「TASCAM DP-24SD」製品レビュー:8トラックの同時レコーディングが可能なデジタルMTRの最新機

TASCAMDP-24SD
現在ではDAWが一般的な録音のツールとして確立されたが、十数年前まではコンピューターも安価ではなく、ミキサー一体型のハード・ディスク・レコーダーが主流だった。その魅力は何と言っても、持ち運びのフットワークの軽さや録音時にレイテンシーが無いこと、フェーダーに触れて直感的に操作できる点など。DAWには無いメリットがあり、現在もユーザーに支持されて新製品が発表され続けている。MTRの老舗TASCAMのPortastudioシリーズは30年も続くロングセラー。今回はその最新機種DP-24SDをチェックしてみた。

クセの無い音質のヘッド・アンプ
ヘッドフォン端子もかなりの高出力

DP-24SDの基本構成だが、24トラック同時再生(12モノトラック+6ステレオ・トラック)/8トラック同時録音が可能。記録メディアにはSDカードを使用し、ビット&レートは最高で24ビット/48kHzに対応する。

トップ・パネルには19本のフェーダーを備えた再生セクション、8つの入力チャンネル、ロケーターなどが分かりやすくレイアウトされており、右上のコントロール・セクションでは各チャンネルのEQやパン、エフェクトをカラーLCDスクリーンで確認しながら操作できる。

では実際に操作してみよう。DAWと同じく最初は新規プログラムを作る。電源投入後にメニュー・ボタンから“SONG”を選択、さらに“CREATE”で新しいプログラムができる。デフォルトで入力チャンネルA〜Hとトラック1〜8はストレートにアサインされているので、トラックのRECボタンを押し、トリムつまみでレベルを調整するだけで録音の準備が整う。マイクとギターでヘッド・アンプの音色をチェックしてみたが、どちらもクセがなくナチュラルな音色でノイズも少ない。本機はトリムの増幅率が非常に高いので、離れた場所からオフマイクでアコースティック・ギターを録音してみた。この価格帯の製品にありがちな、トリムを上げていくといきなりレベルが上がってしまう嫌なポイントも無く、スムーズにレベル調整ができた。トリムを上げ気味なので部屋のローノイズが気になったが、入力チャンネルには3バンドのEQが装備されているので、ローカットすることで回避。入力チャンネルにはほかにダイナミクス系のエフェクトとしてコンプレッサー/ノイズ・サプレッサー/ディエッサー/エキサイターから1種類を選択して最大8系統使え、ドラムなどの録音時にコンプをかけ録りすることも可能だ。

録音時はモニターをヘッドフォンで行ってみたが、70mW+70mWとかなりの高出力なので、ほとんど半分以下のレベルで作業した。スタジオでドラムやギター・アンプなどの爆音を録音する場合も十分なモニター音量を確保できるだろう。

2系統のセンドや多彩なエフェクトを搭載
アンプ・シミュレーターが好印象

再生トラックも入力チャンネル同様に3バンドのEQとパン、位相反転、後述するインサート・エフェクトのオン/オフ、SEND 1/2の調整が可能。EQはハイ(シェルビング)/ミッド(ピーク)/ロー(シェルビング)で32Hz〜18kHzを補正し、効き具合/使用感共に良い。センドは2系統用意されており、SEND 1は内蔵エフェクトもしくは外部エフェクトへの送り、SEND 2は外部エフェクト専用の送りとなる。センドで使用できる内蔵エフェクトは1系統で、リバーブ/ディレイ/コーラスのいずれかより選択する。どのエフェクトの音色もよく仕上がっているが、リバーブは深めの“HALL”やアンビエント系がナチュラルな効き味で好印象。どのエフェクトもパラメーターが1画面の中に収まっており扱いやすい。

筆者が本機で一番気に入ったのが、インサート・エフェクトだ。1トラックにしか適用できないが、ギター用のマルチエフェクターが搭載されており、この音色が非常に良い。フェイザー/フランジャー/コーラス/トレモロ/オートワウ/ディレイからいずれかとコンプレッサー/アンプ・シュミレーター/ノイズ・サプレッサーで構成されており、中でもコンボ・タイプからスタック・タイプまでカバーするアンプ・シミュレーターの音色が良く仕上がっている。ひずませた際の音色はアンプでひずませたような派手めのオーバードライブ・サウンド。リバーブも別途装備されており、ギター・アンプならではのスプリング・リバーブを再現した雰囲気も良い。なお、このインサート・エフェクトは、録音/再生時両方でかけられる。

さまざまな機能を試しつつミックスが仕上がったのでマスター・ファイルを作成する。“MIXDOWN/MASTERING”ボタンを押して“RECORD”ボタンを押すだけで等倍の時間をかけてバウンスを行う。終わったらもう一度MIXDOWN/MASTERINGボタンを押すとマスタリング・モードに入るので、EQやコンプで最終調整を行う。最後に画面からノーマライズを実行すると、数秒で2ミックスのファイルが出来上がった。これまで操作してきたデジタルMTRの中でも、特に操作が簡単な機種と言える。

今回チェックして印象的だったのは、DAW録音と比べてセットアップの自由度が高かった点とフットワークの軽さ。USB経由でDAWとデータのやり取りも可能なので、リハスタでドラムやギター・アンプを鳴らして録音したものをDAWに戻すツールとして使うなど、新たな発見は幾つもあった。“宅録をやりたいがDAWは敷居が高い”と感じている人にも薦められる機材だ。

▲リア・パネル。左上より電源スイッチ、SDカード用スロット、USB端子、その下が電源端子、MONITOR OUT L/R(フォーン)、EFFECT SENDS 1/2(フォーン)、STEREO OUT L/R(RCAピン)、LINE/GUITAR切り替えスイッチ、MIC/LINE INPUTS A〜H(XLR/フォーン・コンボ) ▲リア・パネル。左上より電源スイッチ、SDカード用スロット、USB端子、その下が電源端子、MONITOR OUT L/R(フォーン)、EFFECT SENDS 1/2(フォーン)、STEREO OUT L/R(RCAピン)、LINE/GUITAR切り替えスイッチ、MIC/LINE INPUTS A〜H(XLR/フォーン・コンボ)

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年9月号より)

TASCAM
DP-24SD
オープン・プライス(市場予想価格:55,000円前後)
▪同時録音:8トラック ▪同時再生:24トラック ▪ビット&レート:24ビット/48kHz ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪外形寸法:514(W)×100.4(H)×336.9(D)mm(突起物を除く) ▪重量:6.2kg