
FETでありながら真空管回路を意識
大音量ソースにも対応する耐入力
低価格とはいえ、最近のマイクは外見も中身もよくできています。Ariaにはマイク本体収納用にウッド・ケースが付属し、サスペンション・ホルダー、本体を磨くためのクロスまで付いています。特にサスペンション・ホルダーには、交換用のゴムも付属しています。ホルダーのゴムは経年変化で伸びてしまうのが当たり前なので、替えの心配をしなくてもよいのはうれしいところです。本体はブラック・フィニッシュのシックな感じ。コンデンサー・マイクなので48Vファンタム電源が必要になります。本体裏側には、−10dBのPADスイッチ、ローカット・スイッチが装備されています。最大入力音圧もPADを併用した状態で152dBと、音の大きいほとんどの音源に対して使用できるでしょう。
Ariaの最大の特徴は、ビンテージ・マイクの回路を元に設計されているということ。FETタイプでありながら真空管マイクの感じも出しているという、最近のコンデンサー・マイクに多いハイファイ指向のものとはちょっとキャラクターが違う作りになっています。
中低域&中高域の持ち上がった特性で
誇張の無い太さが感じられる
最初に抱いた印象は、音が太いな〜ということ。ぼわっとした太さではないので、嫌みな感じではありません。高域は変な誇張が無くなだらか、低域はだぶついた感じが無くふくよかです。低価格マイクに散見されるシャリシャリした感じはありません。音の抜けはやや抑えられていますが、ビンテージを意識しているということもあり、中高域のザクっとした部分が出ています。例えばタンバリンで試すと、普通のコンデンサー・マイクでは少しチリチリしてしまうところが気になるのですが、本機ではそこが抑えられて、ジャリっとした部分がうまく収録できました。ほかのマイクを数本立てて比べてみたのですが、本機が一番タンバリンらしさが出ました。
ボーカルの場合は、中低域の太さや、5〜6kHz辺りの音が前に出てくることもあり、ビンテージ・マイクを意識しているのがよく分かります。男女問わず使える印象です。先述したように高域の抜けに関してはちょっと落ちていますが、EQで補正できるレベルでしょう。むしろ変にシャリシャリしていないのは好印象。低域に関しては、ローエンドは少なめですが、中低域が若干持ち上がった感じ。この中高域と中低域の特性のおかげか、女性ボーカルにありがちな中域のピーキーな部分が抑えられていました。
アコギの録音では、中低域の膨らみがあるため、マイキングの位置を一般的なコンデンサー・マイクとは変えた方が良さそうですが、ざっくりした感じの音を聴かせてくれます。普通のコンデンサー・マイクがMARTINだとすると、本機はGIBSONといった感じです。
Ariaはこうした特性を持つので、どの楽器でも、ビンテージものより新しめのマイクプリの方が合っていると思います。一つ気になったのは距離感。オンマイク〜オンマイク気味のときは本機の特徴がうまく出て、音も前に出るのですが、オフマイクになるとぐっと音が薄くなってしまいます。なるべく本機はオンマイクで使用した方がよさそうです。指向性に関しては広めのカーディオイドですが、オフマイクの音が薄くなることや高域がなだらかなおかげか、あまり周囲の音の回り込みは気になりませんでした。
それと、吹かれに関しては特に対策がされていないので、ベース・アンプに使ったときもウィンド・スクリーンがあった方が安心でした。
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本物のビンテージ・マイクほどの押しの強さはありませんが、2万円前後で手に入るマイクとしては、キャラクター付けがちゃんとしています。個人的にもステレオ・ペアで持っていてもいいかなと思いました。ビギナーの最初の1本としては、このキャラクターが好きかどうか。言い方は変ですが、ダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクの中間みたいな印象です。ビンテージを意識した音作りという部分も納得がいきましたし、太めの音が欲しい方は試してみるとよいでしょう。弱点となり得る部分も逆転の発想をすれば、使いやすくなると思います。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年1月号より)