「TASCAM VL-S5」製品レビュー:ケブラー・コーン・ウーファーを搭載した手ごろなパワード・モニター

TASCAMVL-S5
最近では低価格でも良く作られたスモール・モニターが数多く発売されるようになりました。同じシリーズのモデルの中でも、口径が大きいものより小さいモデルの方が使いやすい音だったりすることもあるくらいです。今回チェックするTASCAM VL-S5も、実売でペア3万円代半ばという、お手ごろな価格ですが、音はどうでしょうか? 早速テストしてみましょう!

コンパクトだが適度な重量感
低域/高域が独立したバイアンプを採用

本体を持ってみると、サイズの割に意外と重量を感じます。低域再生の面でも、スピーカーはある程度重さがある方が有利なので、期待できそうです。

スピーカー・ユニットには、低域に5.25インチのケブラー素材ウーファー、高域にソフト・ドーム・ツィーターを採用。それぞれ独立したアンプ(低域40W/高域30W)で駆動するバイアンプ構成です。背面にはバスレフ・ポートがあります。入力端子は、XLRとTRSフォーンをそれぞれ独立して用意。コントロール系は背面にボリュームのみというシンプルな仕様です。最近のスピーカーによく見られる音質補正用機能が無いということは、防磁構造と併せて、どこに設置しても十分な能力を発揮できるというメーカーの自信かもしれません。

大きさは、自宅でも大き過ぎず、ノート・パソコンの脇にも置けるサイズ感でありながら、“やっぱりこれくらいは欲しいよな〜”というくらいのサイズがうれしいところです。最近のTASCAM製品と並べても違和感の無いデザインだと思います。

宅録向け音量で中域が明りょうに聴こえる
指向性が広く設置環境にも左右されにくい

まず筆者のスタジオのスピーカー・スタンドに乗せて試聴しました。背面のボリュームをフルにして聴くとなかなか良い鳴りっぷりで、リスニングというよりはモニター的な音。低域はケブラー・コーンということもあってか、どちらかと言えばタイトな印象ですが、バスレフの効果で量感もあり、分かりやすい音です。低域の音程も分かります。本体の重量の良い影響がここに現れているようです。ただし、ローエンドの減衰、例えばROLAND TR-808系の長めのキックなどは、ちょっと短めに聴こえます。

一方高域はクリアで、変に誇張されておらず、耳当たりが良く柔らかめな音。音の粒も分かりやすい印象です。試聴機は新品に近い状態だったので、大きい音を出すと2〜4kHz辺りの中域に若干固い印象がありますが、通常の宅録環境の音量では、逆にそこが明りょうに聴こえるポイントになっていると思いました。最近は中域が引っ込んだ印象のスピーカーが多い中で、中域が分かりやすいのは特長ですね。

音像は全体的に“近い”感じです。それぞれの音がモニター的にはっきりしているので、リバーブ感は若干少なく、すべての音が並んでいる感じがします。しかし音楽制作においては、一つ一つの音が分かりやすいことがメリットになると思います。

音楽のジャンル的には、打ち込み系の音楽は特に良い鳴りっぷりをしていました。ロックなど、ちょっとコンプ的なサウンドの音楽にも良く合います。この辺は昨今の宅録事情を理解している音だと思います。高域が出ている音楽かそうでないかも、分かりやすく表現してくれます。

また、聴いていて好印象だったのは、指向性が広いところ。ある程度リスニング・ポイントがズレても印象がそんなに変わりません。この辺は設置場所を考える上でも楽なポイントでしょう。

次に、テーブルの上に設置して、背面の壁が近い状態でも聴いてみました。バスレフが壁に近くなるので、低域の回り込みが若干出てきますが、タイトな印象は変わりません。気になる場合はバスレフをスポンジやタオルなどでちょっとふさぐと、低域の量感が調整できます。

そのほかいろいろなところに設置して試聴しましたが、印象は大きく変わらず、置き場所を選ばないモデルという予想は正解。トーン・コントロールは付いていませんが、バスレフ・ポートと簡単なインシュレーター(10円玉でもOK)などで調整できる範囲でも効果的です。

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最近のスピーカーは第一印象が派手に聴こえるモデルが多いのですが、本機はモニター的に音をクリアに聴かせるというところを狙っているのは好印象でしたね。特に高域の音の違いがはっきり出るので、ぜひ店頭で聴き比べる際は、いろいろなジャンルの音楽を試してみるとよいでしょう。本機は一聴した印象が派手ではありませんが、あまり誇張しない堅実なモニター的な音を求めている方は、ぜひ聴いてみてください。この価格帯の中ではよくできているスピーカーだと思います。

▲リア・パネルにはXLRとTRSフォーンの入力端子を独立して用意。コントロールはボリュームのみのシンプルな設計だ。バスレフ・ポートはちょうどツィーターの裏側にあり、ポートからツィーター・ユニットがわずかに見える ▲リア・パネルにはXLRとTRSフォーンの入力端子を独立して用意。コントロールはボリュームのみのシンプルな設計だ。バスレフ・ポートはちょうどツィーターの裏側にあり、ポートからツィーター・ユニットがわずかに見える

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年7月号より)

TASCAM
VL-S5
オープン・プライス(市場予想価格:16,444円前後/1本)
▪アンプ出力:40W(低域)+30W(高域) ▪ユニット:5.25インチ・ケブラー・コーン+1インチ・ソフト・ドーム ▪周波数特性:60Hz〜22kHz ▪クロスオーバー周波数:3.2kHz ▪エンクロージャー形式:防磁型 ▪感度:200mV ▪入力インピーダンス:20kΩ(バランス)、10kΩ(アンバランス) ▪外形寸法:176(W)×255(H)×200(D)mm ▪重量:5.2kg