「YAMAHA Mobile Vocaloid Editor」製品レビュー:Vocaloidとして“ほぼすべて”の機能が使えるiOSアプリ

YAMAHAMobile Vocaloid Editor
YAMAHAからiOSで動作するVocaloidアプリ=Mobile Vocaloid Editorが公開されました。iOS向けのVocaloidアプリとしては既にIVocaloidやVocaloWitterがリリースされていますが、小節数や音域などの制限により、本格的な楽曲の入力はできませんでした。しかしMobile Vocaloid EditorはVocaloidとしてほぼすべての機能が使用でき、歌声の複雑なエディットも可能になっています。

必要な機能が一画面に収まった
明快なインターフェース

まず初めに、付属ライブラリー「VY1 Lite」用のデモを開いてみました。複数のパートが表示され、コーラスやハモリの部分もしっかりと入力されています。IVocaloidなどでは複数のパートを重ねた楽曲を制作することはできませんでしたが、Mobile Vocaloid Editorでは16トラックまで歌声を重ねられ、さらに別売のライブラリーを購入すれば、複数のライブラリーによるデュエットも制作できます。

各パートの内部を見ると、画面上部にメロディと歌詞を入力できるミュージカル・エディター、画面下部にパラメーター・エリアとツール、トランスポートなどが並んでいます(メイン画面)。よく見るとアンドゥ/リドゥ、ミキサーの表示などVocaloid Editorには無かったボタンも幾つか表示されています。全体的な画面のレイアウトはVocaloid Editorと似ており、従来のユーザーは一見すればおおよその使用方法を把握できると思います。

次にライブラリーを再生してみましょう。発音のつながり方やパラメーターの効き具合などの細かな部分に違いはあるものの、聴こえてくるのはまさしくVocaloidの歌声です。ここで少し歌声のエディットをしてみます。音符の長さを指ドラッグで変更できたりパラメーターをフリーハンドで書いたり、操作は非常に直感的です。

音符の編集をしていてすぐに気が付いたのですが、画面を切り替えずに入力作業が行いやすいよう、必要なものがほぼすべて一画面に収められています。このようなモバイル機器向けのシーケンサーを幾つか使用したことがあるのですが、いずれも画面の切り替えなどの操作が煩わしく、簡単なフレーズの入力だけでもかなり時間がかかっていました。それに対しMobile Vocaloid Editorは、音符の選択はタップ、音符の入力はドラッグ、複数の音符の選択はロング・タップ、画面の拡大縮小やスクロールはマルチタッチといった具合に、ツールを切り替えることなくさまざまな操作を行うことができます。

ステップ/リアルタイム入力や
音声のレコーディングにも対応

Mobile Vocaloid Editorには従来のエディターに無かった新しい機能が幾つか追加されているので、それらも紹介していきましょう。

初めに紹介する新機能はステップ入力です。この機能を使用すると、画面上のキーボードや外部のMIDIキーボードで音符を素早く入力できます。キーボードをタップすると現在カーソルが置かれている部分に音符が入力され、自動的に今入力した音符の末尾にカーソルが移動します。つまり、キーボードを弾いた順番にメロディが入力されていくのです。休符を入れたい場合はカーソルをドラッグして移動させます。ピアノロールをタップして入力するのが苦手という方やキーボードを演奏しながらメロディを考えたい方には強くお勧めしたい機能です。場合によってはVocaloid Editorより手早く入力できてしまうかもしれません。

次に紹介する機能はリアルタイム入力です。先ほど紹介した画面上のキーボードなどを使用して、リアルタイムでメロディを入力できます。入力された音符はクオンタイズによってリズムを修正可能。鍵盤が苦手な方でも、先にリアルタイム入力によって音符のリズムや長さだけを決めておき、後から高さを変更していくといった入力方法を使えます。ノートのプロパティに関してもVocaloid Editorより強力になりました。音符の設定を8つまで保存しておき、いつでも呼び出せるので、よく使うビブラートやポルタメントの設定を瞬時に適用することができます(画面①)。自分で作成したビブラートの設定などを使用していた方は、大幅に作業時間が短縮できるでしょう。

▲画面① “ノートのプロパティ”のビブラートの設定画面。ビブラートの種類、ビブラート長、振幅と周期など詳細な設定が可能。ほかにダイナミクスやピッチ・コントロールなどの項目がある。設定は8つまで保存でき、ボタン1つで呼び出して適用することができる ▲画面① “ノートのプロパティ”のビブラートの設定画面。ビブラートの種類、ビブラート長、振幅と周期など詳細な設定が可能。ほかにダイナミクスやピッチ・コントロールなどの項目がある。設定は8つまで保存でき、ボタン1つで呼び出して適用することができる

最後に紹介する機能が音声の録音です。iOS機器のマイクを使用して音声を録音し、それをエディター上に直接張り付けられます。ギターを録音してそれに合うメロディをメモしたり、自分の鼻歌のメロディを聴きながらそれをVocaloidに差し替えたり、周囲で流れている環境音をバックにVocaloidを歌わせる、などといったユニークな活用法もあるでしょう。こちらの機能も、上手に使いこなせば作曲の手助けになるはずです。

Mobile Vocaloid Editorは単なるVocaloid EditorのiOS版というわけではなく、工夫された画面配置や新たに追加された機能などによって効率よく、そして簡単に入力ができるようになっています。このため、外出先でのちょっとしたメロディ・メモ・ツールとしても使えます。歌声の表現力もVocaloid Editorとそん色ありませんので、iOSで動作するDAWと組み合わせて使用すれば、iOSだけでボカロ曲を制作できるでしょう。皆さんもMobile Vocaloid Editorをさまざまな場面で作曲に生かしてみてください。

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年7月号より)

YAMAHA
Mobile Vocaloid Editor
4,800円(App Store価格)
▪iOS:iOS 7.1.2以上▪対応デバイス:iPad(第4世代)、iPad Air、iPad Air 2、iPad Mini 2、iPad Mini 3、iPhone 5s、iPhone 5c、iPhone 6、iPhone 6 Plus