏切ってくれました。DAWだけでミックスするよりも飽和感が減り、レンジも広がったように感じます。

②ON/OFFスイッチをONにし、トランスを通過

HPFとLEVELも通るようになります。①より若干レンジが狭くなった感じはしたのですが、トランス特有の低域が締まった、パンチがあるサウンドを聴かせてくれました。曲によってはこちらを選びたいですね。

③TUBE DRIVEをオン

真空管回路を通る状態です。最初のセッティングが悪かったのですが、オンにした瞬間ものすごくひずんでしまい、びっくりしました。そのくらい強力なディストーションを得ることができるので、サミングとして使う場合はほぼDRIVEを上げないで、軽く色付けするくらいでちょうど良いでしょう。高次倍音の感じが良い印象です。

本機は2ch単位で設定を変えられるので、ドラムではトランスのみの②、ベースと歌は③で真空管の色付けをして、上モノはトランスも真空管も通さず①でナチュラルに、といった使い方もできますね。

ボリュームがクリック式ではないので、L/Rのレベルを合わせるのが難しいかな、MONOボタンが欲しいかなとか思ったりもしたのですが、音が決まったら信号を入れて、LEVELを左右合わせておいてから、TUBE DRIVEをオンにして調整する方法でうまくできそうでした。1本の真空管でステレオ分の処理をしているので、L/Rの差も少なそうです。また使用真空管も12AX7という手に入りやすいタイプなので、いろいろ交換して試してみるのも面白そうですね(写真①)。

▲写真① 真空管の交換がしやすいように、トップ・パネルは開閉可能。4本の12AX7管と、8基の出力段アイソレーション・トランスが確認できる ▲写真① 真空管の交換がしやすいように、トップ・パネルは開閉可能。4本の12AX7管と、8基の出力段アイソレーション・トランスが確認できる

続いて、DAWのトラックにインサートする形でも使ってみました。真空管ドライブの威力を発揮するのはこちらの使い方。先ほどの①〜③を試したのですが(サミングはしていません)、断然③がいい感じです。サミング・ミキサーとして使う際にはあまり上げられなかったDRIVEノブを思い切って使える分、音の幅が広がります。

ここで、プレート電圧も切り替えて聴いてみましたが、高電圧ではナチュラル、低電圧ではひずみやすく激しいディストーション・サウンドという傾向でした。また電圧を下げるほど低域は減っていきます。ベースやキックなどは140Vで低域をしっかり出し、35Vはアンプ・シミュレーターで作ったエレキギターの音などに合うと感じました。このインサート状態で音を作ってDAWに録ってしまう方法を結構気に入ってしまって、これでガンガン音作りしてしまいました。

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Space Heaterは用途もさまざまに使え、音色もナチュラルからディストーションまで、これ一台で結構いろいろなことができるのが重宝しそうです。価格もそこそこするのですが、試しているうちに欲しくなってきました。

▲リア・パネル。左端の電源入力に続いて、最大4台/32chの運用を可能にするLINK IN/OUT(TRSフォーン)、STEREO SUM OUT(XLR)、OUTPUTS 1〜8(D-Sub 25ピン)、インサートSEND&RECV1〜8(TRSフォーン)、INPUTS 1〜8(D-Sub25ピン&TRSフォーン) ▲リア・パネル。左端の電源入力に続いて、最大4台/32chの運用を可能にするLINK IN/OUT(TRSフォーン)、STEREO SUM OUT(XLR)、OUTPUTS 1〜8(D-Sub 25ピン)、インサートSEND&RECV1〜8(TRSフォーン)、INPUTS 1〜8(D-Sub25ピン&TRSフォーン)

製品サイト:https://www.electori.co.jp/radial/SPACE_HEATER.htm

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年1月号より)

RADIAL
Space Heater
350,000円
▪周波数特性:20Hz〜20kHz(+0/−3dB) ▪ダイナミック・レンジ:96dB ▪入力インピーダンス(アクティブ時):100kΩ ▪最大入力:+22dBu ▪ゲイン:+33dB(140V)、+29dB(70V)、 +27dB(35V) ▪ハイパス・フィルター:−5dB@40Hz(−6dB/Oct) ▪等価ノイズ:−103dB ▪ノイズ・フロア(最大ゲイン)−64dBu(140V)、−66dBu(70V)、−70dBu(35V) ▪外形寸法:483(W)×44(H)×175(D)mm ▪重量:3.8kg(本体)