「FAW Circle 2」製品レビュー:独自のGUIでサウンド生成を行うソフト・シンセの最新バージョン

FAWCircle 2
信号の流れをケーブルを使わず、色で判読できてしまうというコロンブスの卵的発想のユーザー・インターフェースが話題になったFAW Circleが、久しぶりにバージョン・アップされました。パソコンやスマホで主流になりつつあるフラット・デザインをとっくに採用していたGUIも健在。より一層の使いやすさと音質向上に重きを置いた内容は、既存ユーザーならずとも要注目です。

オシレーターに新音源方式“VPS”を追加搭載

バージョン・アップにおける最初のトピックとして、サウンド・エンジンの刷新を挙げましょう。前バージョンと比較してみたところ、なるほど、基本的な質感(Circleの場合、非常にナチュラルな音だと思うのですが)はそのままに、全体的に密度が上がり、生々しさが増しているように感じました。特にオシレーター同士を掛け合わすFM変調で比較してみると、結構かかり方が違うので分かりやすいと思います。また100種類以上の波形から2つを選択し、波形間をモーフィングできるウェーブテーブル・オシレーターも1枚膜が剥がれたようで、一層音の厚みを感じることができます。 次のトピックは、オシレーターに追加された“VPS”(Vector Phase Shaping)です。なんでもアイルランド・メイヌース大学とFAWとのコラボにより開発された音源方式で、シンセに取り入れられたのはCircle 2が初めてとのこと。理論はさておき、質感を言えば、YAMAHA DX7のFM音源に非常に近いにおいがします。VPSには“horizontal”と“vertical”の2つのパラメーターがあり、これらを時間軸で動かせば、さまざまな倍音変化を生み出すことができます。これだけでも相当面白い音が出せますが、並列にVPSを並べてパラメーターを設定するとまさにDX7のようなガキュ~ンという金属的な音や、カ~ンという鐘系の音を奏でることができ、遊んでいたらあっという間に半日が過ぎ去ってしまいました。

現在の状況をすぐに判断できる モジュール接続が可能

こういったオシレーターを並べたり、VPSを組み合わせたり、あるいは一つのパラメーターに複数のエンベロープやLFOで変調をかけるという実験を即座に行える点がCircle 2の特徴です。Circleをご存じない方のために簡単に仕組みを説明しましょう。 まずオシレーターやエンベロープ、LFOなどのモジュールの左上には色のついた●マークがあります。この●をつかんで(ドラッグ)、対象となるツマミ下の◯にドロップすることで接続が完了します(画面①)。例えばエンベロープ(緑)でフィルター周波数をコントロールしたいなら、緑●をドラッグして、周波数ツマミ下の◯にドラッグすると◯が緑になります。◯にはアマウント量も表示されるので、パネルを見ただけで、“フィルター周波数にエンベロープが80%のアマウント(量)でかかっている”と判読できるのです。ケーブルを使うわけではないので、すべてのモジュールを接続しても画面はシンプルなまま。現在の状況が一目で分かるということは、現状を踏まえつつ何をどう動かせばいいか、あるいはほかにどんなモジュールを使えるかがすぐに判断できるので、圧倒的に音作りを速く、そして楽しみながら追い込むことができます。ここが従来のシンセには無いCircle 2独自の仕様なのです。

▲画面① Circleにおけるモジュールの接続方法。各モジュールの左上にある●マークをドラッグし、接続したいモジュールの○までドロップすれば完了する。接続された場所にはアマウント(量)も表示され、パネルを見ただけで現在の状況を瞬時に判断できる ▲画面① Circleにおけるモジュールの接続方法。各モジュールの左上にある●マークをドラッグし、接続したいモジュールの○までドロップすれば完了する。接続された場所にはアマウント(量)も表示され、パネルを見ただけで現在の状況を瞬時に判断できる

シンセ初心者の場合、いきなり音がじゃんじゃん作れるわけではないので、まずはプリセットが欲しいところです。もちろんCircle 2は音色保存が可能ですし、購入時にどっさりプリセットが付属してきますから、それらを読み込むだけでも楽しめます。さらにこの部分も少し改変されました。従来はプリセットの読み込みは“Sounds”画面から行うか、プリセット名をクリックしてリストから選択してましたが、新バージョンではclass>type>styleという具合に追い込む(つまり絞り込み検索)形式に統一され、フォルダーのカスタマイズなど編集はSoundsブラウザーで行えるように整理整頓されました(画面②)。

▲画面① Circleにおけるモジュールの接続方法。各モジュールの左上にある●マークをドラッグし、接続したいモジュールの○までドロップすれば完了する。接続された場所にはアマウント(量)も表示され、パネルを見ただけで現在の状況を瞬時に判断できる ▲画面② 画面トップの音色名からも可能になった検索機能。“bass”で“Hard”で“1980年代風”という具合に絞り込むことで合致する音色名を提案してくれる

ほかにもエンベロープのADSRへ個別に変調がかけられるようになったことで、サステインだけループさせるなどかなりマニアックなことが実現可能になりました。全体的には、よりグラフィカルになり、細かくブラッシュアップされています。お茶目な画面からオモチャなイメージを想起するかもしれませんが、プロも現場で使う実力派。Webサイトを訪ねれば“へぇ!あの音も作れるんだ”的な発見がたくさんあるでしょう。またクラブ系のアーティストたちと頻繁に意見交換を行っているようで、MIDIコントロールやOSCへの対応など外部機器との連携もよく考えられています。

おっと、もう一つ。価格が大幅に改定され、お安くなりました。これほどのシンセがこの価格で入手できることこそ、一番のトピックかもしれません。

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年7月号より)

FAW
Circle 2
16,000円(Circleユーザーは無償アップデート可能)
▪Mac:OS X 10.7〜10.9 ▪Windows:Windows 7/8 ▪対応フォーマット:Audio Units、VST 2.4(以上32/64ビット)、AAX Native(64ビット)、スタンドアローン ▪共通項目:INTEL Core 2 Duo 2G Hz以上のCPU、空き容量1GB以上のRAM、Core Audio(Mac)/ASIO(Windows)ドライバー対応のオーディオ・インターフェース、インターネット接続環境(インストーラーのダウンロード、およびオーサライズ)