「RETRO Sta-Level」製品レビュー:1960年代の名機に独自機能を加えた1ch真空管コンプレッサー

RETROSta-Level
ビンテージ時代の真空管オーディオ製品をより扱いやすい形で再び普及させることを目的として、2006年に北カリフォルニアで設立されたRETRO。その音質や信頼性で、プロ・オーディオ業界で確実に地位を向上させているが、中でも一番の人気機種である真空管コンプレッサーのSta-Levelはどのような機材なのだろうか?興味があったので、今回のレビューは楽しみである。

GATES Sta-Levelを元に
モードを追加しリカバリー・タイムを独立

RETRO Sta-Levelは歴史に名高いGATES Sta-Levelのリクリエイション・モデル。1960年代にヒットした曲の多くは本家Sta-Levelから生まれたと言わしめる機材である。RETRO製のSta-Levelも、いかにもビンテージらしい外観やシンプルな操作性で、プロのエンジニアには好評だと思う。本家のGATESでは、INPUTとOUTPUTのボリュームと、リカバリー・タイム(リリース・タイム)のSINGLE/DOUBLE切り替えしかコントロールできる部分がなかった(実際にはリカバリー・タイムを変えるとアタック・タイムも変わっていたらしい)。RETROのSta-LevelはSINGLE/DOUBLEに加えTRIPLEがモードに加わるとともに、リカバリー・タイムが独立して6種類から選べるようになり、オリジナルよりもオペレーションの幅が広がっているのが特徴だ。SINGLEはベースなどに最適なスムーズなサウンド、DOUBLEはより速いアタック・タイムであらゆるソースに幅広く対応し、TRIPLEでは音楽的なサウンドは一切殺すこと無く、ファストなトランジェント感が得られるとのことだ。これらの新しい機能を盛り込むことでどんなダイナミクスのソースが入力されても完全にコントロールでき、現代の音楽にもマッチするように設計されている。

また、オプションで本家GATESで使われていた6386真空管も追加でき、別売りのLink Panelを使用すれば複数台リンクのオン/オフ設定も可能だ。

3つのモードの切り替えで
表情がガラリと変わる

では、いろいろとチェックしていこう。まず操作感だが、大型ダイアルのボリューム・ノブやスイッチ類は滑らかで非常に使いやすく、もちろんノイズも無く、プロの現場でもストレス無く使えるコントローラー類だ。まずはドラム・キット全体を拾えるようにセットしたトップ・マイクに入れてみた。本機の音の感じにはダイナミックやリボン・マイクが合いそうだが、あえて今っぽい音での評価をするためにコンデンサー・マイクを使ってみた。

驚いたのはSINGLE/DOUBLE/TRIPLEの3つのモードで表情がガラリと変わることだ。SINGLEモードはスロー・アタックの設定で、ドラムのアタック感を残しつつしっかりとコンプレッションしてくれる感じは、カッコいいロック・サウンドを作るのに最適だ。少し過激にかけても面白いと思う。DOUBLEモードではピークを抑えたナチュラルな響き。TRIPLEモードは速めのアタック・タイムに設定されている。あまり深くかけるのはお勧めしないが、INPUTをコントロールして軽めのコンプレッションにしてあげれば、自然なコンプレッションでポップスなどには最適な“まとまり感のあるサウンド”が得られる。

ボーカルはシルキーで高級な音
抜けが良いのに硬くなく上品

次にボーカルでも試してみたが、これは素晴らしい。シルキーで高級な音。抜けが良いのに硬くなく上品で、ワクワクするボーカル・サウンドだ。特にジャズや大人のポップスには最適ではないだろうか? 極端な加工を求めないなら、ボーカルにはSINGLEモードがお勧め。このサウンドは本当に良いと思う。

ギターやベースにももちろん悪くない。使ってみて感じたのは、このSta-Levelは、まずはどのトラックにもアタック&リリース・タイムが極端に速くないSINGLEモードで使ってみてほしいということ。多分ほとんどの場合はSINGLEモードで最高のサウンドが得られるのではないだろうか? もちろんDOUBLEやTRIPLEモードも積極的に使うと効果的なサウンドを得ることができる。

一つ気になった点はバイパス・スイッチが無いこと。本家のGATESにも無いので、それほど問題は無いのだが、少し不便を感じた。

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RETRO Sta-Levelは入力するソースを選ばない使い勝手の良い真空管コンプレッサーであり、特にボーカルには最高のコンプレッサーの一つだと思う。昨今は低価格の機材が市場にあふれ、そういう機材も性能は上がってきているものの、本当に欲しい本物のサウンドを、やはり安価な機材で得るのは難しいだろう。商業音楽ではコストを求めるのも悪いことではないが、21世紀にも芸術としての音楽ももっともっと増えてほしいしと思うし、そういう作品を作るのであれば、こういった機材は必要不可欠だと思う。

▲リア・パネルには電源トランスや入出力トランス、真空管、コンデンサーなどがむき出しになっている。右下がINPUT、左上がOUTPUT(どちらもXLR)で、右上部にあるトランスの左にオプションの6386真空管(オープン・プライス:市場予想価格20,000円前後)を追加可能。INPUTの上にはステレオ・リンク用COUPLE端子(RCAピン)があり、別売りのLink Panel(オープン・プライス:市場予想価格20,000円前後)を使うとオン/オフ設定が簡単に行える。その横にあるBAL,NULLボタンはテスト・トーン出力用で、6V6 BALANCEと書かれた半固定ボリュームで基準レベルを設定する ▲リア・パネルには電源トランスや入出力トランス、真空管、コンデンサーなどがむき出しになっている。右下がINPUT、左上がOUTPUT(どちらもXLR)で、右上部にあるトランスの左にオプションの6386真空管(オープン・プライス:市場予想価格20,000円前後)を追加可能。INPUTの上にはステレオ・リンク用COUPLE端子(RCAピン)があり、別売りのLink Panel(オープン・プライス:市場予想価格20,000円前後)を使うとオン/オフ設定が簡単に行える。その横にあるBAL,NULLボタンはテスト・トーン出力用で、6V6 BALANCEと書かれた半固定ボリュームで基準レベルを設定する

製品サイト:https://miyaji.co.jp/MID/product.php?item=Sta-Level

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年1月号より)

RETRO
Sta-Level
オープン・プライス(市場予想価格:358,000円前後)
▪スレッショルド:+24〜−20dBm ▪最大ゲイン・リダクション:40dB ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.25dB) ▪ノイズ:−70dB未満 ▪出力レベル:−40〜+18dBm ▪ひずみ率:1%以下(リダクション0〜30dB) ▪外形寸法:482(W)×134(H)×241(D)mm ▪重量:約8kg